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08話 「電波来いや!」

「んじゃこれがおめーの着替えと布団だ。何かあったらエオリに色々聞くと良い。じゃあな」


村に付いての決まり事や部屋の使い方を一通り説明し終えたニーレキのおっさんは短く挨拶をして部屋を去る。

そして扉が閉まると同時に腰掛けるベッドが別の重みを受けて、軋む。


「……何か困った事があったらぁアタシになぁんでも頼って良いからね? んふっ♪」


その言葉に顔を向ける衝動さえ死に、甘みを含んだ声色にサブイボが肌の上で満開する。

そして青髭天使は俺の髪へ鼻息混じりの吐息を吹きかけ、膝の上の手へそっと触れて―――


「夜は寒いから……」


「ご遠慮しまぁああああああああああああああっ!!」



耐え切れなくなった俺は与えられた相部屋から早くも逃げ出した。







---







「……あのおっさんぜってー面白がってエオリと同じ部屋にしただろマジ」


はぁ、と深い溜息を吐いて俺は行く宛ても無い足でトボトボと村の中を歩く。


オカマと相部屋とかバツゲームどころかデスゲームじゃんけ。何でこんな事に……。

しかし思わず逃げたのは良いがどうしたもんか。

かと言って戻る訳にもいかねぇしなぁ。


「ちょっと村の中でも見て回るか……」



俺は気晴らしも兼ねて村の中を見て回る事にした。

まぁおっさんの説明で村の外に出なきゃ良いって話してた覚えあるし、

村の中ならほっつき歩いても大丈夫のハズだ。

そして俺は観光地の建造物を見て回る調子で夜の村の中を歩く。

夜のせいではっきりと見えないが、色合いからして目に付く家は全部が木造だ。

パっと見の印象、少々形の不出来なログハウスって感じかな。


そんな観察をする中、明かりが煌々と灯る建物が目に付く。

いくらか騒がしい声がここまで聞こえ、時折笑い声も混じっている。


「あそこは食堂だっけ。こんな時間に何やってんだ……?」


そして俺は街灯に惹かれる蛾の様に食堂へ向かった。




「おお? どうしたどうしたボウズ!」

「ん~? もしかしてエオリの奴から逃げてきたか? ギャハハハ!」

「お前も災難だったなぁ~。なぁに最初は大変だろうがじきにすーぐ馴れっからよ! 色々とよ!」

「おめぇそっちは慣れたらやべーだろ!」

「ちげぇねぇ! ブハハハハ!」


食堂の中へ首を突っ込めば木製のカップを片手にゲラゲラとお笑いしながら談笑を交わすおっさん達の姿が。

おいおい……結構良い時間な上、罪人なのに酒なんて飲んじゃって良いのかよ?

しかもシモ話をツマミに酒を煽るとは流石おっさん達だな。

―――つっても29の三十路手前の俺が言うのも変な話ではあるが。


「お前も飲むか? おーいトワ! こっちにもう一杯くれやぁ!」


「へ? あの、自分はちょっと」


酔っ払いに盃をすすめられて俺は戸惑う。

酒を飲む気分じゃないってのもあったが、色々あって誘われた晩飯も食ってないので空きっ腹も良い所なのだ。そんな状態で飲めば確実に明日死ぬし、酔っぱらって何をしでかすかわからん自信がある……。


「なぁんでぇ付き合い悪いじゃねぇか」


案の定、おっさん達は断りの言葉に口をへの字に曲げていた。


「す、すみません俺、今酒飲めなくて―――」


「なぁーに言ってんだあんちゃん。これは水よ水!」

「酒なんて高価なもん飲める訳ねぇだろ?」


また大爆笑を始めるおっさん達のコップの中身を見ればいくらか濁った……ただの水だった。

確かに食堂内には酒臭さが一切無く、ツマミに出てるよくわからない物の匂いしかしていない。

てかアンタら素面でこんな馬鹿騒ぎしてるのかよ。


「まぁボウズもこんな場所に来て整理が付いてねぇんだろ。もし一人になりてぇなら外のでっけぇ棒のとこに行きな」


「棒……っすか?」


「ああ。魔物が寄り付かねぇ様に立てられた標っつーヤツなんだが、その辺りは見晴らしが良いから独りになるにゃ持って来いだぜ」

「村に魔物が寄ってこねぇのはそれのお陰ってワケだ」


そう言えばそんな話があったなとぼんやり思い出す。

ちょっとそっちに行ってみるかなぁなんて考えてるとパタパタと騒がしい足音がこちらへ。


「お、お待たせしましたぁです!」


活気のある声と一緒に目の前へ並々と水が入ったコップがドン! っと置かれる。

そして俺はおっさん達と目が合い、互いに沈黙する。


「あれ。お水ってここじゃ無かったですか?」


「すまねぇトワ、そいつぁ―――」


「ああサンキュ。それ俺の」


おっさんの言葉を遮って俺はコップを受け取り、トワへおもむろに笑顔を向ける。

……まぁ、水なら飲めるから貰うとしよう。折角くれた物を断るのも悪いしな。

自分は宴会で乾杯をする調子でコップを軽く掲げ、「いただきます」の言葉と共に一気する。


「…………っぷ。ごっそうサマ、うまかったよ」


空きっ腹の胃にコップ一杯の水は結構なボリュームで思わずげっぷが小さく零れる。

いくらか泥臭くジャリジャリした後味? ではあったが、この世界に来て初めて口にした水は悪くなかった。

そして俺は挨拶を終えると満たされた腹を軽く擦りながら標とやらへ向かう事にした。







---









「多分、これだよな?」


ところどころ鬱蒼とした草木を掻き分けながら獣道の様な場所を通って目的地へ辿り着く。

見上げた先には木々より高い、ぶっとい丸太みたいな建造物が悠然と佇んでいた。

おもむろに近付いてペタペタと触ってみるとひんやりしてて、ザラ付きのある感触はコンクリに似ていた。

誰かが手入れしているのか辺りには草木が殆ど生えておらず、その周辺だけ芝刈りでもしてる様に綺麗だ。

魔物を寄せ付けないようにしてる物って話だったし、誰か管理してるんだろうなと思いつつ辺りを見回していると木々が開けた場所を見つける。

その先はなだらかな平原が広がっており、風に靡く草は良く手入れされた犬の毛の様に艶を放ちながらそよぐ。

月明かりを受けて淡色を見せながら光る光景は幻想的で気付けば呆然と眺めていた。


「おー……スゲぇ」


そんな言葉を零しながら近くにある岩へと腰掛けた。

ただ眺めているだけなのに目の前の美しい光景は俺の心の中のモヤモヤを洗い流し、落ち着かせてくれる。

良いねこう言うの。

何の変哲もない光景だが、どうしてか感動と共に安らぎを覚える。

冬場に薪をくべるだけの番組があったんだが、それと似た安らぎを覚えるな。


「よく見ると月も違うんだなぁ」


幻想的に辺りを照らす欠けた月を見てそんな言葉が出る。

月の光は黄色身を帯びた物では無く、水色を含んだもので大きさもいくらかデカい。

そう言えば衣服一つにしろ、そこらに生えている草一つが見知っている物と違ったな。

そしてそんな事を思い返しながら同時に元の世界の事が気にかかる。



「田村のヤツ大丈夫かね。変則で1時から仕事だったし、俺がやられた後くらいに店に来てるよな」


この世界に界客そとびとと言う名称があるって事は昔から俺みたいに飛ばされた人間が結構な数来ている可能性が高い。

条件はわからんが自分のケースで考えると死ぬ事でこの世界に来るのだとしたら、その数はかなりなのだろうが……そうなるとここは死後の世界か?

しかし死後の世界って言うには違和感なんだよなぁ。

あの世であるなら何故「生きている」と言う概念がこの世界の人間にあって、食って飲んでと生前と変わらないサイクルが存在するのか、と疑問が浮かぶ。


「だーめだ。わっかんねぇ―――うおうっ!?」


物思いに更ける俺は腰辺りの振動にビビり、声を上げてしまう。

そしてそれが何なのかすぐにわかった俺は右の腰ポッケに手を突っ込んで震えているソレを取り出す。


 「スマホのバイブか……焦るわ!」


そう言えば夜勤の目覚ましを21時半にセットしてたの忘れてたわ。

電源入れっぱなしなんだからそりゃ鳴るわな。

そして目覚ましを止め終った俺はスマホ画面を眺め、


「まぁ当然圏外ですよねぇ」


わかっていた事を今更ながら呟く。

同時にその事実は夢ではないと告げる材料の一つとなり、別の世界に飛ばされたと言った事を確かにする。

理解は出来てもナカナカ納得には至れず、俺は未練がましくスマホをいじっていると着信履歴が一件ある事に気付く。


「タムラから? しかも10月15日って今日じゃんけ」


え。どう言う事?

もしかして田村もこの世界に?

いや、もしかしたらここが電波入らないだけでどっかで入っちゃったり?

俺は荒ぶる動悸を堪えながら着信履歴をタップし、詳細を見る。



―――2016年10月15日 0:08 不在着信


「俺ぶっ殺されてすぐじゃねーか! 期待させんなよぉおおおっ!」


あの野郎、人をぬか喜びさせやがって。

今度覚えてろよ……つってもアイツもこの世界に居るかわからんが。

だがもし再会出来たとしたら覚悟しとけよ? 全力でジャーマンしてくれるわ。

つってもデケぇアイツを持ち上げられる自信ないけど。


「はぁ~あ……全くよぉ。まぁソシャゲも無理っすよね。『電波状況を確認し―――』とか喧しいわ電波来いや!」


八つ当たりよろしくにソシャゲや履歴を弄りまくる。

どれもこれも繋がる訳も無く、唯一起動したのは『にゃんにゃん! ぬこ集め』と言うアプリ。

ごはんをセットし、庭先に集まってきたネコミミっ子をただ眺める……と言ったゲームだ。


「ああペルシャっ子ちゃん可愛いな~。三毛たんも相変わらずキュートですねぇ」


現実逃避をしながらごはんで集まっている猫娘をタップして遊ぶ。

ペルシャっ子ちゃんはソファーの上で優雅にお昼寝し、三毛たんは猫じゃらしに飛びかかってじゃれている。

デフォルメされたネコミミっ子達はタップされるとビックリしてぴょんこぴょんこと跳ねて……可愛いなと思うと同時に虚しさが頬を伝う。


「―――もうやめよ」


俺は年甲斐も無く、鼻をすすってアプリを終了する。

うん、充電する方法も無いし終わろう。そうしよう。

虚しさを押さえながらそう自分へ言い聞かせ、スマホの電源を落そうとボタンを押すと同時にウィンドウが表示される。

さっきアプリ弄りまくってたせいだなとウィンドウを閉じようとし、その内容に俺は固まった。



『ソーマに於いての電子記録、精神記録を全てアルセーマへ反映致します。 /OK』

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