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07:昇格

 ハルトの予想はおおよそ当たっていた。

 『聖剣』の形状を変形させることで魔法の威力にも影響が現れたのだ。


「父なる空に誇りを持て! 母なる大地を賛賞せよ! 駆け抜けろ『スレイプニール』!」


 以前までの眩しいほどの光や全身を震わせる轟音はなりを潜め、一筋の閃光が風を切り裂く。

 甲高い音が通り過ぎ、風が再び吹き始めるとレックスラビットの左足が宙を舞った。


「シャーリィ、ナイスだ」


 左足を失ったレックスラビットは地面の上で悶えながらハルトとシャーリィへ敵意をむき出しにしていた。

 レックスラビット牛ほどの大きさもあるウサギ型の魔物で、発達した脚部での脅威的な跳躍を行う。

 しかし、大きすぎる脚部は生物としてのバランスを崩しかねないほどだ。

 そのギリギリ保たれていたバランスを崩し、移動もままならない状態へ陥り勝敗がついた。


「悪いな」


 ハルトが誰にも聞こえない声でつぶやき、カード化を解除したボウガンで狙いをつけ引き金を絞った。


「ハルトの言った通り、『聖剣』の形状を変えたら使う魔力と威力が変わったわね。

 その上、詠唱まで簡略化できちゃうなんてね」

「『ポーション』とか使って回復しながらだと1日で20回ほど使えるようになったな。体への負担もだいぶ減っているみたいだし」

「これでようやく冒険者っぽくなたわ」


 使用魔力が減ったことに加え、嬉しい誤算だったのが詠唱が簡略化できるようになったのだ。

 それ以外にも予め詠唱を完了させておき、発動するタイミングを遅らせることで戦闘中に詠唱を不要とする方法など工夫できることが多くなった。


「冒険者といえば、この依頼でたぶんランクが上がるんじゃないかな」

「これでランクCになれるのね」

「ダンジョンにも入れるようになったな」


 ダンジョンとは世界各地に点在する遺跡のことだ。

 共通する点は魔力が非常に濃く、魔物が生息している。

 そして、大きな特徴として長い間ダンジョン内にあった物はその濃厚な魔力によって性質が変化して特殊な能力を持つことがある。

 『勇者』の持つ固有の武具、魔法具などと同様に強力な能力を備えている可能性があり、付与される能力はダンジョンの最深部で発見される物ほど優秀な傾向で、危険度が比例して高くなるためそれらの『ダンジョンアイテム』は高額で取引される。

 冒険者はFからDランクの依頼で実力と経験、装備を得てCランクでダンジョンへ潜るのが通例である。

 ハルトとシャーリィは今回の依頼達成によってダンジョンへの冒険許可が得られるのだ。


「聞くところによるとCからBへの壁が一番高いらしい」

「ま、しょうがないわよね。『厄災の塔』へ入れるのはBランクからだし」


 『厄災の塔』はハルトたちがいる大陸の最北に存在するダンジョンだ。

 このダンジョンがハルトたち『勇者』が召喚された原因であり、理由だった。

 もともとは他のダンジョンと同じく魔力が濃く、魔物が出るものだったが10年前に突如異変が起きた。

 周りの自然は荒れ果て、無害だった動植物は魔物へと変貌を遂げた。

 人が住めないほどの状況に陥り現在もゆっくりとその汚染は広がっている。

 ダンジョンの外にまで影響を与える、という現象は他に類を見ず王国と教会は3つの特別措置を取った。

 一つはダンジョン入場の制限だ。Bランク以上の冒険者しかできなくなった。これは実力の低い者が死亡、行方不明になるのを防いでいる。救出するだけでも莫大な人員と金が必要になるため、実力の高い者のみが入場を許可される。

 そして、ギルドへの協力要請だ。

 『厄災の塔』に関する情報、出現する魔物や内部構造の提供者にはギルドを通じて王国から奨励金が与えられる。

 最後に『勇者召喚』だ。

 現在存在する冒険者の数は非常に多い。

 しかし、Bランク以上の冒険者は全体の8%しかおらず、なおかつ危険すぎる『厄災の塔』へ挑む者は限られてくる。

 そういった人手不足を解消するために『勇者』を召喚し状況を打破することを目指した。


「今、『厄災の塔』に挑戦できる『勇者』って何人いるか知ってるか?」

「知らない」

「28人らしい。一般的な冒険者のBランク以上の比率を考えると優秀ではあるけど、それでも半分に届いていない」

「私たちの『聖剣』や『アイテムボックス』より強力なアイテムを持っている『勇者』たちでもそんな状態なんだから私たちが入れるようになるのって一体何年先なのかしら」

「気長にやるしかない、かなぁ」

「ま、結局は」


 シャーリィが雰囲気を一転させるため、少し大きめの声で言った。


「目の前のやれることをやりましょ。最初にそういったのはあんたでしょ」


 その言葉にハルトは微笑む。


「そうだな。よし、街へ戻ろう」


 ギルドで依頼の達成報告をすると顔見知りの受付係が嬉しそうに言った。


「おめでとうございます。お二人のランクがCに上がりました。やりましたね!」


 ここ数ヶ月で簡単な雑談をするくらいには仲良くなり、もうすぐランクが上がりそうだったのは彼女も知っていた。

 新しくなったギルドカードをトレイで渡してきた。

 駆け出しだったEやFのカードとは違い、Cランクのギルドカードになると素材や見た目が良いものへになっていた。


「Cランクからはこのファイルの青い色の部分が受けられるようになります」


 クリップに留められた紙切れの中にはDランクのような街の外での討伐なども含まれているが、半数はダンジョンに関わる内容のものだった。

 ハルトたちが拠点にしているこの街の近くには3つのダンジョンが存在する。

 街の南西に存在する地下迷宮、東側の草原を超えさらに森を抜けた先にある遺跡、そして街を北に数日行くと存在する山にある坑道だ。


「Cランクに上がりたてなら街の東にある遺跡がオススメですね。道中に危険な魔物も少ないですし、距離的にも日帰りできるので」

「なるほど」

「他の2つはどうなの?」

「街の地下迷宮は攻略がかなり進んでいるので浅い階層でしたら魔物はほとんど出ませんし、他の冒険者に会う確率がかなり高いので安全でしょう。安全ゆえに実りのある冒険をすることは難しいと思います」

「浅い階層は目ぼしいものがほとんど先駆者たちが見つけているし、深い階層ならルーキーには荷が重いってところか」


 受付係の女性は肯定としてうなづいた。


「北の坑道は難易度はとても高いですね。遠いため物資の持ち運びは制限が生じてしまいますし、現れる魔物は凶暴です。Cランク上がりたての方が挑戦するには難しいと思います」

「ほう」


 物資の持ち運びに関しては『アイテムボックス』があるのでハルトたちとしては問題にならない。

 その利点をダンジョン攻略へ使えないだろうか、とハルトは思案する。

 有効的な道具を持って行けた場合、他の冒険者よりもアドバンテージが大きくなるため利益を考えると北の坑道だった。

 しかし、ダンジョンというものが初めてだったので先に他の2つで実戦経験を積むことにした。


「じゃあ、最初に言われた東の遺跡にします。シャーリィもそれでいいか?」

「大丈夫よ」

「どれかオススメの依頼ありますか?」

「はい、どれでしたらこのページに何個かあります」


 受付係の女性は手馴れた様子で逆さに見えているファイルのページをめくった。

 それからハルトたちは彼女の勧めた中から一つ依頼を選んだ。


「はい、では次の依頼も命を大事にいってらっしゃいませ」


 受付係の女性に笑顔で見送られ、ハルトたちはギルドを後にした。

次は5月7日13時に投稿します。

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