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12:その後

 謝肉祭は街全体の大きな催しだ。

 街は喧騒に包まれている。人々が溢れ、屋台や出店が並ぶ。

 ハルトとシャーリィもたくさんの人が集まっている大通りを一緒に歩いている。

 二人は冒険者ギルドからの帰りだ。公認依頼達成の後処理として顔を出し、ついさっき終わったところだった。

 気がつけば夕暮れになり、街は謝肉祭の真っ只中になっている。ついでに祭りを見ていこう、とシャーリィが提案し二人で屋台や出店を物色している。


「本当によかったの?」


 そんな折、シャーリィがついさっき冒険者ギルドでの話を振った。


「ああ、ランクアップの話?」

「そうよ、せっかくBランクに上げてくれるってのに辞退するなんてもったいないと思わなかった?」

「すごく思った。でも、『勇者』になれたことで十分かな」

「はあ、欲がないのね」


 そう言って、呆れながらもシャーリィは笑った。

 黒騎士との戦いに勝利した後、小部屋の中央に宝箱が出現した。中を確認すると予想外のものが入っていた。

 それは『厄災の塔』の1階層から20階層までのフロアマップだった。

 存在するだけで周囲の環境を汚染し、今現在世界最大の脅威とされるダンジョンが『厄災の塔』だ。

 攻略難易度はダンジョン内で最も高く、ギルドはBランク以上の冒険者にしか入場許可を出していない。

 Bランク以上の冒険者は全体の8%、ハルトたちのように『厄災の塔』攻略に呼ばれた『勇者』でさえ30%以下しかいないため、攻略が遅々として進まない。そのため、『厄災の塔』に関する情報は高額でギルドが買い取ることになっている。

 そうした状況の中で別のダンジョンから『厄災の塔』のフロアマップが発見されたことはギルド内で激震が走った。

 なぜなら他のダンジョンにも同様に『厄災の塔』に関する情報が眠っているかもしれない、という可能性が出てきたためだ。

 今後は大規模な調査団が組まれ公認依頼で人員が募集されることになるだろう、とハルトたちはギルドの人間から聞かされた。

 そして、ハルトたちは『厄災の塔』の情報を持ち帰ったこと、他にも『厄災の塔』に関する情報があるかもしれないという可能性を発見したこと、裏フロアボスである黒騎士を討伐したこと、この3つの功績を認められ報酬をギルドから提示された。

 一つが公認依頼の達成報酬金に功績分の追加報酬を加えた金銭が払われた。

 その金額はベテランのダーダンでさえ唖然とするほどの金額であり、他の4人のメンバーは見たこともない金額となった。

 次にパーティ内の4人のCランク冒険者は黒騎士を討伐した戦闘力と持ち帰った情報がギルドへの貢献度としては最高レベルだったことを考慮してBランクへの昇格が約束された。

 ダニーとキリリアは承諾し、Bランクへと昇格することになったがハルトはそれを辞退、パートナーであるシャーリィもそれに伴い辞退した。

 シャーリィが理由を尋ねると、ハルトは少し考えた後で答えた。


「今回の公認依頼で黒騎士に勝てたのって結構たまたまな気がするんだ。

 まだ実力的にはCランクだし、背伸びしてBランククエストに行くのは正直怖いところがある。

 地道に実力を上げてから自分の力でBランクに上がることにするよ」


 その答えにシャーリィは呆れた。

 シャーリィとしては貰えるものなら貰っておいて損はないと思ったが、愚直なまでの考えはハルトらしい慎重な選択だと納得して自分もBランク昇格を辞退したのだった。

 ハルトが昇格辞退をした理由はもう一つある。

 それは教会からハルトとシャーリィが今回の功績で『準勇者』から『勇者』へとなったことだ。

 この世界に『勇者召喚』された時に『準勇者』という不本意な烙印を押されてしまった二人には寝耳に水だった。あっと言う間に手続きが完了し、二人は現在『勇者』という立場になっている。

 『準勇者』と呼ばれたのが悔しくてここまで諦めずに地道にやってきたので、その願いが思わぬ形で成就してしまい心の整理がついていないのが正直なところだった。

 次にどう目標を掲げるか定まっていないのだ。

 何か目標を決めないと、冒険者としてはやりにくい。なぜならその目標が冒険者をやっていく上でのモチベーションへとつながるからだ。

 ただ単純に金が欲しい、名誉が欲しい、などでも構わないのだがハルトはまだしっくりする目標を得られていない。


「ま、ゆっくりやっていくさ」


 ハルトは近くの屋台で串焼きを数本買い、シャーリィに1本渡した。


「一緒にパーティ組んでいる以上は付き合うわ。

 でも、何もないっていうのはダメだから、当面の目標はちゃんと実力をつけてBランク昇格ね」

「助かるよ。

 黒騎士との戦いで『アイテムボックス』の使い道が正しいって感じたからな。

 ダーダンさんたちからまたパーティ組もうって言われているし活用する機会が多そうだ」

「そういえばキリリアが私とハルトのユニークスキルに興味があるって言っていたわよ」


 黒騎士討伐の時のパーティメンバーとは今も交流が続いていた。

 その場限りのパーティを結成し、依頼終了後も交流があることは珍しくない。


「さ、真面目は話はこの辺にしといて、今はお祭りを楽しみましょう?」

「ああ、そうだな」

「マスターにもお土産買っていきましょう」

「だったらお酒かな。確か職人通りの方で祭りの時にしか振舞われないお酒があるってギルドで聞いた気がする」

「大人ってみんなお酒好きね。あんな苦いものよく飲めると思うわ」

「味よりアルコールで酔うことが楽しいんだよ。気分が良くなるのさ」

「へえ、なら私も少し飲んでみようかしら」

「こっちの世界でもお酒は20歳以上からなので、子供はジュースで我慢しよう」

「ちょっと! この前、大人っぽいとか言っていたじゃない!」

「そりゃ言ったけど、13歳なら飲ませるわけにはいないな」

「むー!」


 膨れっ面になったシャーリィを笑いながらなだめる。

 雑踏の中を歩きながらハルトとシャーリィは祭りの中に溶け込んでいく。

これにて物語は幕引きとなります。

お付き合いありがとうございました。

また次の作品を読んでいただけたら幸いです。

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