ナイフにご用心4
大塚先生とは、中学のときからずーっと手紙のやり取りはしている。「年賀状出すから住所教えて〜」って言って、ドキドキしながら、大塚先生の住所を聞いたことを、いまでも鮮明に覚えている。
たまに、「手紙の中で遊びに行っても良い?」って書いたんだけど、結局、一度も遊びに行くことはなかった。そう言えば、いつも大塚先生は、年賀状で「今年こそは彼女を作るぞ!」とか、「今年こそはお嫁さんをもらうぞ!」だとか書いてた。それを見ながら、「私がいるのに」って、思ったりもした。
会いたい気持ちが募って、何度か先生のうちの前までは行ったことあるんだけど・・・。会うことはなかった。
大塚先生は隣の学校にいる。最寄り駅は一緒で、私の初勤務の学校のことは、手紙に書いたのだった。でも、あんまりいいことは書いてなかった。大塚先生もあの学校のことはちゃんと知っていたんだろう。久保先生だって、前の学校にいたときに噂で聞いたくらいだ。大塚先生なんて、隣の学校に勤めてるんだ。この学校のことを、いろいろと知ってるんだ。だから、実態を教えて失望させたくなかったんだろう。
次の日、学校では噂が広まっていた。生徒たちの間では私のことが噂になってしまったらしい。と言うのも、昨日、私が早川君に対してしたことがこの学校に入る前に聞いていた学校の先生像と違っていたかららしい。生徒たちもすでに、この学校がとんでもない学校だと言うことをしっかりと聞いていたのだろう。生徒たちは、この学校をなめきって、入学したということなのだろうか。
「田辺ってよぉ、先公のくせに、早川のナイフを取り上げたらしいぞ」
「マジかよ?生意気なやつだなぁ」
「初勤務だからなぁ。張り切ってるんじゃないのぉ?」
廊下を歩く私に、わざと聞こえるように言っていると思われる、他クラスの男子生徒たち。ブレザーのポケットに両手とも入れて、こちらに冷めた視線を送る。
そちらをちらりとも見ず、私は廊下を同じ速度で歩き続けた。
噂は、あっという間に全校を駆け巡ったらしい。彼らだけでなく、その後もずっと、冷たい視線を何度となく感じるのだった。
「先生」
廊下を歩いている途中、女子生徒二人が、私のところにやってきた。
「何、どうしたの?」
と、私が聞くと二人はうれしそうな顔をして。
「先生って、この学校の先生らしくないですね。私、安心しちゃった」
「私達は、この学校がろくな学校じゃなくてろくな先生がいないって聞いててすごく不安だったんですよ。でも、田辺先生は他の先生と違うし・・・、本当に安心しました」
碌な学校ではなくても、まともな生徒はいるようだ。
この二人は、私のクラスの生徒で、福島明日香と白田麻奈美であった。この二人は、問題児と言うか・・・小学校のときの成績がかなり悪かったらしい。
「確かに、この学校にはあまり良い先生はいないような噂があるみたいだけどねぇ。ま、何かあったら私に何でも相談してね」
そう言うと、二人は目を輝かせて、
「ハイッ!」
と、元気よく言ってくれた。