1_青年
「みなさん、聞いてください!!!うそつきがっ!ここにうそつきがいますよーーー!」
道中、シスターが見えなくなって開口一番これだ。
相棒の分際で人のこと指さして犯罪者扱いしながら全力で叫んでるとかほんと鬼畜だなコイツ。
「娘の為とか嘘だよね?シスターをテキトーにあしらったでしょ?」
「はぁ?俺はあの娘の為とかヒトコトも言ってないんだけど」
「あれ程散々匂わせときながらそれは無いわー。ないないないわー。それじゃまるであれじゃん。エヴぐ●※■×」
隣でニヤニヤしながらヤバイことを言おうとした……気がするので慌てて手で口を塞ぐ。瘴気のせいで数メートルしか視界が取れないほどに靄がかかってるが、どうやら彼の脳内だけは今日も相変わらず晴天のようだ。羨ましい。
もぞもぞ暴れたがそれが無駄だと悟ったのか、しばらく待ちある程度落ち着きを取り戻したの見計らって解放してやると、相方は心底悔しそうな顔を浮かべていた。
「どうせ塞ぐなら口で塞いでくれた方がうれしいのに」
「ってか、お前男で俺も男だから」
「……ウホッ?」
「やら……ねーからっ!やるわけねーし。なに言わせようとしてんだコラ!」
チッと隣で舌打ちが激しく聞こえたけどそこはまぁスルーしておこう。うるせーといい加減置いてくぞ、と一言釘を刺してから、先へ歩き出す。
「それにしても君は本当に嘘つくのうまいよね?」
「こんなもん処世術だろ?長く生きてればこれくらい身に付くし。とりあえず嘘付くときに本当の事を適度に混ぜときゃ、誰でも上手くなるわ」
「へぇ。そういうものなの?」
「そういうもんだ」
まだ横からしつこく話しかけてくるが流石に相手にするのがだるくなってきた。適当に左から右へなまら総流しにしとく。
「でさ。結局ほんとはあれでしょ?単にもう疲れたんでしょ?」
だあああっ。何度も言うが相棒の分際でほんとウザい。でも、相棒のいう事はごもっともで。
ほんとのほんとは単に疲れたってだけなんだ。
人を探すためにこの世界に飛び込んでからというものの、ゲームで言うところのLUCK値が低いせいなのか、人生丸儲けの逆バージョンを地で行くような、『人生丸損三昧』の苦汁を散々味わってきた。
着いた土地では災難にしか見舞われず定住なんてとても出来るはずもなく。
それでもやっと仲良くなった人が出来てももすぐ離ればなれになった。
その大半が死別っていうんだから、まさか知らぬ間に呪いでもかけられてるんじゃないかと一度その手の第一人者に観てもらったりもしたが、
「……真に恐縮ですが。あなたのは呪いなどではなくて、たまたま?です?(プークスクスクス)」
というむしろその発言自体がまるで呪い宣告のような地獄を垣間見たりもした。それでも諦めずにここまでなんとかやってきた。たまたまでここまで連続して不幸に見舞われるかっての。
──んでもって、ずっと探し続けてた人は多分もういなくて。
というわけで、旅の目的も見失ったので最後ヤケクソ気味に探し人が魔王になってたらいいな的な理由でここまでやってきた。
……嘘です。そんなわけない。
もう疲れたんで、死ぬならいっそ魔王と一戦交えて人生と魔王に傷痕一つくらい残してやろうじゃないか的な、要するに気がついた時には心がぽきっと折れてて死に場所を探してただけっていう、それだけなのだ。
例えるなら最近の座右の銘が
「覆水盆に返らず。でもその水を啜って僕は生きてきたけどもう疲れたよパトラッシュ」と、もう座右の銘でもなんでもない、ギャグにすらならないくらいに精神的疲労感2000%の絶望状態にまで追い込まれていただけなのですええ。
「やっぱり疲れたよね?。となるとこのタイミングで今僕はなまら全力で君に言ってあげたいんだっ!!!」
物思いにふけっていたのだが、相変わらず相棒はなんか言っていた。
というか全国なまら検定2級の俺ですらやっと最近使いこなせるようになったのにさりげなく俺の『なまら様』使ってんじゃねーぞ?っとと、今更何言うんだよ?
ちょっと気になってしまった。
だが、待てどもいつまでもその先の言葉を言わない。
いい加減気になって足を止めて振り返ると、待っていたかのように相棒は俺の耳元で囁いた。
「もう、ゴールしてもい●※■×」
くゎーーーー頭痛い。本日二度目の口塞ぎ。
どこでそんなネタまじりの言葉を覚えてきたんだコイツ。俺か?俺からなのか?くそっくそっ。総流しにするつもりがツッコミどころをキッチリ作って、スルー出来ないように話すとか流石俺の相棒だわ。マジ最低。
「てか、頑張ったよね?僕達はもう充分頑張り過ぎたと思うんだ。あのねーちゃんは時差的にもうとっくに亡くなってるんだろうし」
「うっせーな。だからここに来たんだろ?俺らの死に場所ベストテン絶賛第一位に輝いた最強最古で最悪な魔王城に」
「そうでしたそうでしたー。僕ちゃんこってり忘れてたーあはははー」
お前のほうがよっぽど嘘つきだ。きっちり覚えている癖に忘れてたとか、ありえんからな。
「とまぁ、そんなことはさておいて」
──おいとくんかい!!
「ほんと、お互いわけのわからねー人生だったね」
ここまで引っ張って置きながら、今までの会話をあっさり置き捨てしてんじゃねーぞ、これまで時間を返せや!ゴルァ!と、世界の片隅から声を小にして俺は叫びたい。
でもあれ?ここは悪名名高き魔王城だから世界の片隅どころか世界の中心と呼んでもいいのかな?うーん、でもでもわけのわからない人生だった点は確かなのでそこだけは否定はしないけども。
「そうだな。ほんとマジでありえんし、わけわからんよな(オマエの存在含めて)」
ここまでの人生を振り返ると余りに無茶苦茶すぎた。
大した力もコネもないのによくここまで生き延びてこれたと自分で自分を褒めてあげたい。
「まったくもってわけわからんかったな」
例えていうなら神様にでも言えと命令されたような感じ?
運命を感じるような、やけにしっくりくる言葉だったので大切な言葉に思えてもう一度声に出してみた。
『きっとこの言葉はいつかテストに出るに違いない』
そう思いながら。