最終決戦
「ユルサヌ、ユルサヌゾ ニンゲンドモォォォォォ!!!ワガイカリ、ニクシミ、カナラズヤ キサマラヲ ホロボシテヤル!!」
常に霧が立ちこめる“沈黙の峡谷”の山頂にて、第六魔王バフォメットと勇者アルメイツ達の最終決戦が行われていた。
満身創痍となった魔王は、切り立った崖の淵で勇者達を見下し、怨嗟の声を上げる。
既に魔王は、黒山羊のような頭から生える2本の角の片方は砕けて折れ、黒い翼からは無数の羽が散ってしまっている。
勇者達の方も、無傷なものなど誰もいないほどボロボロだが、全体が傷だらけで力を使い果たし、立っているのがやっとの魔王にもはや勝ち目など無いだろう。
勇者の最後の攻撃を受けた魔王はそのまま崖の下へと落下し、眼下の霧によって直ぐに姿が見えなくなった。
「しまった!」
しっかりととどめを差せなかった勇者が慌ててさっきまで魔王がいた崖の淵へと駆け寄る。
下を見下ろすが、霧によって全く見ることが出来ない。
そんな勇者の肩にエルフの賢者グオールが手を置く。
「一度入れば出てきた者がいないという沈黙の峡谷へ、あの状態で落ちていったのだ。いくら魔王といえども助かりはせぬだろう」
「……俺たちの勝ちってことでいいんだよな?」
「ああ、国へ帰ろう。皆が待っている」
勇者達は魔王討伐の知らせと伴に、砕けた角と散らばった羽を拾って“沈黙の峡谷”を後にした。
一方、魔王は──
数分間という長い時間を掛けて、深き谷底へと落下し続けていた魔王はそのまま谷底を流れていた激流の河へと落ちた。
魔王特有の強靭な肉体と強い生命力で7日7晩激流に揉まれながら河を流され続けた後、勇者と戦った場所とは沈黙の峡谷を挟んで丁度反対側に位置する小さな森へと流れ着いた。
近くには十数人程度のホビットが住む、小さな村が1つあるだけで、めったに人も来ず、名称も付けられていないような森だった。
「ニンゲン、ユルサヌ。ホウフクヲ フクシュウヲ ……ゼッタイニ センメツ シテヤル!」
煮えたぎるように熱い怒りに蓋をして、荒れ狂う心を押さえつける。
体を癒やす為、殆どの時間を自身の治療に使う。
碌に動けぬ故、その場で近くの草の根や木をかじって飢えを凌ぎ、空腹を誤魔化すように眠りにつき身体を休める。
──全ては、復讐の為に……。




