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ナイフにご用心5

「良かったねぇ」

「うん!本当に良い先生みたいだね」

 二人は、私と話が終わってからも私の話をしていた。

「私、絶対にこの学校にはきたくなかったんだぁ」

「明日香も?私もなんだぁ。だってさぁ、誰に聞いても良い事なんて言わないんだもん。あの学校の先生は全員やる気がない!とか言われちゃってさぁ」

「私も!だから、絶対に嫌だったんだけどねぇ」

「でも、田辺先生がいるから!」

「うん、やってけそうだよね!」

 二人は、この学校生活に対して絶望していたみたいだ。私が、生徒だったとしても同じことを思っていただろう。誰に聞いても良い事は言ってくれないし、先生はやる気ないわでは、来る気もなくなるし、絶望したって仕方のないことだ。

 職員室の雰囲気だって、最悪で、大体、しーんとしてて、たまに怪しげなひそひそ話が聞こえる。想像していた職員室の雰囲気とはまるで違う。

 それに、まだ赴任したばかりではあるけれど、職員室に来る生徒を一人も見ていない。

 職員室の時計を見ると、もうすぐチャイムが鳴る時刻であった。初授業から失敗しないように頑張らなくては。


キーンコーンカーンコーン

 とうとう、始業のチャイムが鳴ってしまった。大急ぎで授業の準備をしていたのだが、あわてて準備をしている先生は、私しかいなかった・・・いや、もう一人だけ慌ててる先生がいた。それは、久保先生。久保先生は、この学校の中でもまともなほうの先生なのだから。

 急いで教科書やノートを手に取ると、すぐに職員室を出た。

 早歩きで、急いで教室に行き、ドアを開けると、そこは・・・

「ギャーッハッハッハ!」

「ブワーックショイ!」

「ちょー最悪ぅぅぅ」

 ここは、動物園?と、勘違いしそうなくらいのうるささだった。授業のチャイムなんてお構いなしなのか。小学校だってこんなにうるさくないと思うのだが。彼らの小学校は、うるさかったのだろうか。

「静かにしなさい。出席とるわよ」

 そう言って、私は教壇に立った。

 でも、教室内は依然として、うるさいままだった。私は、もう一度注意をすることにした。静かにならないと出席だってちゃんと取れないもの。他の先生は、黙って全員出席にしてしまうけれども、私は静かにした人間しか出席にしないつもりだ。

「静かにしなさい!静かにしないと欠席にするわよ!」

 少し、興奮気味にそう言った。これでも、抑えていった。本当は、心の中ではもっと強く怒りたいくらいだった。でも、少し押さえ気味にした。生徒とけんかになどならないように。

 しかし、依然として教室内はやはり静かにはならなかった。それどころか、私の声なんて全然耳に入っていないみたいだった。こうなったら、全員欠席にするしかないだろう。だが、よく見てみると、静かな生徒がいた。そう、静かな生徒とは、さっき廊下で会った福島さんと白田さん。この二人だけは静かにしていた。他は、全員動物だった。

「福島さんと白田さん以外は、全員欠席にするわよ!良いわね!」

 と言うと、一人の生徒が反論した。

「何だよ、ババァ。全員欠席だぁ?ちゃんといるじゃねーかよ!何で、欠席にされなきゃならねーんだよ!」

 それは、鈴木一哉。鈴木君は、中学生だと言うのに髪の毛は金髪だった。

「ババァじゃないでしょ?それに、授業中だというのに、うるさくしているんだから、授業に欠席しているのと同じだわ。欠席にされたくないんだったら、静かにしなさい!」

 冷静に反論したのだが、鈴木君は、より一層興奮したようだ。

「なんだとぉ?何で、お前の指図を受けなくちゃいけねぇんだよっ!えらそうな口利くなっ!」

「そーだ、そーだ!」

 私の言葉に、鈴木君はすぐに反論した。しかも、それに他の生徒も同調している。さすが、問題児の塊だ。一体、どんな親がこの子達を育てたんだろうか・・・。親の顔が見てみたいとは、こう言う事を言うんだろう。

「ちょっとぉ!静かにしなさいよねっ!先生は、何も間違った事言ってないんだし!」

 これは、福島さんの台詞だ。福島さんは、成績が悪かっただけで、他に問題はなかったのだ。本当は、そのまま近くの公立中に行くはずだったのに、これでは勉強についていけないと思ってここに来たそうだ。白田さんも全く同じ。二人は、同じ小学校に通っていたんだけど、二人はダントツで成績が悪かったらしい。

「何だよ。お前、こいつの味方するのか?」

 こ、こいつ? 教師に向かって、鈴木君は堂々と「こいつ」と言った。

「こいつって言い方は、無いでしょ。先生と言いなさい」

 すぐに、私は反論したのだが、

「うっせー、ババァ!」

 想像以上に、この学校はすさまじい。教師が目上の人間だと全く理解していない人間の寄せ集めなのだろう。

「ちょっと、好い加減にしてよ!それよりも、もうこんな人たちはほっといて、授業進めてください」

 これは、白田さんの台詞だ。白田さんと福島さんだけだ、私の見方をしてくれるのは。

 鈴木君に同調する生徒。それすら無視して友達同士でおしゃべりを続ける生徒。眠っている生徒。漫画を読んでいる生徒・・・そして、私の見方をしてくれる生徒。本当に、バラバラだ。

 私は、白田さんと福島さんのために授業を進めようと思った。

「何だよ。点数稼ぎか、お前。いやらしい奴だなぁ。あぁ、やだ、やだ」

 鈴木君はどこまでも、授業を妨害するつもりなのだろうか。福島さんと白田さんにかみついている。

「とにかく、もう授業を進めるわよ。時間がもったいないんだから」

 そう言って、私は無理やり授業を開始した。そして、白田さんと福島さん以外は欠席にした。


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