喚ばれた迷宮の主
「キタレ! キタレ!」
傷が大分癒えた魔王は、勇者と戦う為の仲間を召喚しようとしていた。
「シイタゲラレシ クツウヲシルモノ。ワガイカリヲ リカイデキシモノ。リフジンニ アガラウベク イマ ショウカンニ コタエタマエ! イカイノセンシ ココニキタレ!!!」
◆◆◆◆◆
僕の朝は非情に早い。
まだ日も昇らぬ暗い内に同僚によって蹴り起こされる。
ドカッ──
「あがっ!?」
「おい、田中~。喉が渇いたから、水を持って来いよ」
「ゴホッゴホッ」
咳き込みながら、急いで言われた通りに動き始める。
「30秒なぁ~」
……無理に決まっている。どう急いでも、往復だけで1分は掛かるのだから。
昭和時代、ドイツが降伏し、いよいよ後がなくなって苦しくなった帝国は神風特攻の為の兵士たちをかき集めていた。
僕たちの出撃は明後日。最期までろくな人生じゃ無かったな。
戦争初期に父を失い、母によって女手一つで育ててもらった。
欲しがりません勝つまではのスローガンの下、暮らしは厳しく、元々体の小さかった僕は近所の奴らにいじめられていた。
守ってくれた兄たちも早いうちに志願兵として、または赤紙によって戦場へと出て行ってしまった。
忙しい母に頼るわけにもいかず耐える日々、ある日家に帰ると、母が冷たくなって居間に倒れていた。
過労死だったのだろう。
1人で生きていける訳も無いと判断した僕は直ぐに志願兵になることを決めた。
出立の前日。僕をいじめていた奴らの悪ふざけで、家を焼かれた。これほどの出来事があっても奴らは一人として、悪びれる様子のある奴はいなかった。
見て見ぬ振りをする大人たちと、見下し嘲笑う奴らを見て悟った。もしあのまま残っていれば命が危なかったと。
兵となってからも僕の暮らしが上昇する事はなかった。
上官や先輩、同僚たちにいじめられギリギリのところで命を繋いできた。
水を持ち帰り、遅いと蹴り飛ばされた僕はその理不尽な暴力に耐え、その後朝会に向かう。
朝会後、いつもの様に先輩に仕事を押し付けられた僕は、これまたいつもの様に朝食を食べ損ね、朝の訓練に向かう。
「遅い!田中は十周追加だ!!」
上官の罵倒が飛ぶ。
既に他の者は全員来ていたが、時間はまだ5分前である。
何より上官自身が今来たばかりだ。
当然コレも嫌がらせ以上の理由は無く、あてつけである。これ以上早く来れないのを分かった上でやっているのだから。
「すみません!!」
逆らうなんてありえない。罰が増えるだけなのだから。
こんなことが夜まで続き、夜中ヘトヘトになって死んだように眠る。
これが僕の日常。…だった。
昼の休憩。こっそりと食べ物を貰い、他の奴らには見つからないように隠れていた僕の目の前に、魔方陣が現れた。
『汝、運命ニ逆ラウ覚悟アレバ、全テヲ捨テ、召喚サレタシ』
──当然のように、僕はこの怪しい魔法陣の召喚に応じた。
2日後。飛行機に乗り込んで敵の船に突撃し、そして死んだ僕は、そのまま異世界へと転生した。
このシリーズは史実とは全く関係が無く、特に深い意味がある訳でもありません。
また、次元世界、平行可能性世界、並行時空世界、隣接境向世界、反転世界、異世界、立体交差並行世界、などなど複数の世界観論を使用している為、色々と混ざっていることをご留意ください。