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11話 「さん付けで呼ぶわ」





「あ、飴ちょうだーい?」

「飴ちょうだいちょうだいちょうだーい!」


草むらを絨毯にして俺はうつ伏せに寝転がる。

腹の痛みがMAXなせいでちょっかいを出してくる声には無視を貫く。


「む、無視するな~!」

「無視はいけないんだよー! ルシードが言ってたんだよー!」


突っ伏したままイモムシの様にうねうねと身をよじる俺・29歳。

おっさんに連れられてどっかの平原に着くと村の連中がいるトコへ、

ゴミ袋みたいに放り投げられた。

そして腹痛に悶える俺は恥ずかしさでうつ伏して顔を隠し、今に至る。

まぁそれのせいで余計目立って恥ずかしいんですが……今更やめられないし、

双子から腹をガードするにはこれしかない。


てか何で俺呼ばれたの?

まさか双子が呼んだんじゃあるめーな?

しかし敵同士って言ってた割りには皆トゲトゲしさあんまねーな?


「あの、貴方……大丈夫?」


そんな自分を心配して美少女は声をかけてくれる。

ああマジ優しいわこの子。

俺なんかを心配してくれてそんな言葉を……


「お姫ちゃん……心配してくれてあり―――」


「よ、よこせー。飴ちゃんよこせー」

「飴ちゃんまーだー? ねぇ飴ちゃんまーだー?」


しかし幼女2人が嬉しの再会をこれでもかと邪魔してくる。


「やっかっしぁああああ! 腹痛でこっちは死にかけてるの!

 なのにキミらと来たらさっきから人のお腹をツンツンツンツンツンツン!!

 なんなのもう!? キミらたかり!? たかりなの!?」


我慢の限界に達した俺は思わず叫び声を上げる。

唐突に声を上げたせいで2人は脅えた顔を見せた。

前回の一件が咄嗟に過ったがここは大人としてきちんと叱るべき所は叱らねば。


「あのなニーア、アミィ。お兄ちゃん今めっちゃ腹痛なの?

 だからそうやってお腹触ったら余計痛くなるから―――」


「そ、そうなの? お腹、お腹撫でてあげる、ね?」

「アミィ白魔法使えるよ! 白魔法使えるからかけてあげるね!」


俺の言葉に2人は心配そうな顔で突っつきからダイレクトアタックに変更し、

さっき以上に人の腹を触りまくってくる。


「お願いだから人の話を聞いてっ!?」


ニーアが使う魔法の暖かさが温度差を生んで更に腹が痛くなる……。

折角姫ちゃんと会えたのに情けなくもまた芋虫モードに移行。

くそ、何なんだよもう!

てか超回復能力効果どうなってんだよ何で発動しないんですか!


……てかまぁそんな事は今どうでも良い。

とりあえず誰か、誰か……セイ○ガンは無理でも何か腹痛止めをくれぇえ。



「おうおうおう?

 まさかガキの子守り相手にコイツ呼んだんじゃあねぇよなお嬢さん達よ?」


ずぉん、と鈍い地響きと共にニーレキのおっさんが低い声で割って入る。

ちょっとした地震みたいな振動に腹の痛みが酷くなる。


おいちゃんソレはまじやめて。

そんな事を思いながら顔を上げると馬鹿デカい斧を杖の様につっかえさせ、

神妙な顔付きで立つおっさんの姿が。

あの、それ、ニーアが使ってた大斧より……でかくね?


「どう言うつもりかしらねぇが、

 おめーさん達が人間に興味持つたぁどう言うこった?」


「べ、別にそう言う訳じゃ―――」


「悪いがコイツは俺らの仲間だ。

 何があったかは知らねぇが敵に情けってのは感心しねぇぜ?」


ニーレキは低い声でそう一つ警告をする。

そして地面の大斧を引き抜き、スローモーションの様にゆっくり振り被る。


「おいガキ共。お遊びの時間は終わりだ」


冷たく言い放つと斧を大きく振るい、暴風で2人を吹き飛ばす。

危ない。と声を上げる間もなくニーアとアミィの小さな身体は宙を舞い、

2人は高所から飛び降りた猫の様にバランスよく着地してみせる。


「ニーア! アミィ! ―――よくも……貴方、やりすぎよ!!」


「やりすぎぃ? ハッ!

 こちとらあんたらと違って生活どころか人生もとい命かかってんだ!

 情けかけんならついでに……その土地寄越せやぁあ!!」


怒声と共にニーレキは大斧を振り回し、姫ちゃんに襲い掛かる。

え、おっさん何やってんの!?


「……この、鉄の拒絶ウォルマー!!」


バキィン、

と金属音が響くと共におっさんの一撃は火花を散らして弾かれる。

体勢を崩されたニーレキは後方へよろめくと今一度構え、後方を一瞥する。


「おい野郎共行くぞ! トワ、エオリ! 援護しろ!」


「は、はいですっ!」


「まかせてぇんっ!」


おっさんを先頭に周りで待ち構えていた連中が声を上げながら続く。

皆、棍棒の様な物とか剣を片手に持ち、お姫ちゃん達に向かう。

いやマテお前ら……。

女の子相手にそれは―――


悲竜の乙女たちドラグーンメイド!!」


しかしその杞憂は彼女の一声で全て掻き消される。

襲い掛かるおっさん共は突風に煽られた小石の様に軽々と吹き飛び、

ゴロゴロと地面の上を転がる。

何が起こったのかと顔を上げれば……


「オロカ、オロカナリオロカナリオロカナリ、男共ガ」


コウモリの様な羽を広げた10人程の少女達が白髪を揺らして並ぶ。

あんな子達、さっきまで居なかったよな。

まさかお姫ちゃんが魔法か何かで呼び出したのか?


「チッ! お出でなすったか……おうオメーら! 怪我ぁすんなよぉお!」


「「「おうっ!」」」


地面に転がっていた連中は何事も無かった様に身を起こし、

くたびれた盾を構えて前に出る。

気付けばニーアとアミィも武器を構え、臨戦態勢になっている。


そしておっさんの突撃を狼煙として、

お姫ちゃん達と村の連中による戦闘が目の前で始まる。

情けなくも腹痛で身動きが取れない俺はそのまま呆然と眺める。


少ない人数で土地を護るとかどうやってるんだとか疑問があったが、

姫ちゃんが呼び出したと思われる少女や扱う魔法を見て疑問は晴れる。


扱う魔法は多方向に同時攻撃を行い、その隙を少女達がカバー。

更には守りに徹している連中の場所を目掛け、

ニーアとアミィが超重武器の圧倒的火力で全てを蹂躙をする。


こちらは30人弱の人数がいると言うのに、

10人ちょっとの少女達に苦戦を強いられている。

まじかよ……。姫ちゃん達、強すぎじゃね?


てかコレ、俺も巻き込まれねぇ様にしねぇと……。

危機を感じた俺は匍匐ほふく前進で距離を取る。

が、

それにより腹へ余計な刺激を与えてしまい、激しい腹痛を覚える。

その痛みは腹のみならず、別の個所にまで及ぶ。


「ぐお……こんな時に……っ。

 しかも痛みが酷過ぎて腹だけじゃなくて別の部分にまで―――

 っておかしくね?」


腹の痛みとは別の痛みに身を上げる。

それはポケットに何か固い物が入っており、

俯せ状態で圧迫された為に痛みを伴う物になっていたのだ。


スマホか……?

と思ったが異常にポケットがパンパンだ。スマホのデカさじゃない。

そして違和感を確かめるべくポケットに手を突っ込み―――


俺は衝撃を受ける。


「う、うおおお。おおおおおっ!?

 マっジっカよぉおおおおおおお!!」


それは今の俺が待ちに待ち望んだ代物だった。

異世界で絶対入手出来る筈が無く、持っていた覚えなんて無かったのに……

どうして? 何故?


疑問が浮かぶがそんな物は今の俺には必要ない。

この様な物を俺にもたらしてくれる存在は一つしか居らず、

俺は気付けば両手を合わせて天を仰ぐ。


「神は……神は居た! 感謝ああああああ!!」


俺は歓喜の雄叫びを上げながらそれの蓋を開け、

勢い良く口に放り込む。

それは異臭を放ち、強烈な苦みと刺激を舌の上に拡げる。

そして喉に絡み付くとその悪臭は頂点に達し、噴き出しそうになる。

一言で言えば、クソ不味い。

しかし今の俺に取ってその全てが甘美でこれ以上無い極上の味だった。


「セ・イ・○・ガ・ン! イヤッホオオオオオウ!!」


やべぇなセイロ○ン。

一気に腹イタが治まったんですけど。

マジすげぇ。

これからセイ○ガンとか呼び捨てに出来ねぇな。さん付けで呼ぶわ。


「…………」


腹イタが治まって身を起こせば戦いを止めて呆然とこちらを見つめる一同。

皆は武器を手に、何か変な物を見付けた様な表情で立ち尽くしている。

俺はそんな中を美術館の芸術品を眺める様な穏やかな気持ちでゆっくり歩く。


……ふぅ。

こうやって落ち着いて考えれば、争いが何と愚かな事か。

争いは失い、奪い合うだけで憎しみの種を撒いて何も生み出さない。

そうだろう?


と、セイ○ガンさんが俺に語りかけてくる。


そうだ。

言葉が通じるなら語り合える筈なのだ。

そして語り合えるなら解り合える筈なのだ

ならば痛みを、気持ちを、考えを互いに共感し合える筈なんだ。


「お、おめぇさん……腹イタはぁどうした?」


「ああもう問題無いぜ。心配かけてすまねぇ」


棒立ちする連中の合間をすり抜け進んでいるとおっさんが心配してくる。

俺はその横も過ぎ、話し合うべき相手の前へ進む。


すると白髪の少女達がゆらりと目の前に現れ、それを遮る。

見せる表情は険しく、俺を警戒している様だ。

無理も無い。

つい先程まであんな戦いをしていたのだ。

身構えるなと言う方が無茶な話だ。

しかし先程、この子達も言葉を話していた覚えがある。


ならば誠意を持って話せば通じる筈だ。

と、セイ○ガン先生が俺に問いかけてくる。


「安心してくれ。俺は争いに来たんじゃない。彼女と話をしたいだけなんだ」


俺の敵意の無い言葉を前に少女の一人の眉が小さく動く。

それは何かを感じた様に、何かを確かめる様な。


「オマエ……」


そして彼女は確かめる様に一歩前、足を進めると俺に近付く。

きっと俺に害意があるかどうか確かめているのだろう。


「俺は何もしないよ」


そう短く答えて無抵抗を示す為、腕を広げて上げる。

ホールドアップ。戦意の無い事を示すには一番のポーズだ。

彼女は俺の行動に今一歩、確かめる様に足を進めてニコリと不器用に笑う。

俺も釣られて笑みを返せば―――


「臭イ! 姫様に近寄ルナァ!」


と、セイ○ガンさんの言葉も虚しく―――

無抵抗な俺は容赦なくぶん殴られてまた地面の上に突っ伏した。

その昔、正露丸は征露丸って字だったらしいですね。

何でも日露戦争の時に使われてた薬らしく、そこから付いた名前なのだとか。

物を書きながら調べるとこう言う発見があるので楽しいです。

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