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03:共闘

 昼下がり、ハルトは街へ向かって歩いていた。

 今日は東の森で植物系の魔物から採取できる『灰色の雫』を集めに行ったのだが、ちょうど目的の植物系の魔物の群生地を見つけてしまい、すぐに必要な量を得ることができた。そのため、午前中に東の森を探索して切り上げてきた。

 現在、拍子抜けして朝来た道を歩いていた。

 手元には採取した『灰色の雫』が収まった小瓶を持っている。その小瓶に向かってカードになれ、と念じると発光とともに姿を変えた。

 『灰色の雫』と書かれたカードの説明欄には『薬品の調合に使用できる液体。配合する素材により得られる効能が変化する。』とある。カード中央にはアイテムにあった絵柄が描写されており、『灰色の雫』には小瓶のなかに灰色の液体が詰まっている状態の絵が描かれている。

 『アイテムボックス』にはいくつかの特性が存在する。

 まず一つ目に、『アイテムボックス』は複数のものを一つのカードにすることができる特性。

 カード化を行った際、カード名はまとめたアイテムの共通的な表現になる。

 例えば今回の『灰色の雫』はカード化する前は『小瓶』と『灰色の雫』という別々のアイテムだったが、『灰色の雫を収めた小瓶』をカード化したことにより小瓶も『灰色の雫』の一部として扱われている。

 これはもう一つの特性に『アイテムボックス』は容量を明確に判断ができる物でないとカード化できないことに関係している。

 こちらの例としては、どこまでも続く大地や広い湖などの物はそのままではカード化できないが、細かく砕いて石にしたり、湖は水瓶に入れればカード化は可能だ。

 なので今回は『灰色の雫』を『小瓶』のなかに入れて、容量を明確にした状態でカード化した。

 この特性は明確に容量が分かっていれば大量の物質をたった1枚のカードにできる利点を持っている。

 岩山から巨大な大岩を切り出し、複数まとめてカード化すれば『岩石』となり運搬のコストが人間の移動になる。

 9枚かける10ページという有限な枠に工夫次第で大量の物資を収めることができる、というのは『アイテムボックス』最大の特徴だ。

 これ用いて冒険活動を楽に、なおかつ有利にできないか現在は簡単な依頼をこなしつつ試行錯誤している段階だった。

 昨日の罠を張った狩りもその一環だ。

 冒険活動を進めていくと必然的に危険度の高い魔物の討伐やダンジョンの攻略へと挑戦することになる。その時に『アイテムボックス』の特性と能力を使えばどんな状況でも打破できるのではないか、と考えている。

 だが万事に備えてアイテムを揃え、いかなる状況下でも冷静に使用するアイテムを選別して駆使する、などと実際に考えてみると何千・何万のパターンを考慮する必要があるか想像もできない。

 しかし、ハルトにはこの方法しかないため、考えて試して実践するしかないのだ。

 そんなことを考えていると、鈍い金属音が聞こえた。

 とっさに腰を低くし、周囲を見渡す。見える範囲では何もない。

 現在は町から東へ少し行った場所で視界一面に牧草が広がる平原だ。緑一色で分かりにくいが若干の勾配が存在し丘もある。

 ハルトは警戒をしつつ、ゆっくりと高い位置に移動する。金属音が徐々に大きくなる。一番近い丘の上へと移動すると音源が見つかった。

 一人の少女が大剣を岩石へ叩きつけていた。よく見ると岩石はゆっくりと動いており、人型をしている。


「あれがマスターの言っていたゴーレムか?」


 ゴーレムは大きな丸い岩に手足が生えており、胴体に顔があるためずんぐりした体型だった。だが全長は2メートルほどあり対峙する少女の一回りも大きい。

 少女はゴーレムの緩慢な動きの隙間を見て、胴体へ剣を当てていく。しかし、少女の腕力ではゴーレムにほとんどダメージが与えられていない。

 素早くゴーレムの攻撃をかい潜ってはいるが疲労が蓄積されており、額には大粒の汗がまとわり付き頰も体温の上昇により赤くなっている。

 消耗戦は得策ではない。無機物のゴーレムにはスタミナが存在しないため、少女が一方的に疲弊し窮地へと追いやられてしまう。

 目に見えて動きが鈍くなる少女にゴーレムの攻撃があたるのはもはや時間の問題と言っていいだろう。

 ハルトは『アイテムボックス』を開き『バリスタ』と書かれたカードを取り出す。

 カード化を解除するとハルトの胸の高さまである台の上に巨大は弓が取り付けられた兵器が現れた。

 『バリスタ』とは巨大な弓、弩を使用して弾を発射する投擲兵器だ。投擲するものは弓の台座に設置できるものなら矢から石、金属片など様々だ。

 本来なら冒険者が持ち運ぶようなものではなく、攻城戦に用いられるか逆に城壁に設置され防衛で役立つものだがハルトは『アイテムボックス』の活用の一環で個人では運用できないような武器・道具を所持している。

 弓の弦を引くが通常のサイズを遥かに上回る大きさのため弦が非常に硬い。そのため、台座の後方部に巻き取り式のハンドルがあり、それを回すことによって弦を引っ張る仕組みになっている。

 次に台座には槍状の金属弾を設置し、『バリスタ』の台座は照準をゴーレムの胴体へ合わせる。

 ゴーレムが腕を大きく振りかぶった。少女は大剣を一度横薙ぎに振り、脇腹へと一撃与えた後に急速に離脱、直後少女が一瞬前まで立っていた場所に巨大な岩の塊が通過した。


「よし」


 ハルトは絶好のタイミングと判断し、固定されている『バリスタ』の弦を解き放ち金属弾を発射した。

 風を切り裂いて一直線にゴーレムの横っ腹へと轟音とともに命中した。


「っ!」


 少女が驚き目を丸くした。金属弾が飛んできた方向へ視線を向けるとちょうどハルトと目が合った。


「今だ! 逃げろ!」


 ハルトが少女に向かって叫ぶ。しかし、少女はハルトの言葉を無視して再びゴーレムへと向きなおる。


「な……!」


 少女の予想外の行動にハルトは言葉をなくす。


「高潔なる父と慈愛に満ちた母よ、我が剣に決意の刃をもたらしたまえ!」


 剣を掲げ詠唱を行うと剣に光が宿る。


「英霊となりて永劫なる時を駆けよ! 『スレイプニール』!」


 地を這わせて剣を振ると、剣に宿った光は粒子となり放たれた。光は軍馬の如く猛進、大地を震わせながらゴーレムへと迫りその巨体を包み込んだ。


「っ!」


 衝撃音が辺りに響き、全身を濁流に飲み込まれたかのような錯覚に陥る。


「……ゴーレムは?」


 土煙が晴れると、下半身が吹き飛ばされ胸から上しか残っていないゴーレムだったものが横たわっている。

 そして、その周りはドラゴンが暴れた後のような破壊の爪痕が大地に刻まれていた。


「すごい……あのゴーレムが…………」


 ピクリとも動かなくなったゴーレム。そして、少女は仰向けに倒れていた。

 ハルトはすぐに少女の元に駆けつけ、顔を覗き込む。少女の顔は疲労が濃く現れ、肌は病的な青白さになり額には大量の汗が付着していた。息も荒く、四肢は痙攣を起こし始めている。

 衰弱しており、この状態で魔物のいる場所に放っておいたら命に関わる。


「あの技は体にだいぶ負荷がかかるのか……」


 『アイテムボックス』の中から2枚カードを取り出して、カード化を解除する。

 1枚は『ポーション』だ。ガラス瓶の中に薬品の香りがする水が入っており、ハルトは少女の口元へ『ポーション』を近づける。


「飲めるか? 楽になるから口に含むんだ」


 ゆっくりと『ポーション』を飲ませた。徐々に頰に赤みを戻しつつある少女を抱えながらもう一枚のカードをカード化から解除する。

 『ポーション』同様、ガラス製の瓶が現れる。ハルトはその瓶の蓋を開け、中身の液体を周囲に撒き散らした。液体からは甘い香りが漂い始めた。

 液体の正体は『タリスマン・ポーション』。一定時間魔物を近寄らせない効果があり、これでしばらくの間この場に留まって少女を介抱することができるようになった。

次は5月5日13時に投稿します。

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