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ナイフにご用心3

 私は、怖くなった。テレビや新聞で高校生の殺傷事件が騒がれているが、もっと若い子が凶悪な犯罪を犯してしまったことさえあるんだ。それに、学校崩壊ということも言われている。それは、小学校の話であって、中学校ではないと思っていたけど、そうではないようだ。小学校で学級崩壊してるってことはその学校崩壊をした生徒が中学校にきているとすれば、中学校が学級崩壊しても不思議ではないんだ。

 それに、あの学校はおかしい。私のクラスの担任の小林先生って、熱血教師?って思ったのに、全然熱血じゃない。それどころか、教師失格って感じがする。あの先生は教育一家のはずなのに、全然教師らしくないじゃない。一体、どんな家族なんだか・・・。

「田辺先生」

 私が、放課後、職員室の自分の席で考え事をしていると隣のクラスの副担任の久保先生が私に話し掛けてきた。

 久保先生は見た感じでは、とても若く、この学校の中では私の次に若い先生だ。年は30代か、20代なのか。

「あっ・・・久保先生でしたっけ?何ですか?」

 そう言うと、久保先生は私に小声で言った。

「ちょっと、お話したいことがあるんですけど、今日、これから良いでしょうか?」

 言い終わると、久保先生は空いている私の隣の席に座った。

 今日の夜、新人歓迎会とかはないんだろうか?それとも、それはまた違う日にやるんだろうか?それとも?そう思い、聞いてみることに・・・。

「新人歓迎会とかはないんですか?」

 そう聞いてみると・・・、

「この学校ではそう言うものはないんですよ。それで、ちょっとこの学校のことを教えといたほうがいいと思うんで・・・今日の夜でもちょっとお話をしたいと思いまして・・・」

 私は、今日でなくても近いうちに歓迎会が開かれるものとばかり思っていた。幹事の先生が私に都合のいい日を聞いて、全員の都合のいい日をきめて、近いうちにやるものとばかり思っていた。

 やはり、この学校は普通の学校とは違うのだ。

 一つ溜息をつこうとしたが、隣に久保先生がいるので、ぐっとこらえた。

「普通、あるんじゃないんですか?」

 久保先生は私にちょっとだけ近づくと、耳打ちをしてきた。

「僕は、2年前にこの学校に赴任したんですけどね。その時も何も行われなかったんですよ」

 今日、この学校にきて、ずっとおかしいとは思っていたけれど、ここまでおかしいとは。この先、私はこの学校に居続けることができるのだろうか。だんだん不安になってきた。まだ、1日しかたっていないというのに。

 私は腕組みをした。

「今日の夜ですか・・・」

「えぇ。どうです?学校の近くにいいお店があるんですけど」

 職員同士で親睦を深める気は全くない学校なのだ。だが、久保先生はどうやら違うようだ。久保先生を味方にすることは、これからこの学校で教鞭をとる以上、いいことだろう。

 一人でも味方を作っておこう。


 そして、夕食を久保先生と食べに行くことになった。

 中学校から数駅離れたところにある小料理屋に連れて行ってもらった。住宅街の中にポツンとあるのだが、中に入ると人であふれかえっていた。

 注文を終えると、おしぼりで手を拭きながら久保先生が緩んだ表情で話し始めた。

「僕は、あの学校に来てまだ2年ですけどね。来る前から、というか前の学校でもうちの学校の噂はいろいろと聞いていたんですよ。」

「噂・・・ですか?」

 私は、大学であの中学校の噂など一つも聞いたことがなかった。一体、どんな噂が流れていたのだろう。かたずをのんで、久保先生の言葉を待った。

「そう。あの学校は、ろくな教師がいないとかねぇ。それで、進学率は良いようなことを言ってはいるけれど。でも、それは、単にエスカレーター式に上の高校に入れるだけなんだけどねぇ。とは言え、それが売りでもあるんだけど。」

 私が感じたことがそのまま噂になっていたようだ。ろくな教師がいないうえに、生徒も教師をなめているように感じられた。私の耳には入っていなかったけれど、あの中学校のことは小学生の間でも有名だったのかもしれない。

「他にも何かありましたか?」

 私は、恐る恐る聞いてみた。

「えぇ、そうですねぇ、あの学校に入ってくる生徒は小学校のときに問題児だった生徒ばっかりだとか聞いたことがありますよ。」

 他の学校が受け入れたくないような問題児を受け入れている・・・だとしたら、生徒が教師をなめるのもわかるような気がする。

「僕は、あの学校にだけは行きたくないなぁってことを思っていたんですけどねぇ。赴任が決まったときには、あの噂は絶対に嘘だ!と思って行ってみたんですけどね・・・。」

 実際は、噂の通りだったという訳か。

 久保先生は、お酒をちびちび飲みつつ続けて言った。

「あの学校に来て、思ったんですよ。このままではいけないって。この学校を変えなければならないって。でも、周りの先生はみんな敵って言うか・・・、交流もほとんどないんでね。でも、田辺先生は違う。田辺先生、一緒にあの学校を変えていきましょう!」

 力強い言い方だった。気弱な感じの先生に見えるけれど、見かけによらず、熱血先生だったようだ。あの学校にも、まだ、希望の光はあるのかもしれない。久保先生と組むことで、少しはあの学校をいい方向へと持ってくことができるかもしれない。

 一縷の望みが見えてはきたが、敵が多いことも忘れてはいけない。ただ、一人ぼっちではないのだと思うと、それだけで、緊張の糸が解かれていった。

「田辺先生は、大学卒業してすぐにうちの学校でしょう?大変ですよねぇ。」

 どうしても気になってしまう、久保先生の口調。お酒が入っているのもあるとは思うが、なれなれしいというか、お調子者のような口調に感じてしまう。

「あれっ?田辺先生、全然食べてないじゃないですかぁ。どんどん食べてくださいよぉ!」

 やはり、お調子者という感じがした。先ほど見た、希望の光は正しかったのだろうか。

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