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11:決着

 ハルトは投げる捨てたボウガンの代わりに1枚のカードを取り出した。

 解除と念じると、表面が滑らかに加工され両手持ちの剣ほどの大きさもある『銃』が現れた。


「珍しいわね」


 キリリアが言う通り『銃』は珍しい。もともとは『勇者召還』で召還された武器をこの世界の技術で再現した物だ。難解な仕組みなため手入れを行える人物が少なく、弾丸などのが一般に流通していないため『銃』は知名度の高い武器とは言えない。

 ハルト自身、今回の戦闘で使用するつもりはなかった。実戦での検証不足、有限の弾丸など不安要素が多く普段なら使おうと検討すらしないだろう。

 しかし、一つの仮説がずっとハルトの中で組み立てられていた。あまりにも推測が勝ってしまっている考えなため、仲間たちに言うことをためらっているほどの仮説だ。

 だが、この『銃』を使うことで推測だったものがより確信へと迫れるのに最も適しているために選択した。


「弾丸は悪性を貫く槍となれ『バレットM07』」


 この世界の『銃』には引き金はない。それどころか撃鉄もなければ雷管も火薬もない。

 内部に装填された弾丸はただの鉄の塊だ。しかし、『銃』内部の発射機構には複数の魔法陣が刻み込まれており、詠唱と使用者の魔力を使い弾丸を発射する。

 魔法陣は推進、移動補正、回転など弾丸をどの方向に飛ばすかの情報を付与する補助魔法のみが搭載されている。

 普通、魔法と言うと術者の魔力量、理解度など技量によるものだが『銃』は『銃』自身の性能に起因する。

 ハルトの詠唱により発射機構に魔力が与えられ、即座に弾丸が発射された。魔力が与えられた魔法陣が発光することにより、擬似的なマズルフラッシュが発生する。


『小細工を……ぬ!?』


 黒騎士の声色に変化が起きた。

 ボウガンから飛ばされる矢よりも速度は早いとは言え、弾丸も黒騎士にとっては叩き落とせる速度のものでしかなかった。

 しかし、黒騎士は迎撃でも防御でもなく回避を選択した。それも直前での行動だった。


「な、なんだ?」


 全身に裂傷を受けたダーダンが首をかしげる。

 自分や息子の剣技を最初は難なく凌いだ強敵とは思えないほどの行動だった。

 事実、直前まで彼の目には黒騎士が手に持った剣で弾丸を切り捨てる腹積もりのように見えていた。しかし、その予想は外れることになった。


「やっぱりな」

『…………これは。正直、眼中になかったと言わざるを得ない人物だったが、評価が変わった』


 ハルトと黒騎士以外は状況が掴めていない。


「あの黒騎士は魔法を」

『させんよ』


 黒騎士が突如ハルトへの攻勢に切り替えた。近くにいるダーダン、ダニー、シャーリィを捨て置き、位置の遠いハルトへ駆け寄る。

 ハルトは口を閉ざさざるを得なかった。他の者を一切無視て黒騎士はハルトのみに全力の殺意を向ける。目に見えない気圧がハルトを押し付け、防御に専念しなければいけないという本能に従った。


「おいおい、つれねえじゃねーか!」

「ここは通さない!」


 状況は飲み込めないものの、あっさりと背中を見せた黒騎士。

 重傷を負っている体に鞭を打ち、ダーダンとダニーが攻撃を加えようとする。

 しかし、黒騎士を守るように2本の剣が回転しながら二人へ接近する。

 ダーダンは剣でダニーは盾でそれを防ぎ、なおも近寄ろうと試みるが一拍の猶予を黒騎士に与えてしまっていた。


『『乱舞・双璧らんぶ・そうへき』!』


 高速の剣さばきにより、自身の周りに剣戟による結界を作りダーダンとダニーを振り払う。


「くそ!」


 ダーダンの悪態を横目にさらに前進する。


「孤高の炎よ、汝の力、ここに化現せよ『フレイム』!」


 うねりをあげた炎に飲み込まれるも左手で振り払う動作を行うことで容易くかき消した。

 目前の黒騎士にハルトは手元のストックを前後させ、排莢と装填を済まし黒騎士へ狙いをつけ、すかさず詠唱した。


「弾丸は神聖を纏い盾となれ『バレットB01』」


 放たれた弾丸は先ほどと異なり、銃口から出た瞬間に破裂、拡散し無数の破片となった。

 そして破片同士が薄い魔力の膜でつながっている。黒騎士の前で魔力が壁となり繰り出した剣を妨げた。

 それだけではない。

 広がった壁はさらに変形し、黒騎士を捉えようとしている。


『おのれ!』


 語気を荒くし黒騎士は空いている左手で払いのけると魔力の壁は霧散する。

 黒騎士から身を守っていた防壁が消えたことにより危機に陥ったにも下変わらずハルトの表情は笑っている。

 反対に黒騎士から焦りが見えた。


「これで説明する手間が省けたな」


 口元を歪ませ、ハルトは喜びに震えた。

 そして足の下に隠していたカードを見せ、カード化を解除する。

 巨大な岩石が突如出現する、カード化の解除で元の質量へと戻る力によって黒騎士は押し返された。


『ぐう!?』


 岩陰から飛び出しながらボルトアクションで次弾を装填し、黒騎士を狙い打った。


「弾丸は悪性を貫く槍となれ『バレットM07』」

『おお!』


 黒騎士は体制を完全に崩しているにも状態で剣を振り、弾丸を逸らそうとする。

 しかし、弾丸は剣に触れた瞬間に膨張し爆散した。破片が黒騎士の鎧を抉り、深々と奥へと突き刺さる。


『くそ!』


 ハルトの仮説は黒騎士が魔法で生成した物質と現象を無効化でき、実際の剣や石などの物質は無効にできないと言うものだった。

 そしてその推測は当っていた。

 弾丸はただの物質だ。魔力を込め発射したとは言え、黒騎士が打ち消せるものは魔力で生成した物質と現象のみ。

 『バレットM07』は接触と同時に破裂するため、剣で弾けば無数の弾丸が体を貫き、手によって無効化も意味をなさない。

 これほどこの場に適した物はなかった。


「くらええ! 『スラッシュ』!」

「はあ! 『アクセル・ビート』!」


 ダーダンの強撃を腹に受け、機動力を上げたダニーの連続攻撃は負傷した方の腕に追撃を放った。

 二人の攻撃が終わるのと同時にキリリアが魔法を放った。


「癒しの水よ、時として牙となり我を導け『スプラッシュ』!」

『ごはぁ!?』


 体が吹き飛び、ダメージによって膝をつくことになった黒騎士だがそれ以上の追撃は2本の剣が許さなかった。

 ダメージは確かに与えられたが、致命傷になるほどではなかった。


「っち、もうちょいだったのに」

「でもハルトくんのお陰でわかりましたね」

「なるほどね、手で触れた魔法を無効化する能力ってわけね」

「元からの剣術も規格外だけど、厄介な能力ね」

「だけど、ダメージを与えらえれたぞ」


 ダーダン、ダニー、キリリア、シャーリィ、そしてハルトが黒騎士を見据える。

 全員がわかっていた。ここが正念場で勝機であることに。

 ハルトが数枚のカードを取り出し、黒騎士へ投げつける。


『さすがに同じ手にはかからん!』


 もっともカードが少ない方向へ尽きぬけ、避けきれないカードは左手でキャッチしてカード化の解除を妨害した。

 ここでもハルトの推測は当ってしまった。ただし、それは悪い方の意味でだ。

 カードは魔法で作られた物のため、黒騎士に触れられた場合、強制的にカード化の解除またはカード化の解除の妨害の2つと考えていた。

 結果は後者。カード化の解除は防がれ、黒騎士の手にはただの紙となったカードが握りつぶされている。


「孤高の炎よ、汝の力、ここに化現せよ『フレイム』!」


 キリリアの炎魔法が黒騎士がいたところを通過し、炎はカード化を解除した油を巻き込み盛大に燃え上がる。

 次に前衛の二人が前へと出て体制を整えるだけの時間を稼ごうとする。


「ダニー! いくぞ!」

「はい! 父さん!」


 黒騎士の持つ剣と宙を舞う2つの剣を掻い潜り、致命傷以外は無視して二人は攻撃に転じた。


「三連撃だ、くらえ! 『トリプル・スラッシュ』!」


 ダーダンは連続した猛攻で黒騎士の無力化能力を極力使わせない戦法をとった。

 剣のみで黒騎士は攻撃を捌く。


「四連撃だあ! 『クアドラプル・スラッシュ』!」


 さらに攻撃を加えダーダン、息子のダニーの大技までの時間を稼いだ。

 ダニーの盾が魔力により光る。


「とっておきだ! 『リベンジャー・シールド』!」


 受けたダメージの分だけ威力の上がる剣術系の魔術だ。

 盾に込められた魔力が閃光となって黒騎士に照射された。


『邪魔だ!』


 しかし、黒騎士はダーダンの剣を全て反らした後に左手を使いダニーの魔術を防ぐ。


「まだよ!

 始祖の導きの元、大地よ讃歌を歌え『グレイブ』!」


 ダーダンとダニーが左右に避けると同時に巨大な岩が槍となって黒騎士に向かって飛来する。

 しかし、黒騎士は防御も無力化も行わず正面から岩へとかける。軽快な身のこなしと滑らかな足運びのみでキリリアの魔法をくぐり抜けた。


「弾丸はあく」

『いけ』


 宙を舞う2本の剣がハルトへと迫る。


「させない!」


 1振りはシャーリィが退けたが、残り1本がハルトの腕と『銃』を切り裂いた。


「く!?」


 鉄製の銃は無残にも真っ二つとなり床に転がり、腕はギリギリ切断を間逃れた。

 せっかくの好機だが後退を余儀なくされる。


『貴殿の能力は脅威だ。先に潰す!』


 その声が聞こえたのは互いに触れられるほどの距離だった。

 とっさにハルトは無事な方の手でカードを取り出すが黒騎士にあっという間に奪われる。


『無駄だ! これでおわ』


 これで終わり、そう言おうとした時に黒騎士の目にカードが入った。

 『おかまバー クリスタル エリザベル=ゴーダ』と書かれ、隅にはでかいキスマークが押印されていた。


『ふぁっ!?』


 明らかなデコイであった。

 本命のカードは笑っているハルトの口の中から現れた。唾液でぐちゃぐちゃになり、丸まっていたが自身の能力で作ったカードだ。

 そのカードを解除すると1枚のスクロールとなった。

 それはハルトがもっともよく使うものであり、単純な仕組みだ。魔力を与えると植物の成長を急速に促す。

 召喚されてからずっと狩りに使っていたものだった。


『な、に!?』


 スクロールの効果によって急成長したツタが濁流のように黒騎士を覆い隠す。

 腕を絡みとり、足の自由を奪い、一切の身動きを封じた。

 生成されたツタは実際の生物だ。魔法の働きは急成長させることのため、黒騎士の手では無効化できない。


「あとは任せたぜシャーリィ」

「ええ、美味しいところ貰っちゃうわね」


 フラつきながらも黒騎士を見据え、歩み寄っていく。

 シャーリィの手にはロンソードへと変形した『聖剣』が握られている。


「生半可な攻撃じゃあんた復活しちゃいそうだから、一番威力が出る方法を使わせてもらうわ。

 悪いとは思わないわよ。さっきのキック、すごく痛かったんだから!」


 ゆっくりと手に持った『聖剣』を振り上げ、魔力を込める。


「高潔なる父と慈愛に満ちた母よ、我が剣に決意の刃をもたらしたまえ!」


 剣を掲げ詠唱を行うと剣に光が宿る。


「英霊となりて永劫なる時を駆けよ! 『スレイプニール』!」


 決着だ。

 轟音とともにハルトたちのいる小部屋が揺れた。

次は5月8日21時に投稿します。

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