04話 「あーん」
「ギシャアアァアアアアアアッ!!」
やばい。
火球攻撃が洒落にならん位に激しくなってる。
四方六方八方ヨロシクな爆炎のせいで視界全部が夕陽色一色と来たもんだ。
ロリ2人の姿が見えた方へ向かって走ってるつもりだが、全面同色のせいで本当に合っているか不安を覚える。
ああくそ、シルバーたちに説明してから動くべきだったか?
つっても協力してもらえるか怪しかったし、考えてもしゃーない。
そんな一瞬の迷いの中、歩を進める足元がぬかるむ。
泥の中に足を突っ込んだような柔らかさと纏わり付き具合だ。
しかし、灼熱の中で沼なんてあるハズも無く嫌な予感を確かめるべく視線を下ろせば……
「マグマ化とか……マジかいなぁああああ!?」
灼熱で焼かれる痛みに自覚が無かったが視線を下ろした事で置かれている状況にやっと気付く。
足元の地面は超高温で溶け出してマグマ風呂となっており、俺の両足は足首辺りまでずっぽり浸かっていた。
あ、これ再生が追っ付かなくなってますわ。
そう自覚した瞬間、足先を失ったせいで身体のバランスが一気に崩れる。
「マ、ッズイ」
「―――激しき奔流、苛烈なる淬ぎよ。乙女の息吹を受けて鎮まり給え!」
倒れ込むと同時にマグマとなっていた地面は一気に熱を失い、くすんだ地面に変化する。
同時に自分を覆っていた灼熱の風が消え去り、視界が晴れる。
「コイツは僕が引き付ける! 行け!!」
「ちょっとアレフ!?」
「……サンキューシルバーッ!!」
シルバーは俺のやろうとした事に気付いた様でウィンクして合図を送ると攻撃を一手に引き受ける。
派手に転んだ自分は慌てて身を起こし、気を取り直して走り出す。
見た目じゃなくやる事までイケメンとは恐れ入ったわ……。
折角あいつがくれたチャンスを無駄にする訳にはいかない。
一心不乱に走る先にはロリ2人の姿とその周りを大きく囲う薄い膜が見える。
恐らくあの膜が防壁魔法とか言う奴だな。
「だっらぁあああああ!」
防壁まで、
あと10mくらい。
あと8mくらい……。
あと6mくらい……!
「ギシャアアアアアアアアアアァッ!!」
「しまっ―――」
ズメイの脇を上手く駆け抜けている最中、一際大きな声が俺の背後を襲う。
焦りを含んだシルバーの声は咆哮に掻き消され、俺の中で焦りが走る。
膜まであと4mちょいくらい……もう少し、もう少しなんだよ。
「……根性見せろや俺の脚ぃいいいいいいいッ!!」
ありったけの力を足に籠め、大地を蹴った。
頬を掠める風は勢いを増し、聞こえる音は轟音を過ぎると無音になる。
そして視界の風景は線となり、俺の体は薄い膜を何事も無かったようにすり抜ける。
行けた……!
「ずわぷっ!?」
「ギャシャ、ギャィイイシャアアアアアアッ!!」
突然加速したせいと防壁結界を抜けた安堵から足がもつれ、派手に転ぶ。
後ろではズメイが狂った様に叫びながら暴れ回り火を吐いているが何とも悲しい事に防壁で全てシャットダウンされていた。
防壁の前で取り乱す動きは俺を狙っていると言うより懇願するようにも見える。
そして何だかズメイが気の毒に思え、
「……大丈夫だよ。ちょっと話したりするだけだ」
気付けばそんな言葉を向けていた。
そして俺は泥を軽く払い、気を取り直すとおぼつか無い足取りで2人の元へ進む。
「うえっ……ふっ……ぐす。どう、しよう、うああああああん!」
「ニーアがわ、悪いんだよ! ちゃんとおっかけなかったからぁあああん!」
「お、おねーちゃんだってきちんとぉ、お、お仕事出来てないじゃぁあああん。ニ、ニーア悪くないもん!」
「アミィだって悪く……ぐすっ、悪くないもん! お仕事ちゃんと、ちゃんとしようとしたのに……あぁああああんっ!」
おーおーまだ派手に泣いてるねぇ。
2人はお互いに責め立て合いながらまだ泣き止まず。
さて、と。
「2人ともどうしてそんなに泣いてんだ?」
「どう、してって…………おねーちゃんが……うわぁあああああんっ! ニン、ゲン、ニンゲンだぁああうわああああああああ!」
「ふ、ぐす、うぁああああああああ! 怒られる! ルシードに悪い子って怒られ……わあああああん!」
まぁそうですよねそうなりますよね。
2人は目の前に現れた俺を見て更にギャン泣き。
またヘビィウェポンを取り出されたらどうしようかと不安があったが取り合えずクリアか。
にしても子供の泣き声も久々だが、やっぱ耳に来るねぇ。
しかしこの歳になってまた子供の相手する事になろうとは思わなかったぜ。
「大丈夫だって俺は何もしないよ。2人とお話したいだけなんだ」
落ち着かせるように2人へ声をかける。
そんな事をしていると少し懐かしさを覚え、気付けば苦笑が漏れる。
……とりあえず座りますかね。
俺は畳に座る調子で腰を降ろし、2人に背を丸めて視線を合わせる。
「んで、どうしてルシードってヤツに怒られちゃうんだ?」
「だ、だって、だってだって……ルシードがお出かけしてる間、この森にニンゲンぜったい入れちゃダメって、お約束したのに、ぐすっ、出来なかった、から」
「お約束、破ったから……もりがみのお仕事ちゃんと、出来なかった……悪い子って怒られ、ふぇえええええ!」
「うーん……俺は大丈夫だと思うぞ」
「そ、そんな事ないもん。ぜ、ぜったいぜったいいっぱい怒られ……うえええええ」
「だってよ、あっちのえーっと……アレフだっけ? と、姫ちゃんは怒らなかっただろ」
イケメンな彼と姫ちゃんの事を話しに出す。
実際のところ、あの2人は責める様な事は一言も口にしていない。
要するに『叱られるかもしれない』『怒られるかもしれない』『言われた事が出来なかった』と言った問題を前に泣いているんだ。
「で、でもルシードは怖いから、ぜったいぜったい怒るもん……」
「この前だってニーアが悪いのにアミィ怒られて、ルシード怒る……ぐすっ」
「そ、それはおねーちゃんが言ったから、ニーアやったんだよ……ニーアのせいじゃない、もん!」
「違うもん! やめようって言ったのに聞かなかったのニーアだもん! アミィ悪くないもん!」
「こらこら、そう言う風に言っちゃ駄目だぞ?」
「ぐす……ニンゲンのくせになま、いき」
「……なまいき」
俺を睨む2人は泣き叫ぶ事が無くなり、少し落ち着いた様子になる。
「じゃあルシードにちゃんとお話しよう、な? 2人が怒られないように俺もちゃんといるからさ」
「で、でも……」
「ルシード、怖い。絶対怒るもん」
「じゃあ俺が代わりに怒られるよ。それに2人は頑張ってたって話もするし、アレフとかも味方になってくれると思うぞ」
「ほ、ほんと?」
「ああ、それなら怖くないだろ?」
2人が話すルシードってのがどんな奴かは知らないが、流石に子供をはなっから叱る様な奴じゃないだろう。仮にそうならボロクソに言ってくれる。
俺の言葉にいくらか落ち着いた2人は気付けば泣き止んでいた。
「そう言えば名前聞いて無かったな。俺は暁、加苅暁ってんだ。2人は何て名前?」
「なま、え」
「そ。良かったら教えて欲しいなって」
「もりがみのアミィ……こっちはいもうとのニーア」
「ニ、ニーア……だよ」
「アミィとニーアか。良い名前じゃん。―――じゃあ2人とお近付きの証に」
俺は先程確認したポケットの中からソイツを取り出してニーアとアミィの前へ差し出す。
熱で溶けたんじゃとか心配だったが問題無くて良かった。
するとアミィは小さく小首を傾げ、
「……なにこれ?」
「飴ちゃんだよ飴ちゃん。ああそっか、こっちの世界じゃ飴はこう言う包装じゃないのか。……ほれ」
俺はビニールの包みを開き、飴を取り出す。
アクアマリン色を放つ宝石みたいな飴を前に2人は目を爛々と輝かせ、お菓子を前にしたと言うより宝物を見つけた顔を見せる。
「わぁあああ……」
「これ、くれるの?」
「おうお食べ。1人1個ずつな」
差出した飴に手を伸ばし……何かを思い出したかの様な顔を見せると手を引込め、固まる。
そして堪える様に口をへの字にして俯いた。
「ん? どうしたし」
「ニ、ニンゲンから物を貰っちゃダメだって、ルシードに……言われ、てる」
「貰っちゃダメなんだもん……」
「あー……知らない人から貰っちゃダメってヤツか―――」
「あれー? じゃあ僕が貰っちゃおう~。ん~!? なにこれなにこれ! ティオの実みたいな味がするすごーい♪」
会話を遮って手が伸びたかと思えば俺の手元の飴玉が忽然と姿を消す。
騒がしい声に慌てて顔を上げれば嬉しそうな顔で飴を頬張るシルバーの姿が……。
「ちょ、おま。何食ってんだよ!?」
「ほら、疲れた時には甘い物って言うじゃんー? あーおいひー♪」
って、幸せそうな顔を浮かべて人の話を聞いてねぇ……。
「「……ごくっ」」
思わず怒り心頭に発していると生唾を飲む音が聞こえる。
はたと顔を向ければ餌を前にお預けされた仔犬な2人がこっちを見やっていた。
俺は新たな飴をポッケから取り出すと無言で包みを開け、
「ニーアからな。はい、あーん」
「!! あ、あーん!」
元気良くヒナ鳥の様に口を開けたニーアの口の中へジュエリードロップを放り込む。
「ずるーい! アミィ、アミィも!」
「ちゃんとアミィのもあっから落ち着けって。ほら、あーん」
「あーん!」
続けて大口を開くアミィへ俺は飴ちゃんを放り込む。
ニーアとアミィは頬を両手で押さえながら声にならない声を漏らしながら飴を味わう。
嬉しそうな2人を前に俺は思わず笑みが零れ、気付けば2人の頭をわしゃわしゃと撫でる。
2人は頭を触られ、キャーキャーと騒ぎながらも楽しそうに大はしゃぎする。
「まさか魔法も何も無しに暴走召喚を止めちゃうなんて……」
驚愕の声に後ろを振り返ればヒロインブルーこと姫ちゃんが背後に立ち、困惑を見せた表情を浮かべる。
そして先程まであれ程騒いでいたズメイの姿は幻の様に消えていた。
書いてて2人が可愛くなってしまったやばい()