表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
<R15>15歳未満の方は移動してください。

オリジナル駄文集と言う名のアイデアの種

風の民

作者: みずっち

少年は手汗を掻きながら操縦桿を握っていた。相棒である飛空艇を必死に操り、風の隙間を見極めていく。

弱冠十六歳のゴーシュは、目の前の切り立った槍の穂先のような山々を、剣山のような無数の奇岩の群れを、操縦桿にして数ミリという動きで凌いでいく。

本来ならば、この場所は通る必要が無かった。


――竜の谷――


勿論、この名称は正式な地名では無いが、この地域ではそう呼ばれている。

代々殆どの村人が飛空艇乗りを生業とするこの村では、このルートは試練の場所でもある。

複雑な地形が生み出すうねる様な風は、その凶暴さから「暴竜の巣」とも呼ばれ、幾人もの飛行士を谷底へと突き落としていた。

僅かでも操縦が狂えば、数百メートル下まで真っ逆さまだ。

それ故、ここを渡り切った飛行士は、相棒の飛空艇の名前と共に近隣の村々にも知れ渡り、英雄として称えられるほどだった。

ほんの少しの油断も許さない状況で、ゴーシュは死にもの狂いで、且つ冷静に飛空艇(シルバーホーク)を操り、風を捌いていく。

奇岩の群れが巨大な竜の咢に見える。

さっきから何回深呼吸をしているだろうか。脳裏に父親の言葉がリフレインする。


――いいか…風を捻じ伏せようとするな…風の流れを見極め、それに乗るんだ――


――常に冷静に周りを観察しろ…たとえどんな状況になっても…焦りと油断は禁物だ――


「分かってるよ…父さん…」

ポツリと呟いた少年の腕に、村人たち三十名余りの命が重く圧し掛かっていた。

「くそっ!帝国のヤツら、何で今更俺たちを…!」

ゴーシュの耳に苦々しげな悪態が飛び込んで来る。

壁を隔てた収容室で、ゴーシュの悪友(幼馴染)であるノットが悔しさをぶちまけていた。

血の滲んだ右肩を左手で押さえ、ギリリと歯噛みを繰り返している。

「お兄ちゃん、大丈夫?」

ノットの妹が心配そうに彼を見上げている。

「あぁ、こんな傷大した事ねえよ」

「ゴーシュお兄ちゃんと(ふね)大丈夫かなぁ」

「アイツなら大丈夫さ。何せジョルジュさんの…英雄の息子だからな。それより、ハンナは向こう行ってろ。皆と一緒の方が安全だ」

ノットは、まだ八歳になったばかりのハンナを、無理やり笑顔を作って遠ざけた。

「帝国の連中は鋼鉄製の(ふね)を作っているからな」

「これも鉄製とは言え、スピードや頑丈さでは到底敵わんぞ」

部屋の隅から大人たちのひそひそ話が聞こえてくる。

「ゴーシュで大丈夫かの?」

「うむ、いくらジョルジュの倅とは言ってものぉ…」

心配そうな老人たちの会話に、ノットの怒りが沸騰しかけた。

「何を言っておる」

爆発寸前で老人たちに声を掛けたのは、村の長老だった。

蓄えた白い髭を手で撫で付けながら、老人たちの会話に割り込む。

「おぉ、長老様」

「この中に、ゴーシュより腕の()い飛行士が()るのか?」

「そ、それは…」

「それにゴーシュなら大丈夫じゃろうて。あやつでダメなら、誰が操縦しても変わらんよ」

呵呵と笑う長老の一喝で、老人衆が黙り込んだ。

現在の村長も幼い頃から世話になった老人で、この村では一番のご意見番だ。

一頻り笑った後、長老がノットにちらりと視線を向ける。

口元がふっと上に持ち上がるのをノットは見逃さなかった。

わざと見せたのだろう。

どうやらこちらに気を使って先手を打ったらしい。

思えば、この長老様には、小さい頃から色々目を掛けてもらっていた。

ノットがゴーシュを連れてあちこち悪戯をした時も、二人が喧嘩をした時も、周りの大人たちは怒る人が大半だったが、この長老様は今回と同様に呵呵大笑して頭を撫でてくれた。

六年前、ジョルジュが竜の谷に墜落して行方不明になった後、ゴーシュの一家の面倒をみてくれた。

悪ガキだったノットも、この御仁には頭が上がらない。

ノットは照れ臭そうに俯き、誤魔化すように飛空艇後部の窓を向いた。

その時、彼は雲の向こうに巨大な影を見た。

「なっ、何だありゃあ!?」

ノットの叫び声が室内に響き渡る。

それはまるで、伝説や神話でしか聞かないような巨人の如き威圧感だった。

その巨躯に雲が押し退けられる。

飛行戦艦・ヘカトンケイル。

帝国の作り上げた巨大戦艦(ギガントクラス)の中でも指折りの大きさだ。

胴体には、他の艦に倍する数の砲門が付いている。その一つ一つが、中級の艦(タイタンクラス)では主砲に匹敵する、名前通りの百門巨艦(ヘカトンケイル)である。

ノットの叫びに、村人たちが後方を注視する。

その時、戦艦の胴体から、パラパラと一人乗りのグライダーが十数機射出された。

恐らく追撃部隊だろう。村人たちが慌てふためく。

だが、ゴーシュは冷静だった。襲い掛かる竜たちを繊細かつ大胆な操縦で捌いて行く。

そして喧噪の最中、長老だけはそれを見てニヤリと笑った…。





巨艦(ヘカトンケイル)の艦長席に、一人の男が座っていた。

中肉中背、羽織った軍服には星が散りばめられた襟章が光っている。

「全く、本国は何をやっているのだ…」

壮年に差し掛かった男の両眼には、周囲の者を射殺すような光が備わっていた。

そんな男が苦々しげに悪態を吐いた。

彼の目の前には、帝国中央からの指令書が置かれている。

「あんな辺境の村の生き残りたちを皆殺しに…しかも始末するのにこんな戦艦(ギガント級)など…一体何が有るのだ?」

「アイゼンヴァルト閣下、目下異常は有りません!」

「おう、ご苦労さん」

一兵卒の定時連絡に対し、投げやりに手を振り、再び腕を組んだ。

その男、リーグ・アイゼンヴァルトは歴戦の勇士らしい強面の顔を歪め、苦虫を噛み潰す。

自分は軍人だ。階級は中将で、この艦の中では「閣下」だの「将軍」だの呼ばれている。

それ自体は立場だから別に構わないし、軍人である以上、帝国(うえ)の命令ならこんな事(汚れ仕事)でもやる。

だが――。


余りにも規模と戦力差(費用対効果)が違い過ぎる。その上、理由が見えない。

相手は代々飛行士の村だ。中央からすれば、国境付近の辺境にある、何処にでもある村の一つだ。

しかも、元々の人数は百人を超えないと言う。

そして今回追っている生き残りは三十人余り…対してこちらは千人を超える規模でこの巨艦(ヘカトンケイル)に乗っている。

無論その殆どが航行の為の人員なのだが。

それにしたって、全砲門を使えば、飛空艇一隻どころか、流れ弾で地上の村々まである程度灰にする事が出来るだろう。

こいつ(百手の巨人)はそれこそ戦争の最前線に投入するべきではないか?

冷静に考えればおかしな話だ。

そもそも軍は国を守るのが使命の筈だ。

帝国に牙を剥く不穏分子の排除はやるが、報告によれば彼らは至って普通の民らしい。

胸の奥底に、言い知れない蟠りが居座る。

それでもこの将軍は、良くも悪くも軍人である。上層部の命令なら致し方無い。

ふう、と溜息を吐き、首を振った。

「まぁいい…さっさと終わらせて首都()に帰ろう…」

嫌な仕事(・・・・)…ですか」

彼の呟きを聞いた副官が苦笑する。

「分かるだろう、ジム」

「えぇ、まぁ…気分は良くならないですね」

脇に控えた青年は、指令書に目を通して少し困ったような苦笑いを保った。

二十歳を越えたばかりの特務少佐、ジェームズ・ラインフォートは指令書から上官(将軍)の方に視線を移した。

この人の下に付いてそろそろ半年が過ぎる頃か。

最近、表情の機微が分かる様になって来た気がする。本当に嫌そうだ。

「しかし、私にそんな事を話して宜しいんですか?」

「あぁ?上への報告か?それが君の仕事ならやりたまえ、好きにしろ」

手を顔の横でヒラヒラさせ、投げやりな口調で言い放つ。

このやり取りはこれが最初では無い。もう何回もしてきた建前上の物だ。

相変わらず剛毅なお人だ。

自分が監察部の者で、リーグを監視する役目だと知っていてこの物言いだ。


『特務?監察部か。その歳で少佐か、なるほど。まあお前が何者だろうと関係無い。帝国に忠誠を誓い、有能で有れば使う、それだけだ』


着任早々リーグにそう言われ、初日から普通の少佐(・・・・・)として仕事を与えられた。

通常ならば、監察部の人間は現場の軍人からは毛嫌いされる。

新人の場合、部隊内で冷遇されるか抱きこまれるか、或いは不慮の事故死(・・・・・・)を遂げるか。

だが、この男はそれをしなかった。

自分の秘書として連れ回し、普段の振る舞いの全てを彼に見せた。

正直、ジェームズはこの中将閣下が嫌いでは無い。

言動は荒っぽいが、部下の意見を吸い上げ、上層部の命令にも意見をし、常に引き際を見極めている。

今回も、ジェームズの苦笑いは穏やかな微笑に変わった。

取り立てて報告するレベルでは無いと判断したためだ。

さて。

リーグに対し、再び監察と言う名の観察を始めようか。

当面の問題としては、中将閣下が飽きてきた事だ。確実に乗り気でない事案だからだろう。

ぶすっとした顔で不満げに腕を組んで、外の景色を睨み続けている。

一兵卒からすれば、それは歴戦の勇士の並々ならぬ集中にも見えるのだろうが、半年付き合ってきた彼には丸分かりだ。

この御仁は、生粋の兵士だ。戦場で指揮を執る方が性に合っているのだろう。

もっと言えば、前線で戦いたいのだ。

「何だ?また『退屈に思っている』とか言いたいのか?」

「違うんですか?」

「正解だよ…退屈極まりない…欠伸が出る…」

わざとらしく背伸びをするが、それでも任務放棄(丸投げして退室)しない辺り、やはり軍人だ。


「閣下!」

「あん?どうした」

レーダーを見張っていた兵士が慌てて叫ぶ。

上司が片眉を上げたのを見て、青年はまたも苦笑いを浮かべた。

退屈を吹き飛ばす何かが発生した事を期待し、無理やりに好奇心を抑え付けた時の癖だ。まるで子供のようだ。

「十一時の方向に影を捉えました!距離はおよそ一キロメートル!恐らく飛空艇と思われます!」

兵士の報告に、リーグの貌が変わった。

退屈で死んだ魚の様だった目がぎらつき、獲物を見つけた肉食獣の様に光る。

「雲の向こうか…と言う事は…」

「えぇ、現地の住民が『竜の谷』と呼ぶ場所です」

報告資料をジェームズから受け取り、内容を記憶と照合する。

あそこは地形の関係上、風が年中荒れている。地元の飛行士であればそれは知っているだろうし、そこを通るのは自殺行為の筈だ。

恐らく、安全な航路はこちら(帝国)が既に押さえていると予想したからだろう。

実際その通りだ。

「網に掛かったか」

「では…」

だからこそだ。

「あぁ、追撃部隊を出して追い込む」

「了解しました」

当初の予定通り、リーグの意を受けたスタッフたちが各所に指令を伝達し出した。





収容室の雰囲気とは裏腹に、ゴーシュは至極冷静だった。

まるで飛空艇と一体化した様な不思議な感覚だ。

飛空艇の外の状況が、手に取る様に分かる。

今のゴーシュには、僅かな気流の乱れも把握出来ていた。

そう、後ろに巨大な塊が接近している事も、幾つかのグライダーが迫っている事も。

風の微妙な変化を介して、彼には感じられたのだ。

手元の操縦桿や周囲の計器類を自分の目とし、飛空挺をまるで自分の手足の如く扱い、暴れ狂う竜たちの猛突進をいなす。

周りを飛んで来るグライダーたちの巻き起こす僅かな揺らぎすら掌握し、捌いていく。

感覚的に飛空挺と一体化した彼に取っては、十数機のグライダーがウルサイ蝿に思える。

そのぐらい、巻き起こす揺らぎが感知出来るのだ。

それにしても、周りを飛んでくるグライダーたちは風を読めないのだろうか。

どうにもフラフラとして不安定だ。これではいずれ暴れ回る竜に食われるだろう。

現に今も一つ谷底へ落ちて行った。

とは言っても、他人の心配をする余裕は無い。こっちも必死だ。

何せ、襲い来る無数の竜(暴風)を躱し続けなければならない。

正面から来る風を避け、右前から来た竜の上を通り、左から迫る奇岩を数メートルの距離でやり過ごす。

ゴーシュは必死に、大胆に、且つ繊細で冷静に、それらの全てを捌いて行く。

まるで安全な航路を既に知っているかの様な操縦でシルバーホークを導く。

だが、その全ての経路が、ほんの僅かなタイミングの差で危険なポイントに変わるのだ。

ゴーシュは右に左に、時に速度さえも調節し、風と岩の壁を切り抜けていく。

何時の間にか、収容室からはゴーシュに対する文句が聞こえなくなった。

時折、傾いた瞬間に子供たちの悲鳴が聞こえるが、それ以外は静かである。

真正面から力ずくでは、この飛空艇など一溜りも無い事は分かっている。

だからこんな複雑なルートを通る必要が有る。

そして、それが分かるからこそ、収容室の老人たちは、今は沈黙しているのだ。

その技量(レベル)がどれほど果てしない高みに有るかを、周りの若い衆よりも熟知しているから。

収容室が右に左に傾き、皆で必死に支え合うが、誰一人として文句は出ない。

苦情を言った所で詮無い事であるし、そもそもゴーシュ以外は竜の谷を渡れないだろうと皆了解している。

状況が状況なだけに、皆一様に押し黙っていた。


何分経ったのか、やがて険しい竜の牙が途切れ、目の前が開けて来た。

暴風も少し弱まって来た様である。

収容室の何人かはほっと安堵の笑みを漏らす者さえ出て来たが、ゴーシュは相変わらず集中していた。

まだだ。まだ出口に差し掛かっただけだ。

向こうの平原や村は見えているが、油断は出来ない。

嘗て父親は言っていた。『最後に強烈な吹き返しが来る事が有る』と。

安心した所に竜の最後の一撃が叩き付けられるのだ、と。

加えて背後の気配も不気味だ。

あれだけの巨体なら航空部隊も沢山入れられる筈なのに、あれ以来他の追撃部隊を出して来る様子が無い。

止めを刺すつもりなら砲撃を浴びせて来ても良い筈だが、それも無い。

まるでこちらを観察している様だ。

しかし、仮にそれでプレッシャーを与えているつもりだとしても、ゴーシュは崩れたりはしない。

集中力は衰える事は無く、シルバーホークは風を捌き続けていた。





艦長席に座ったままのリーグは、その報告を聞いてニヤリと笑った。

ジェームズはその様子を見て溜息を吐いた。呆れて物も言えないと言った風情だ。

今しがた入った情報では、彼の飛空艇は無事に竜の谷を渡り終えたらしい。

「…閣下、宜しいんですか?」

「構わんさ」

リーグはふん、と鼻で笑い、忠告を一蹴する。

この会話には二重の意味が有った。

標的を見逃して良いのかと言う事と、これを上層部に報告しても良いかと言う事だ。

ジェームズは両方の意味で聞き、リーグは正確にその言わんとする所を捉え、答えてみせた。

「考えてもみろ。あれほどの腕を持った飛空艇乗りが、今の帝国軍に何人居ると思う?」

「まぁ確かに惜しい才能では有りますが…」

追撃に出した十数機のグライダー部隊は、帝国空軍の中では上位に入る連中ばかりだ。

彼らが落ちた暴風を、あの飛空挺の操縦士は切り抜けてみせた。

「あれをみすみす殺す手は無い」

懐柔するなり脅すなりして空軍に雇い入れる方が、何倍も帝国のためになる。

ニヤリと笑ったリーグは腕を組んで力説した。その眼光は鋭くぎらつき、さながら獲物を捉えて離さない猛禽類の様だ。

「ジム」

「はい」

中央(うえ)の動向は分かるか」

「…探れと?私に言いますか?」

寧ろ自分はそれを中央に報告する立場だ。それを逆スパイしろとは。

「無理なら構わんがな……どうにも気になる」

前半は分かりきった様に吐き捨て、後半は思案する様に顎を撫でながら発した。

「…分かりました。少し聞いてみますよ」

ジェームズはため息混じりに、少し投げやりな態度で了承した。

「さて…では、首都()に帰るとするか」

それを合図に、全作業員が慌しく動き出した。

空飛ぶ巨人(ヘカトンケイル)は大きく旋回し、地上から生える竜の牙に背を向ける。

後ろから聞こえて来た轟々と言う音は、まるで竜の咆哮の様に思えた。





地上に降りてやっと肩の荷が降りた。

ゴーシュはヘルメットを取り、ふう、と息を吐く。

「ゴーシュ!」

「あぁ、ノット!」

駆け寄りハイタッチを交わした。

「そう言えばお前、怪我は大丈夫か?」

「ああ、こんぐれーどうってこたぁねぇよ」

「お兄ちゃんずっと痛そうにしてたじゃない」

「おいてめ、いててて」

ノットはハンナに傷口を突っつかれて悶える。

大丈夫じゃ無さそうだが。

「それだけ元気が有れば大丈夫じゃろうて」

「いやマジで痛ぇっすよ」

長老はノットの必死のアピールを無視し、ゴーシュの方に歩み寄った。

「ゴーシュ、良くやったの」

「いえ…必死でした」

ただひたすら風を捌いていただけ。ゴーシュはそう言って首を振った。

もし砲撃などされていたら、と思うと空恐ろしくなる。

「それでもお前さんはやってくれた。それでええじゃろう」

それが事実だ。ゴーシュが操縦し、皆を救った。それで良い。

長老はゴーシュの頭を撫でて労をねぎらう。

「それにしてもよぉ、軍の連中はこっちまで来ねぇのかな?」

「ふむ…確かに妙な話じゃが…」

「まさか人や燃料が足りねえとか…んな訳無えか」

流石にそれは有り得ないだろうとノット自身も否定した。

何か事情でも有るのだろうか。

まぁこんな所で唸っていても詮無い事であるし、取り敢えず助かったのだから良しとしよう。

「ところで長老様、これからどうするんですか?」

「そうじゃのぉ、まぁ大体は決めてあるが…」

ゴーシュに聞かれた長老は、ノットに言って皆を呼ばせる。

長老と村長を中心に大人達が集まり、話し合う場が設けられた。

とは言え、船内で或る程度の話し合いは行われていたため、年寄り連中の議論はゴーシュの思う程には紛糾しなかった。

飛行士の村は竜の谷を越えたこちら側にも有るので、その近くに一時的に住まわせてもらい、帝国の動向を見守る。

先ずはそこからと言うのは皆一致した意見だった。

途中、老人連中が「帝国中央に睨まれている儂らを受け入れてくれるか」などと騒ぎ出したが、ノットの「ゴチャゴチャうるせえ」の一喝で鎮静化した。

やってみなければ分からないと言うゴーシュの援護に、村長と長老様が乗っかり、結局、村長の鶴の一声で方針が決まった――。







帝国の首都からゴーシュの元に召喚状が届いたのは、それから数か月後の事だった…。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ