出会い
──これより、第六魔王バフォメットの所有エネルギーを対価にダンジョンを作成いたします──
──エルドラ大陸、チッカ王国に位置する名称の存在しない森のダンジョン化に成功致しました──
──続いて第六魔王バフォメットを核にダンジョンコアを生成します──
──ダンジョンコアと第六魔王バフォメットの適合に成功致しました。これに伴い、第六魔王バフォメットは“ダンジョンコア”バフォメットに変化致しました──
──召喚条件『ダンジョンの初期最低限の土地の確保』、『ダンジョンに思考能力を持つダンジョンコアが存在し、召喚許可を出している』、『対象者が召喚に応じる』を全て達成致しました。ダンジョンマスターを召喚致します──
◆◆◆◆◆
「初めまして、ダンジョンマスター田中鷹夫」
小さな部屋の玉座らしき椅子の上で目覚めた僕は正面に立ち、僕に話し掛けて来た者に視点を合わせた。
人の体に獣の頭、黒い翼に2本の角。驚きを隠せず、思った言葉をそのまま口に出す。
「…悪魔!?」
「否。元第六魔王バフォメットにして、このダンジョンのダンジョンコア、魔神バフォメットだ。召喚に応じて頂き感謝する」
僕の知っている人間という姿とは似ても似つかぬ容姿をした彼(?)こそが僕をここに喚びだした召喚者なのだろう。
頭を下げるバフォメットさんに頭の整理が追いつかぬままに言葉を掛ける。
「あ……その…………。…バフォメットさんが、僕をここに呼んだ…人、で………合ってますか?」
「ああ、そうだ。何か問題でも?」
「いえ、思ってたのとは大分違うなぁ~と。あははは………」
ああ、人なんだぁ……自分の中の常識が覆されていくことに多少の諦めを込めて遠い目をする僕。
気を取り直し、不思議そうな顔をしているバフォメットさんと会話をしてみたが、時々会話がかみ合わない。
どうやらこの世界にとって今回の召喚は予想外な出来事だったらしく、転生直後で生まれたばかりの僕はまだこの世界に馴染みきれていないようだ。
そのため、召喚された者や転生者であれば必ず最初から与えられている言語や用語の知識が不完全になっている。
しかし、それも今だけのようだ。会話している最中も世界そのものから様々な知識が送られて来て、足りない知識を補完してくれている。
とにかく、送り込まれた知識から、バフォメットにこの世界についての話を少しずつ聞きつつも、ダンジョンの運営を優先して行っていくことが一番だと判断した。
苦しまなくても良いように、自由に生きれるようになるためには強くなるしかないのだから。
頑張れば強くなれることが保証されていて、強くなれば、二度と虐げられたり奪われたりしなくてすむようになるのだから。
「それじゃあバフォメット。さっそくダンジョンを強化して行きたいんだけど……どうしたら良い?」
「ダンジョンの状況を確認したいと思いつつ右手を軽く振ると、空中にダンジョンの現状についての情報が出現する設定にしてある。それを確認しつつ、ダンジョンのエネルギーや力をモンスター召喚などに使用していこう」
言われた通りに右手を振り、ダンジョンの情報を確認する。
現在所有しているダンジョンの残りエネルギーは10000DP。フィールドは森で、階層は一階になっていた。
「このDPっていうのは何?」
「ダンジョンのエネルギーを数値化した、ダンジョンポイントを表す記号だ。ダンジョンというのは大気中の魔力を消耗した時に発生する負の魔力によって創られる。エルナは魔王や魔族の強化にも使える割と便利なエネルギーだ」
召喚出来るもののリストを表示させて、いろいろと見比べながら質問する。
「優先するべき事ってある?」
「あるぞ、先ず生活面では食料の確保が必要だ。何もないこの森は襲って来るような敵もいない代わりに、食べれるような物も無い。DPで食事の代用が出来るとはいえ、生産体制は早めに整えるべきだ。食料さえあれば、最低限生きていくのは何とかなる。
次に戦闘面だ。現在この森にいるのは私とお前。…後は以前からこの森に生息していた脅威になり得ないスライムの最弱種ぐらいだ。私がいれば大抵の敵はどうとでもなるが、先のことを考えれば早い内から戦力は育てておく必要がある。最初はマナやエルナを発生させるものやコストが低いモンスターを召喚すればいいだろう」
「食事か~。バフォメットは何を食べるの?」
「今の私は魔力生命体となっているからな。食事は必要としない」
よく分からない単語がいっぱい出て来たけど、何となく知りたいことは分かったし、細かいことは後でいいや。
とりあえず僕はお腹も空いたので食料品が書かれている所から食べ物を召喚する。
よく分からない食べ物が多かったので、安全の為にも少しDPが高めだったが馴染みのあるカレーライスという料理をDPで召喚した。
食材から料理まで幅広く書かれていたが、召喚されたこの料理はいったいどこでどうやって作られているのだろうか?
バフォメットに聞いて見たが、バフォメットもよく分からないらしい。……手続きや召喚を行っているダンジョンコア自身が知らないって、いろいろ大丈夫なのだろうか?
相談しながら計画を立てている内に日が暮れて来て部屋も薄暗くなって来た。
うん、今日はここまでにしよう。
毛布をDPで召喚すると玉座の上でくるまって寝る姿勢に入る。バフォメットは要らないらしい。
「もう寝るのか?光の魔法陣などがあれば明るく出来るぞ」
「辺りのマナが枯渇しているらしく、出してもしばらくは使えないよ?」
「…そうだった。ダンジョンマスター召喚の時に使い切って、全てDPに変えたんだった」
バフォメットは睡眠も要らないらしく、全く明かりが無いのも可哀想だったので、50DP消費してフェアリーライトを10本程召喚してあげた。
フェアリーライトは暗闇の中に浮かぶように、ぼんやりと極彩色に光る植物で、摘んで持ち歩けば明かりの代わりになるらしい。
すっかり日が沈み、月明かりとフェアリーライトの光だけが照らす部屋の玉座で今度こそ僕は眠りについた。
初日から不安だらけではあるが、僕とバフォメットのダンジョン活動はこうして始まった。
ダンジョン収支
初期DP
ダンジョンマスター召喚によって発生 10000DP
入手DP
魔神生息によって発生 1日100DP
(初日は半日も経っていないので、入手DPは40DP)
支出DP
カレーライス 50DP
水 1ℓ 10DP
毛布 5DP
フェアリーライト 10本 50DP
残りDP 9925DP