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5_ファンタスティック・ ーヴ(1)

 かなり胸糞悪いが意地で一杯飲み終えた後、言われるままに奥の部屋へ案内された。

 途端、森を切り裂いた広場のような場所に飛ばされる。ここに来るまであれほど鬱陶しかった瘴気は全く見当たらなかった。ひたすらに、澄み渡る空と木々が周りを覆っていた。

 再び転移魔法の形跡を感じられずに飛ばされるとか、自分が過ごした10年の経験は一体何だったのかと思わなくもないのだけど、不思議とだんだん慣れてきた。

 環境に対応してくるそんな自分が若干怖い。


 広場には、既に話に出た112人と思しき猛者が集っていた。あ、自分ら除いて108か?

 不気味なほどに馬鹿でかい斧を入念に手入れする戦士。目を閉じ瞑想しながら時を待つ魔法士。真っ黒に染め上げた装備に身を固める暗殺者。などなど。

 種族も様々だ。人間やエルフやドワーフはまだしもほとんど見かけない奥地の獣人までいる。そしてどいつもこいつも一目みるだけで歴戦のツワモノオーラを醸し出してる。

微妙に鬱陶しい。だって小市民を自称する俺には明らかに場違いで、腰が引けて仕方ないから。


「というか、こいつらをして勝ちは微妙なのかよ……」

 初見の率直な感想だ。

 どうみても俺だけおかしいだろ。帰りたい、今すぐとても帰りたい。

 更に目を凝らすと、剣の流派の3源流と言われる鬼神流、水清流、星道流の開祖っぽいのがいた…というかまんま開祖だよな、あれ。以前道場に掲げられた肖像画で見かけたおっさん共がそこにいた。名前忘れたけど。その他にも首都の広場に置いてある銅像の剣士がそのままいたり。うあああみれば見るほどなんか凹んでくる。それでも一人ひとり確認だけは止めなかった。万が一探している姉さんがいるかもしれないと思ったからだ。しかし何度目を凝らしてもそれらしい人物は確認できなかった。やっぱりいないか……。


 そんな奴らを観察し、悲嘆に暮れていると

「基本ワシらから後の世代の子達じゃなぁ」

 横でへたれ王子が呟いた。

 いつの間に横にいたんだ?忍者蛙かよ!それでも手を太ももに挟みながらメイドに赤ちゃん抱っこされてるのはもうツッコまない方がいいんだよな、うん。

「しかしまぁ、よくこの猛者共は即魔王に挑むのを思い留まったよな」

「そりゃあ強さの欲に目がくらんだんろう?」

「継承か?」

「んむんむ。そじゃなきゃ、利害が一致するわけもないナー。ないわないナー」


 そう、この世界は非常に嫌味な面も抱えている。

 それが継承のシステムだ。

 誰かが死んだときに仲間意識の強いものが傍に居るだけで死者の魔力の一部を手に入れられる。それは、ある程度の魂が繋がっていないと駄目らしいので単純に無差別で殺したところで魔力は移譲されない。基準が未だにはっきりしないのだがそこそこの仲間意識がないと効果が出ないところなど、憎らしい程に出来が良い。回復魔法が無かったり、死者が生き返ったりしないところはまるで地球と変わらないのだが、ことこの魔力継承に関してはゲーム要素じみてるから全くもって笑えない。

 要するにこいつらは誰かの屍をエサにして手っ取り早く自分が更に強りたい。それだけなのだ。

「まぁそういう考えもあるけれど。でも、誰かの為に泣ける分だけ強くなれるんだから。それは未来への希望でもあるのよ」

 ロボメイドが詩的な事を遠い目をしながら呟いた。

 なんて詩的な奴だ。このタイミングで賢さアピールかよ?でもまぁ性善説的に物事捉えればそうなるんだろうし。生憎俺は性悪説支持派だからなんとも言えんけど。

 それでも、コイツいいとこあるじゃんなんてメイドロボの事を思いながら彼女の方を見ると、バスケットボールを人差し指に乗せて回転させるように、自らのご主人様であるカエル君を指の上で高速回転させていた。

 前言撤回。

 こいつやっぱりダメな部類の奴だ。いろんな意味で。。

「それ、王子は死ぬんじゃないか?大丈夫か?」

「ご主人様の日課の準備運動よ」

「ぴゃあああああああ。そんな運動初めて聞いたし初めて受けてるんだがががががが」

「言ってないもの。今日からの日課だし?」

 ぐるぐる回される王子が泡を吹き出してるけど。もういいや。前方に意識を向け直すと、どでかい切り株の雛壇にマスターが上っていた。


「魔王退治に集いし勇気ある者達よ!!!」


 どうやら出発前にマスターは挨拶を始めるみたいだ。

 それまでざわついてた声が一瞬で静まり返る。


 集団の一番後ろにいる自分からでもはっきり見えるマスターは、比較的重装備だった。左腕に装備しているゴツイ大楯がやけに印象的だった。

 あの年齢でその装備は重くないか?と思わなくもないけれど。

 具体的には、クソ重そうな大楯を軽々と持ち上げて全く地面につけていないところなんか特に。

 なんなんだあの馬鹿力は!?普通の人間なら両手でやっとじゃないのか?それも俺の知らない魔法でもかかってるんだろうか?

 苦しさなど皆無な様子なのが恐ろしい。でもたぶんやっぱりあいつはこのメンバーでもかなり強い部類なんだろうなぁ。そんなことを考えているとマスターは集まった強者達を鼓舞するような勢いをもって話を始めた。


「諸君!本来ならすぐにでも討伐に向かいたいところ私の一存で待って頂いた事、真に感謝する」

 だよなぁ。気が付いたら何百年も待ちぼうけしてましたとかありえないし。普通。

「そして500年以上待ち望んで集ったこの精鋭なら、必ずや魔王を討伐出来ると確信している!だが、油断だけは絶対してはならない。相手は最後の魔王と言われる唯一無二の絶対強者。当然、道中志半ばの者も多く出るだろう。だがその屍を糧にすればいずれ最後には勝者として誰かがこの悪しき物語を終える事を信じている。時は来た!栄光を手に入れたくば皆で勝利の道を突き進もうぞ!」

 ウォオオオと歓声が上がる。どう見ても何か感性を刺激する魔法の類だろう。害はないから別にいいんだけど。念のため距離をとりまくったので他人事のようにそれを眺めていた。


「まずはこの常闇の森を突破す…」


そして突如、マスターの首が目の前から消えた。

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