ナイフにご用心9
「おい、早川・・・」
放課後、体育館の裏に、鈴木君と風間君が早川君を呼び出した。その時、早川君はもちろん、ナイフを持っていた。
白田さんは、掃除当番でゴミを捨てに行った時に偶然、その現場を見てしまった。すぐに、白田さんは福島さんと一緒に私のところに来て、そのことを教えてくれた。
白田さんは、早川君と風間君、鈴木君が睨み合っていて、しかも、早川君がナイフを持っていたと知らせてくれた。
風間君は、早川君を挑発した。
「何だよ、お前。ナイフがないと何も出来ないのかよ」
続くように、鈴木君も早川君を挑発してしまった。
「そうだよ、いつもナイフを持ち歩いてるじゃねーかよ」
早川君は、もちろん、その言葉に怒っていた。
その時、私は急いで白田さんと福島さんと一緒にその現場に向かおうとしていた。その中に、久保先生もいた。と言うのも、廊下をかけていたところで、偶然、久保先生に遭遇し、一緒に行くことになったのだった。
「てめぇ・・・」
それは、小さな声だった。
「何だよ、聞こえねーよ。」
鈴木君が、またも挑発した。二人は、早川君が本当に刺してくるとは思っていないのだ。以前、早川君は私には刺そうとしていた。その現場を二人は見ていた。しかし、あれは本当に刺そうとしてやった事ではなく、強がりでやっただけだと二人は思っていたのだ。
「ふざけんなー!」
早川君が切れた。二人に向かって、ものすごい勢いでナイフを突き出していた。
と、その時!
「止めなさい!」
私が叫んだ。久保先生が早川君を止めに行った。久保先生は、私の言葉に早川君が驚いている間にナイフを取り上げた。
白田さんと福島さんは、後ろで怖がっていた。
「早川君!風間君!鈴木君!一体、何をやってるの!」
私は、興奮していた。早川君が、懲りずにナイフを持ち歩いている事、それに挑発した二人。
「田辺ちゃん。」
風間君が、馬鹿にするような目つきで私を見ている。
「た、田辺ちゃんって・・・」
この緊迫した現場で、よくそのような軽々しいことが言えたものだ。その横で、早川君の腕を思いっきりつかんだままの久保先生もその言葉に反応してしまった。
「田辺ちゃんだって?田辺先生と呼びなさい!」
怒って言ったのにもかかわらず、風間君は全然懲りていない様子だった。
「良いじゃん。その方が親しみが湧くしさぁ。若いんだしさぁ、田辺ちゃんは」
大学を卒業したばかりだから、若いのは仕方がないが、それだけで生徒たちに見下されるとは。早く年を取りたいと思ったと同時に、彼らをこれからどう教育していくか、どう教育すべきかと思った。
「まぁ、呼び方はこの際どうでも良いです」
私達は自分の教室に行った。
「どうして、早川君は二人にナイフを突きつけたりなんかしたの?」
私のその言葉から始まった。
早川君は、なかなかクラスになじめず、友達がいなかったのだ。それが、かっこ悪いと思った早川君は、かっこ良いナイフを買い、それを見せびらかして友達を増やしたいと思っていたのだった。しかし、なかなか見せる機会が無く、焦ってきて自分で自分を抑えられなくなってきていたのだと言う。そして、それが爆発してナイフを突きつけてしまったのだ。
「怪我人が出なくてよかったけど、一歩間違えたら大変な事になっていたのよ」
早川君を注意した。
風間君と鈴木君は早川君の本心を聞いて納得してくれていた。自分も早川君の立場だったら同じ事をしてたかもしれないとも言った。そして、みんなで本音トークを続けた。ここにいる生徒たちは仲良しグループになった事は言うまでも無い。