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6_ファンタスティック・ ーヴ(2)

 バランスを失った動体は切断部から血を吹き出しつつドスンと音を立てそのまま前に倒れた。

 一瞬にして緊張の糸が張り詰め、狂乱の渦が集団を飲み込む。

 まず前列から悲鳴があがり戦闘態勢に入る者、左右の森に飛び込む者、それぞれが一瞬で動作に移る。


──はああああ!?!?お前が一番油断してんじゃねーか!!!

などとツッコミなど入れる余裕もなく、当然俺も条件反射的に腰の魔道具を発動する。

「くっそ。なんだこの『間違い探し』ゲームは。わけ『わからないまま』スタートかよ!」

 投げやり気味に、尚且つ人に聞かれないように吐き捨てた呪文が発動するとポーチの中にしまってある人形が世界から消失した。

 同時に俺自身は世界からその存在が消えて。

「やっと出番キタアアアアッ。ってかいきなり最終回的なこの状況やばくねっすか?ちょっと来て早々申し訳ないけど帰りたいっす」

 もう一人の自分である相方が姿を現す。


そもそも俺みたいな魔道具士はこの世界では希少種だ。

なぜかというと大まかに言えば

・魔道具を作成する技能が必須である事

・体内に現有する自分の魔力を枯渇するまですべて注ぐ事。

・基本、自分では魔道具の性能は出来上がって初めて理解できる事。

 魔道具士になるにはこの3点を満たす必要があるからだ。

 そしてこれだけの労力を注いでも出来上がった魔道具は基本1人1個で譲渡不可。その1個も1能力しか付帯されない。例外で複数個所持してる奴もいるがそれはごくまれの例外中の例外。

 更には出来上がった魔道具は性能がランダムな上、枯渇状態まで注がれた魔力は二度と戻らない。

 普通の魔力消費なら寝てれば勝手に回復するものだが魔道具作成の場合はそれが通用しない。

 結局、魔道具作成を覚えるのが面倒なのに加え、メリットよりもデメリットの方がデカいのだ。そんな理由から魔道具士を名乗る奴などは希少種かつ酔狂というレッテルを張られてしまう。

 そんな訳で普通に魔力が有り余る人間なら間違っても魔道具作成など選択しない。

 魔力を体内循環させて筋力や肺活量補助に流して拳法家や剣士や戦士になったり、そうでなければ魔力を体外発動させて物質化させて魔法士になったりするのが常道になる。


 でもまぁ、そんな奴らですら人口の1割に満たない例外的存在なのだけど。


 大抵の人間はその魔力で水を生み体や食材を洗うのに使う。マッチ程度の火を生み出して調理したり、農作物に魔力を注ぎ成長を促したりするのに使う。

 その程度のごくごく小規模なのだ。魔力で間違って人を殺せるような武器になるはずもない。日常生活程度の魔力量なのだ。てか、そっちが普通。

 そして普通大好き小市民の俺もそっちの人間だった……はずなのに、成り行きで間違ってしまいなぜか魔道具士になってしまった。

 特に後悔はないのでいいんだけども。

 そして、先述の通り基本人の魔力というものは生まれながらにして基本一定かつ固定なので魔道具作成で失ってゼロになった魔力を再び増やしていくには例の『継承』しかない。ほんと皮肉なまでに出来のいいシステムだ。俺の場合は別に望んじゃいないのにどれだけ継承を受けた事か。って思い出すだけでなんか心がキリキリ痛んできたのでもう割愛。


 ちなみに、今発動させた魔道具は身代わり人形みたいなものだ。

 本来常時発動型で呪文を唱えない限りは俺にしか見えない幻覚として存在する。呪文を唱えると、えーと簡単に言うところの、自分を丸ごとコピーしたロボットが生まれて誰でも見えるようになると思ってくれればいい。

 まるで手を繋いだだけでパワーがアップしそうなF子先生の漫画のような話だ。

 ほぼ俺と同スペックのこのロボットには一丁前に人格がありやたらボケとツッコミが激しいのが難点だが、この『相方』は殺されなきゃ1日1回1時間まで使える。

 そしてここからが最大の特徴で。

 

──相方がいる間、すべての存在は本体である俺自身を基本的に認識出来ない。


 例外として敵意のある一撃をコピー元である自分自身がうっかり被弾したり、自分から敵意を持って一撃与えたりすれば、この認識阻害は解除され、結果分身の術的な2人見える状態に移行するのだが兎にも角にも何もされない・しない事が出来れば最強の魔道具なのだ。


そう、つまり。


逃げる為には最強の魔道具なのだ!(←ここ重要)


自分のコピーを目の前においといて本体である俺は距離を稼ぐ。最強の逃亡パターンだ。相手からしてみればずっと俺はそこにいると勘違いしちゃってるわけだから。万が一相方がやられたり1時間の時間切れが起きたとしても、発動場所であるポーチの中に人形として自動的に戻ってくるだけなのだ。そして一日立てば再利用可能。これぞリサちゃんとイクルくんもびっくりな程の最強リサイクルシステム。


『うん。ほんと、逃げるしか能のないクソ魔道具だよね(ボソッ』

 相方が嫌味を言うがそこは甘んじて受けとめよう。だって真実だし。

『で、どうすんの?逃げるかい?』

 目の前の異常に意識を向けたままテレパシーで会話してくる。



「当然逃げたいんだけどさ」

 俺は森を見回し呟く。


「ここ……どこやねん!!!」

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