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07話 「だからおめーにゃ」

「じゃあ改めてこのテイズキで新たな住人となった……えーっと、おめぇさん名前は?」


ひと騒動が終わり、いくらか落ち着くと自己紹介をする流れに。

しかし何を言えば良いのだろうか?

エプロン騒動のせいでテンションだだ下がりなんですが……。

とりあえずまぁ、短く挨拶して済ませるか。


「あー、界客そとびと加苅カガリ サトルって言います。よろしく」


他に言う事も無いし、こんなもんで良いだろ。

すると興味無さげに傍聴を決め込んでたおっさん共の何人かがテーブルの上に身を乗り出す。

そして熊ゴリラのおっさんと小動物な少年も「あ……」と小さく声を漏らして頬を軽く掻く。

え、もしかして俺変な事言った……?


「そ、そそそ界客そとびと! 界客そとびとぉぉお!? おいおいおい! コイツを貴族連中に差し出せば大金が貰えるか刑期減らしてくれるんじゃねぇか!?」


「まじかよ! こいつぁツイてるぜぇ!」


男共はどっかのモヒカン野郎みたいに「ヒャッハー!!」なんて声を上げて大喜び。

しかし熊ゴリラのおっさんを始め、オカマたちは冷めた目で見つめる。

そしておっさんはワザとらしく溜息一つ吐いている。

色々ツッコミたいとこあっけど、とりあえず……


刑期って、何?



「黙れやバーバン。それで先月見つけた界客そとびとを引き渡して何か良い事があったか? 刑期が減ったか? 

して貰えたのは発見者のマリバンたちが『質の悪い界客そとびとを渡しやがって』と難癖付けられた挙句、セプジェスターにぶっ殺されたくらいだろうが」


「そ、そういやそうだった……わりぃ」


その一言にモヒを始め、大はしゃぎしていたおっさん共はしょんぼりと着席する。

更に突っ込み要素満載な内容が飛び交ってたがとりあえず……。


「あのスンマセン。ちょっと聞きたいんすけど……刑期ってどう言う事っすか?」


俺は恐る恐る挙手をしながら発言する。

場に居る連中が一気に顔をこちらへ向けてじっと直視してくる。

その光景は懐かしのHRを彷彿とさせる。

そして沈黙が続いたかと思えばおっさんがはたと声を上げ、


「ん? ここに居る連中全員、旗名を奪われるほどの大罪人だって言っただろうが」


「ちょっ、全く全然そんな話は聞いて無いんデスガ!? てか旗名って何!?」


「えっとニーレキさん。多分この方にちゃんと説明してない気がします、です」


「おう? そうだったかわりぃわりぃ! 簡単に説明すっとこの村に居る連中全員が色々と訳ありの罪人だ」


「全員? こ、こいつも……?」


おっさんの言葉に少年へ指を向ければこくりと頷いて返される。

嘘だろ……。

周りの連中は飢饉の最中バイク走らせて老若男女から情け容赦なく食糧奪い取る様なツラばっか。

なので罪人とか言われても納得出来るが……こんな子供までマジかよ。


「ちなみに何をやったんだ……とか聞いても良いか?」


こんな虫も殺せ無さそうな少年がどんな事をやらかしたのか、と沸いた興味がそう尋ねる。

本当は聞かない方が良いのかもしれない

しかしここで生活するなら聞いておかないとなぁ、なんて事を言い訳がましく脳内で並び立てていた。


「えーっと……わ、笑わないで下さいね?」


「お、おう!」


少年から念押しをされて大きく頷いて返す。

流石に人殺しとかはしてなさそう。

となれば窃盗とかしてて捕まったとかそんな感じだろうな多分。


「ぼくはとある領地のお姫様へ好意を寄せた事がありまして……それで領主様のお怒りを受けて罪人になった、です」


「―――――――え、何て?」


「そう、そうなのよ聞いてっ! この子はアタシと同じなの! 

トワちゃんは身分の違う相手へ恋い焦がれた結果、翼を焼かれた哀しみを背負った天使……堕天使なのよっ!」


「おめーにゃ聞いてませんが!?」


青髭天使はトワを抱き締めておいおいとまた泣き出す。

ちょっと待てよ。

お姫様好きになっただけで罪人街道一直線ってどんな世界だ。

でも身分の違いでって考えれば当たり前な話なのか……?



「ちなみに他の方々の罪状内容をお聞きしても?」


「俺は仕事中、貴族の服にちょっと泥飛ばした」

「王族に納品したリンゴの中に一個傷んだもんが混じってた」

「顔が怖いからって」

「臭いから言われたわ」

「俺を見た貴族の子供が泣き出したから」

「アタシは男爵連中を手当たり次第ちょっかい出したらこんなトコに。ほんと心が狭いわよねぇ~」



「だからおめーにゃ聞いて無いって! つーかさっきと少し内容変わってね!?」


30人近くのおっさん達が述べる話はどれもこれも大した事の無い内容ばかり。

泥はねはわかるとして、顔が怖いとか臭いとかどんな犯罪だよ。

てーか大罪人とか豪語しといて全員無罪放免レベルじゃねぇか。


「あの、どれもこれも罪と呼ぶにゃショボ過ぎね? 言いがかりレベルだろ」


「そんな事はねぇ。

どいつもこいつも貴族や王族から不必要とされ、家を示す旗名まで奪われ『物』と変わらない扱いを受ける落ちぶれもんだ。

故郷にも親にも顔向け出来ねぇロクでなしなのさ。俺も含めてな」


要するに身分の高い人間の反感を買った結果、この村で生きる事になったって話か。

そうか……皆大変なんだな、なんて思ったと同時にはたと別の事実に俺は気付く。


「ちょいまち。それで考えると俺はそんな貴族連中の機嫌損ねる事してねーんだし、この村に居んのはデメリットしか無くね!?」


この世界が理不尽な問題が蔓延る世界だと言う事はわかった。

しかしだからと言って自分までその汚名を自ら被って生きる必要性は無い。

他にやりようがあるだろう。


―――だが、そんな言葉を吐いた俺へ向く眼差しは依然変わらず。

いや、むしろ憐みが一層したと言った方が正しいかもしれない。


「言い忘れていたが、界客そとびとは罪人と同等の扱いをされる。どちらかと言えば奴隷に近いか」


「え?」


界客そとびとは本来あるべき形でこの世界に生まれた人間じゃ無い。その関係で罪人とは違った形で『物』扱いされる」


おっさんはこれ見よがしにテーブルをコツコツと指で鳴らしながらそう答える。


おいおいおい。

何だよそのとんでも理論はよ! てーか早い話、界客そとびとって人権無しって訳か。

つー事は俺はここを出たとしてもまともな扱いをされないって話だよな……色々詰んでね?


「しかもこの村の周辺は魔物がウロ付く無法地帯。護竜もりがみの土地に近い場所じゃそれも減るが、それ以外は魔物避けの標も少ないせいで1人で歩き回ろうもんなら即ヤツらの腹ん中よ」


わお。

村からほぼ離れられない環境ってよもや天然の牢獄じゃないですかーいやーん。

いや待てよ?

今の話じゃ護竜もりがみ……姫ちゃんやアレフの居る土地は少なからず安全って話だよな?

そんならそっちに行けば―――


「そんで護竜もりがみの連中は自分の土地に人間を入れる事を禁忌としている。そして俺らは領主からアイツらの土地を奪えと命じられている」


「ってぇ事は」


「早い話が敵同士だ」


だがそんな淡い期待も速攻で粉砕される。

俺好みの美少女ヒロインは一番の敵であるとか……どうしろと。

そして四方八方丸塞がりとなり、俺は放心するしかなかった。

そうなれば自分に選択肢なんてある訳も無く、


「改めてようこそ、イリシア大陸南端の辺境の地テイズキ村へ。

通称・罪人の果てる大地こと絶望の村はアンタがくたばるまで大歓迎するぜ?」


最悪な歓迎を受け、気付けば俺は引き笑いを顔に張り付けていた。

仲間が増えたと喜ぶむさいおっさん共の声は絶望への招待券に思え、気付けば涙も滲む。

そして元の世界へ帰りたい言ったとホームシックな感情が心を締め付ける。


しかし現実世界に戻ってもあのバケモンに胸を貫かれてるだろうし、戻ってもバッドエンドか?

いや、もしかしたら今のこれは夢かもしれないし、バケモノとの事も夢だったかもしれない。

―――気付けばそんな現実逃避が噴き出しまくる。



そんな中に俺は自分へ向く視線に気付き、顔を動かせばトワと目が合う。

するとトワはあどけなく小首を傾げ、気の毒そうに微笑む。

トワが見せる仕草は主人を心配して寄り添う大型犬の様。

そんな素振りを見せられた俺はいくらか落ち着きを取り戻す。


「色々言ってもしゃーないか」


思う所は沢山あったが、この一言で全てを噛み砕く。

元の世界へのどうのこうやらあるが、まずは生き抜く事が先決だ。

ぐちゃぐちゃ考えるのは全部後回し。

そう思うとさっきまでモヤがかかってた頭は多少スッキリする。

逆にこの村にこれてラッキーだったなと実感を覚える。

もしかしたら姫ちゃんたちはそれを知ってて俺をこの村に送ってくれたのかもしれない。


そんな整理を付けて顔を上げればおっさんが意味深にこちらへ笑顔を向けている。

それは俺の言葉を待っているかの様な素振りだ。



「なんだよ……おっさん。そうだよ、グダグダ言ってすみませんでした! こっちも改めましてよろしくおね―――」


「ああそんなに脅えちゃって……大丈夫よ安心して! アンタが界客そとびとだとしてもアタシ達は味方よ! もう家族だからね!」


「おいいいい!! だからおめーにゃ……ってくっつくなぁ!?」


「ぶはははは! エオリに随分気に入られてんじゃねぇか!

 そうだな、お前の部屋はエオリと相部屋にするか!」



感極まった青髭天使によって俺の挨拶は邪魔され、爆笑するおっさんはとんでもない事を決定する。

そして俺の意見は釣られて笑う連中の声の中に掻き消える。


「ちょ、ふざけんな相部屋とか―――」


「やだニーレキったらぁ! こんな若い子と相部屋だなんて!」


「おめーは嬉しそうにしてんじゃねぇ却下だ却下!」


「おうトワ、そうとなれば部屋の準備頼んだぞ」


「は、はいです」


「人の話を聞けぇえええええええええええええ」


そんなこんなで自分はハートのエプロンを着けるむさいおっさん達が住む村の一員となった。

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