三者面談6
次の日、学校に来て見ると大野君が来ていた。説得に成功していたようだ。どうやら、生徒のほうが説得には向いているようだ。思春期の子供の共通の不安を解消するには、同じ年齢の人間が必要なのだろう。
三者面談は、今日が最終日。あと三人で終了だ。長かった道のりではあったが、生徒が協力してくれたおかげで何とか乗り切れそうだ。
トップバッターは、蘇我仁志。何と無く行く気が無いらしい。ちゃんと本人が学校に来てくれたので、生徒たちと一緒に話をさせてみた。蘇我君は、とても楽しそうに話をしていた。
次は、赤羽和子。登校しない理由は、友達がいないから行かないらしい。今度も本人が来てくれたので、女子同士で話をすることに。すると、やっぱり楽しそうに話していた。生徒の不安は、生徒が解決するほうがいいのだろうかと思ってしまう。
最後は、本橋大吾。学校が怖いらしい。学校が怖いって言う生徒が多すぎるように思う。よほどこの学校に関する変な噂が流れているらしい。と言うより、この学校の生徒・教師がいかに悪いかもあるだろう。
さてさて、時間だと言うのに本橋君が来ない。親も来ない。電話も来ない。いったい、どうしてしまったというのだろうか。
不安に思っていると、一人で寂しく待っている教室に風間君が入ってきた。
「田辺ちゃん・・・来そうになくない?」
「うん・・・そうねぇ。ちょっと電話してみるわね。」
そう言って、私は電話をかける事にした。急いで職員室へ行き、電話をかけると、本橋君の親が出た。本橋君がどうしても行きたくないと言って部屋から出てきてくれないのだった。私は、今からそちらへ行くと言って許可をもらい、あの五人と一緒に本橋君の家に行くことにした。
「田辺ちゃん、任しておけって!俺たちが絶対に学校に行くように説得するからさ!」
すっかり、風間君は自信をつけてしまっていた。ずっと説得に成功しているのだから、自信が付くのも当然だろう。
そして、本橋君の家に到着。中に入ると、本橋君の部屋の前まで通された。最初に話し掛けたのは風間君だ。
「本橋、一緒に学校に行こうよ。」
優しい声で、そう言った。これはいけるでしょうと思ったが、返事はなし。
今度は、福島さんが言った。
「ねぇ、本橋君、学校は怖くなんかないよ。だから、出てきて一緒に話をしようよ、ね。」
優しく話しかけているのに、本橋君からの反応は全くない。
「学校のどこが怖いの?」
早川君がそう言った。なんとなく想像できるとは言え、明確な理由を聞いておいたほうが良いだろう。
すると、本橋君が小さな声で言った。
「いじめ・・・ありそうだし・・・。先生・・・相談にのらなそうだし・・・。」
そうだったのか。やはり、学校のイメージがかなり悪かったようだ。
「本橋君、いじめなんてないよ。それに、何か相談したいことがあったら何でも私に相談して。」
精一杯の言葉だった。私には、これくらいのことしか言えない。
「先生の言うことなんて、信じられるか!」
本橋君は、かなり興奮しているようだ。すでに、うちの学校の悪いイメージが頭の中で出来上がっているだけに、私の言葉だけでは、到底信用なんてできないのだろう。
「田辺先生は、良い先生だよ。他の先生は駄目だけど、田辺先生は私たちのことをちゃんと見ててくれるし、話だってちゃんと聞いてくれるよ。現に、こうして本橋君の家まで来てくれたじゃない!」
白田さんが力強く言う。私は、自分ができるだけのことをやろうと思ってやっただけなのだが、城田さんは私の思いをしっかりと受け止めてくれていたようだ。これまでの苦労はちゃんと実を結んでいたようだ。
しかし、白田さんの台詞で、その場はシーンとしてしまった。本橋君からの返答もない。どうなるんだろう。このままでは・・・、とその時・・・
ドアが開いた。本橋君が肩を下げて出てきた。
「田辺・・・先生・・・。」
「何?」
本橋君は、俯きながら私に言った。
「俺、小学校の時いじめられてたんだ。その事を先生に言ったのに、無視されちゃったんだ・・・。」
泣きそうな声でそう言った。
「大丈夫よ、本橋君。私が、何とかするからね。正直に何でも話していいんだからね。」
そう言うと、本橋君は号泣した。私の膝の上で、泣き崩れてしまったのだ。私は、軽く頭をなでた。それしか、出来なかった。
次の日、学校に行くと、全員出席していた。夢が叶った瞬間だった。