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3_ 然の出来事(2)

 ハメられた!?

 今更危険を理解して、即座に鞘に手を掛けると、

「ちょっとー。ここは愛が溢れるメイド喫茶なんですけど。そんな場所で剣なんて抜いちゃメッ☆暴力沙汰はご法度です!」

 金属メイドが声を荒げた。

 声帯がついてる金属生物とかどんだけ高等技術なんだ?しかもやたら感情豊かだ。そんな不思議怪物に俺の剣が通用するのか?若干ビビりながらも平静を装い時間稼ぎも兼ねて様子を伺う。


「じゃあ何か?俺はここでお前らに黙って殺されろって言うのか?」

「「えっ?」」

 カエルとメイドは二人して何言ってんの?コイツみたいな顔を浮かべた。顔文字でいうところの(´・ω・`)?って奴だ。

そんな目で見るな!まるで俺が間違ってるみたいに思えてくるだろーが。

 脳内整理が追いつかない。慌てて質問を捻り出す。

「ちょっと待て。ここ魔王城だよな?」

「「ソーデスネ」」

 二人して声をハモらせて返事をする。……どこかでみた光景なんだが。これはもしや。

「でもなぜか、ここは喫茶店だよな?」

「「ソーデスネ」」

 こ、これは往年の名番組、笑っていい●●の流れじゃねえか!?

「じゃあ、お前らは魔王、もしくは魔王の手下って事だよな?」

「「ンナワケーナイ!」」


 二人してドヤ顔。お決まりの流れが決まったぜ、みたいな顔をしてきた。

 ……なんだこいつら。すげえ困るんだが。

 というかここは異世界でいいんだよね。何この流れ。こいつら異世界人なのか?でも地球にはしゃべるカエルと金属メイドなんていなかったけどな。


「じゃあお前らは一体何なんだよ!?」

「はぁあああああ?失礼なおこちゃまね!『何なんだよ!?』とか、人に尋ねる前に自分がまず名乗るものでしょ?そんなこと今時のクソガキでも教育されてるっての。それとも何?君は『そんな礼儀なんて母ちゃんの腹の中に置いてきたぜっ!フヒヒヒヒ』とか言っちゃう残念臭漂うゴミ虫君なのかしら?あっそれじゃあゴミ虫に失礼ですわね?さしずめあなたはナットー菌ですわ。ナットーを作る為に毎日発酵するしか能のないナットー君ですわね。アハハハハハハ」


 突然メイドがブチ切れた。

 怖い。すげえ怖い。

 間違っても「ゴミ虫はよくてナット-菌はいいのかよ!?」などとツッコめるはずもなく。そして勢いと八つ当たりでカエルがメイドに首を絞められて泡を吹いているが、意識はあるのか、カエル君は必死に身振り手振りでなだめていた。

 それが十数秒。ああこれはカエル君、意識が落ちてしまうだろうなぁと思いつつ注視していると最終的にはなだめるというか、もうギブアップのタップに近い肩たたきでハッとメイドは我に返ったようで、

「おおっと取り乱しちゃいましたわ。大変失礼いたしました」

「……いえ、こちらこそ申し訳ない」

 なんとか事なきを得たようだ。グッジョブ!カエル君。すげえカエル君にジト目で睨まれてるけど敢えて視線は合わせなかった。

「それで、俺の名前は……」

「はぁっ?いいわよもう名前なんて。今更改めて聞いたところでどーでもいいから。とりあえず、切ったり焼いたり煮たりはしないであげるから、黙ってコーヒー注文しなさいっ!」


 ここまで辛うじて理解できたのはこの金属メイド、俺の相方レベルの無茶苦茶キャラだという事だった。

 とりあえず、黙ってて喋れなかったらコーヒーなんてまともに注文できねぇからな!!!


 財布をひっくり返して一文無しである事を示すと、カエル君が「じゃあワシの驕りぃで逝こうナ」とノリノリになって金属メイドにミジュー産のコーヒーを2つ注文してくれた。

「かしこまりましたわご主人様。と、おまけの菌類」

 一言余計にムッとくるがそれを反論する間もなく凶暴メイドはカウンターを片足で飛び越え、奥の部屋へとさっさと消えてしまった。

 それを見計らったようにカエル君から隣に座るように促される。

 このタイミングで相方を出すのが安全策なのかと一瞬考えたけど今回はそれはしなかった。なんとなく大丈夫だと信じたかったからかもしれない。

 するとカエル君が

「アレじゃ、アレ。お主、歴史には詳しいかの?」

 照れくさそうに質問を投げかけてきた。この世界にきてからいろいろ巻き込まれたりもしたのでその都度都市の背景や歴史は最低限頭に叩き込んでいたので一応理解しているつもりだ。

「人並み、だな」

「じゃじゃじゃっ、『国盗り王子物語』、知ってる?」

「あ?」


 思い出すのに時間がかかった。

 基本この世界に飛び込んできてから教養なんて二の次だった。モンスターだろうが人だろうがとにかく勝って戦果を挙げなければ飯なんて食えなかったからだ。

 それでも依頼によっては事前知識としてある程度教養も必要だったので最低限度だけは頭にあると、自負している。

 で、国盗り王子物語ってのは大陸東に位置するシューレ王国建国に関わる物語だったはずだ。

「たしか、初代イスキア王シューレの弟の事で、運だけで周囲の人間を引っ掻き回した話だろ?イスキア国内の教会じゃ子供用教本に入っている」

「ひょおおおおおお。本になっとるのかー。有名人ジャン。オレオレ」

 やけにカエル君はうれしそうだった。

「その本を読んで子供たちは王子から『へたれ王子のような大人にはなってはいけない』って、人に迷惑をかけてはいけない事を学ぶんだったかな?」

 目の前のカエル君は椅子からずり落ちた。すごく悲しそうな顔だ。って、おいちょっと待て。

「『オレオレ』ってお前、へたれ王子なのか?」

 すると目の前のカエルは突然ぴょんと器用に回転イスの上に立ち上がりふんぞり返った。

「ジャジャーン。聞いて驚け!吾輩こそが『手をフトモモに挟んで寝るオレっ、めっちゃスタイリィイイーッシュ!!!』で、お馴染みのへたれ王子であーる!」

「ポーズキモい上に全くもってお馴染みじゃねーからな」

「ぐすん。……何度も練習したのに。ってへたれ王子って誰の事やねん!!」

 すげえ無駄な一人時間差ツッコミとかやめてほしい。なんか今日は厄日だな。変な奴ばかり遭遇する。

「とりあえずカエル君よ。今はAG580年だぞ?どこに600年以上前の生き物が存在してるっていうんだよ?えっ?嘘も大概にしろよな?」

「ここに、いるもん。いるんだもん!もんもんもん!脱皮ナメんなし!ナメんなし!」

 今度は手足をどたばたさせはじめた。どいつもこいつもいちいち忙しい奴だ。あと豆情報入手したよ☆新事実発見。

どうやらカエル君は脱皮するらしい。よし!2秒後に忘れよう。そして収拾がつかない。この状況なんとかしてくれねーかと思った調度良いタイミングで。


「もうさ。面倒だから詳しい事はこいつから聴けばいいのよみんな。」

 奥の扉から、金属メイドが出てきた。片手にトレイに乗せたコーヒーを2カップ。もう片手には首を絞められたオッサンを肩に乗せて。

「あっ、これこれ。うちの店のマスターなんだけどさ。『準備してくる』とか言ったっきり奥の部屋から出てこないから引きずり出してやったわ。ほら」

「や、やぁどうも。マスターです」

 引き摺られて出てきたのは、茶色のベストを着たどこにでもいそうな白髪の似合うおっさんだった。しゃべり方が非常に挙動不審で残念なことを除いては、こんな人にコーヒーのうんちく話語らせたらモテるんだろうな的な見た目の上品さを備えていた。


 しかしもうなんだこいつら。

 魔王を倒すはずが、わけわからんコントもどきの喫茶店に巻き込まれるとかいったいどうしろと。いい加減処理能力が追い付かなくなったので、

「察するにここじゃ戦闘はすぐ起きねーんだろ?5分だ。俺は頭悪いから簡潔にまとめて説明してくれ」

 ほぼ丸投げで白旗を上げた。

「了解致しました。わかりやすく言うと『さぁ!これからみんなで敵を倒そうぜ★』です」

「うん。なんとなくはわかったけど、ずいぶん端折ったろてめぇ!」

5分どころじゃなくて20文字以内とかどこの国語のテストだ。テストと言えば、困った時の選択肢は常に2にしてきた思い出が一瞬蘇るもそこは黒歴史かつ別の物語なので脇に置く事にしよう。

「だめですか……。」

「普通ダメだろ?」

「だってちょっと長くなりそうなんですもん」

「わかったいいよ5分以上オーバーしてもいいから」

 ていうかやめろ、その「どうか拾ってください」的な捨てられた子犬目線。とりあえずひげ面おっさんがする顔じゃねーからな。

「じゃあえっと・・・」


 そこから語りだしたのはあまりに荒唐無稽な話で5分で済むようなものじゃなかった。


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