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09話 「リンクらめぇええええええええええええ」

「反映ってどう言う事だ……?」


ソーマってのは銀髪イケメンが口にしてた覚えのある単語だ。

確か俺が居た元の世界の名前だったハズ。

そうなるとアルセーマはこの世界の名前か?

しかし電子記録と精神記録って何だよ。

もしかして既に俺は死んでるんで記録って事なのだろうか。

と言っても電子記録って何ぞや。

電子と言われてもPCくらいしか思い浮かばんぞ?



「もし俺に直接影響するものとしたら無暗にOK押すべきじゃないよな」


OKと言う確認が表示されてるって事はまだ実行されていないと言う事だ。

そうなると迂闊にOKを選択すべきじゃない。

精神記録は良いとして、電子記録が何なのか怪しい。

最悪、ドリームボックス(PC)の中身が俺へ反映でもされたら?

間違いなく俺の存在その物が18禁になってしまう。

悪いが異世界と言え、モザイク必須な人間にはなりたくない。

いくらか気にはなるが……このまま電源を落とそ。



「あ、あの~……」


「ふおうっ!?」


電源を落とすべくボタンを押そうとした瞬間、背後から声をかけられて俺は奇声を上げる。

恐る恐る振り返れば……同じくビックリしているトワの影が。

あれ、この子食堂に居たはずじゃ。

何でここに?


「あうぁ!? きゅ、急にごめんなさい、ですっ!!」


「い、いや……大丈夫だよ。それよりどうし―――」


どうした? と尋ねようとした俺の耳に小さく『ピロリン♪』と電子音が響く。

慌ててスマホへ視線を戻すと、


『ソーマに於いての電子記録、精神記録をアルセーマの魔力体へリンク開始を致しました。しばらくお待ち下さい。』


内容が切り替わると同時にダウンロードバーが表示されていた。

それを前に俺は真っ青になる。

ドリームボックスの中身が反映されたモザイクな自分がイメージされていく。


「リンクらめぇええええええええええええ」


気付けば俺は薄い本よろしくな台詞を大声でほざき、膝から崩れ落ちていた―――。




「……よくわからないですけど、本当ごめんなさいです」


「いや、気にすんなって。大丈夫だから、うん」


トワの慰めの言葉へ生返事しながら俺は燃え尽きて灰になったボクサーの様に放心していた。

―――あーあ。やっちまった。

電子記録がPCの中身を指してるんだったら終了のお報せだわ。

だってデスクトップにあるファイルの8割はエロゲショトカと同人誌のフォルダですよ?

CドラDドラ容量の大半もそれ関連のもんばっか。

そして内容も趣味偏ったもんばっか……。


うんな物を俺に反映されたらどうなるかなんて言うまでも無くヤベーよ。

良くて肌色一色のモザイク君だ。

最悪は趣味全開の物が混じりまくった触手やスライムまみれな事になる。

どこのホラーだよ。

どっかの薄いクリ○ゾンでもそんなコアな展開ねーから。


「でも異世界なら触手やスライムになっても違和感無いか……って、うんなわけあるかーい」


「え、えと……大丈夫ですか?」


「……おう大丈夫じゃないが大丈夫だ、うん。もしかしたらキミの目の前で俺がとんでもないクリーチャーになるかもしれないが許してくれ」


「ク、クリーチャ……? はい、わかりましたです」


あ、ダメだわかってないこの子。


俺は遅々として進まないダウンロードを前にスマホの画面を落す。

こうなりゃなるようになれだ。うん。


「そう言えば俺に用事があったみたいだけど」


「は、はい! えと……これをお渡ししようと思って」


「これって?」


俺はトワが大事そうに抱えていた包みを受け取る。

中身を見てみるとそこからは葡萄の様な房をした果実が。

パッと見、マスカットを一回り小さくした見た目だ。


「お夕飯の時に一口も召し上がっていなかったですし、お水しか飲んでいなかったみたいなので。良かったら召し上がって下さいです」


「もしかして気にかけてくれてたのか?」


「い、いえ! 何となく気になっただけで……。もし、体調が悪いようでしたら果汁だけ飲むと良いですよ」



やばいこの子。すげー気遣いだわ。

男の子じゃ無かったらかなりキュンキュンきてた。天使すぎる。


俺はすすめられるまま実を一つ千切って眺めていると腹が鳴る。

……何とも体は正直だな。

俺は体が欲するまま口の中に実を一つ、放り込む。

張りのある皮が弾けると中から甘みと酸味を含んだ果汁が一気に広がる。

味は夏みかんに似てる。

しかし果汁がすげぇな。

まるでジュースを圧し込めた様に口の中で果汁が溢れ出し、俺は慌てて飲み込む。


「うめぇなコレ。何て果実?」


「レンフィーって言う実です。王都の方ではこれでお茶やお酒作ったりしてます」


「へー。てかそんな貴重そうな実を俺が貰って良かったのか?」


「レンフィーは今の時期いっぱい採れるので大丈夫です!」


気にしないでと言わんばかりにトワは満面の笑みを向けてくる。


「そんじゃぁ遠慮は失礼だし、有難くいただきますか」


「はい!」


―――そして気付けば俺は無我夢中でレンフィーを貪り食っていた。




「……ふぅ。ご馳走様。結構腹に溜まるんなコレ。うまかった」


「喜んで貰えて良かったです。えへへ」


満足気に腹をさする俺を見てトワは嬉しそうに笑う。

はにかむその顔は何とも無垢で可愛らしい。

子供のあどけなさって時折、性別関係無しに天使だよなマジ。

見た目は14くらいだが挙動が良い意味で幼いんだよなこの子。

なんつーか初々しい感じだ。


「そう言えばお兄さん、界客そとびとって事は別の世界から来たんですよね?」


「うん? まぁそうなるな」


「そこってどんなとこか聞いても良いですか……?」


「どんなとこ……。んーなんつーかここまで自然が無い、建物ばっかな世界? いやちょっと違うな」


トワに急に尋ねられて返答に困る。

つっても他にどう説明するのが良いのかなとポケットを漁る。

なーんか良い例えになる物は無いかと思ったが大したもん持ってねぇんだよな。


「―――え……この紙、何ですか? しかもこれ、硬貨?」


「ああそれ5千円札と小銭だな。そっちはカードでこれは鍵な」


「こんな細かいのナーガでも見た事ない……。も、もしかしてお兄さんって名のある名家の方だったり?」


「え、普通の一般人だけど」


「うぇええええええええ!?」


何故そんなに驚かれるのか。

そんなに特別な物だっけ?


「こっちの世界にこんな技術無いです……」


ああそっか。

よくよく考えたらこの世界は文明がそこまで発達していない。

電気も水道も無かったし、当たり前か。

それじゃ紙幣一つでもこの世界じゃオーバーテクノロジーになるわな。


「まぁ少なくともここの世界より便利な物多かったりするかも。その代わり魔法とかは無いケド」 


「だからこんなに精密なんですねビックリです。魔法大国で血眼に召喚を行う理由が何となくわかりました」


「つっても俺はそんな技術持ってないから役立たずも良いとこだぜ。てか魔法大国とかあんのか……やべーな」


「第五外大陸と呼ばれるイリシア大陸の中でも特に魔法が発展した国がありまして、そこで盛んに異世界召喚に関する研究がされています」


魔法大国とか何この男心をくすぐる単語は。

もし行く機会があれば……いや、是非とも行ってみたい。


「ですが界客そとびとを奴隷として扱う現状、胸を張れるお話では無いですが……」


しかしその期待は沈んだ口振りとなったトワの一言で消沈する。

そうだった。

今の俺は奴隷並みで人権は無く、しかもここは罪人の村だったわ。

そう言えば俺もここの住人になったのは良いとして、気になる事があったんだった。


「あのさ、ここの人達が罪人ってのはわかったんだけど刑期ってどれくらいなんだ」


「…………それは護竜もりがみの土地を奪えるまで、です」


「奪うってのは具体的には?」


「竜の土地へ標を打ち込み、護竜達を土地から追い出すか―――」


トワはその続きを口にするのを躊躇う。

そしてそこまで話されて俺も察しがつく。

早い話が『殺してでも奪い取れ』って話だろう。


平和の象徴、日本で育った俺にはその内容に実感が無い。

かと言って『無理です』なんても言ってられないだろう。


「土地を奪う事情はわからんがそうしなきゃ死ぬまで全員ここで暮らさなきゃって話か」


「……そうですね」


「じゃあ護竜もりがみの人達に出てって貰うように頑張らないとな」


「え?」


「そんな若いお前さんが死ぬまでここに居るとかダメだろ?」


俺みたいな人生諦めモードの奴や食堂のおっさん共みたいな年齢行ったやつはまだ良いとして。

十代前半のヤツが早くも終身刑とかダメに決まってるだろ。

しかもこんな良いヤツが何でそんな目に合わなきゃいけない?

正直、お姫様好きになったからってそんな話も理不尽過ぎるし。


「……うし決めた。俺、全力で頑張るわ」


「が、頑張るって何をです?」


護竜もりがみの土地をゲットして、ここの住人の……トワの刑期を終わらせる」


「簡単に言いますけど……どうやってです?」


「それは今から考える! うん!」


プランも無い。

確証も無い。

しかしそれ以上にトワが理不尽に飲まれ、濁って行く未来が嫌だった。

そして感極まった俺はトワへ大言壮語を向けていた。

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