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「そもそも此処に来るまでに樹海でたくさん並んでいた看板は見たでしょ?」

「ああ」

「なんて書いてあった?」

「『すぐここから立ち去れ!』みたいなのが、言い回し変えてたくさん並んでたな」

「厳密に言うと少し違いますよね?『どうか命を大切にしてください』ってたくさん書かれていたはずです!」

「そうだったか?まぁどっちも似たようなもんだろ?」

 朝靄の中、全く聞く耳を持たない剣士と苛立ちを隠せないシスターが教会の前で口論をしていた。

昨晩から何度も繰り返したやりとりだった。

 夜にこの教会にたどり着いた剣士は、少し休憩したらすぐにでも先へと進むと言う。何度も引き返すよう促せど、まったく剣士は意に介さずシスターと押し問答になった。

 困り果てたシスターは、「新月の夜は特に視界が悪く、戦闘に不利になるから」と一晩泊まって頭を冷やしてくれることを願い強引に押しとどめたのだが、朝になっても剣士の意思は翻ることなく結局また堂々巡りの押し問答となってしまった。


「わかっていますか?この先へ行ったらもう後には引けないんですよ?」

「わかってなきゃこんな瘴気が濃いところなんて来ないさ。ってか、むしろ魔王のテリトリー直前に教会とか斬新すぎだろ?」

「貴方みたいな能天気な馬鹿がこなきゃ、そもそもこんなところに教会も私も必要ないのですよっ!!!」


 この先には『魔王の城』がある、らしい。

 らしい──というのも遥か昔の地図に「魔王の城」と書かれたものがあり、以来そう呼ばれるようになったのだが、この先へ進んだものは未だかつて誰一人として生きて帰って来たことがないので実際どうなってるかまったくの謎なのだ。ただ、どんな人間であろうと感じ取れてしまうほどに邪悪過ぎる瘴気から察するに、この先に何かしら最悪なモノが存在しているであろう事は疑いようもなかった。

そして不幸中の幸いか、存在が知られてからこの瘴気は一度も移動した事がないので、近隣諸国は「触らぬ邪神に祟りなし」と基本的に静観姿勢を貫き、臭いものに蓋をするように皆知らぬ存ぜぬとこの未踏破領域に立ち入ろうとはしなかった。


「うーん。ところでシスター、神様が何でも1個願いを叶えてくれるって言ったら何を望む?」

 いい加減堂々巡りの閉塞感にうんざりしていた剣士は話題を変えてみた。

「命を粗末にしようとしている馬鹿剣士が、どうかこの先に進みませんように」

「ホント嫌な奴だな。即答かよ」

 何言っているのよ?嫌な奴なのはそっちの方でしょ? そう言わんばかりにシスターは目の前にいる剣士を睨み付けた。剣士はそれを見て飽きれながらも話を続けた。

「例えば、だ。神様を信じて止まない女の子がいて、『私の命と引き換えにどうか街を魔物から救ってください』なんて、祈ったらどう思う?」

「それはもう神様なんかじゃない、悪魔との契約?とかそういう類でしょ?」

「まぁ悪魔の秘法なんだろうけどな。だが結果その契約で街が救われた。そして大怪我を負ったものの辛うじて一命を取り留めた女の子は、街を救ったのは神様だと信じて疑わない」

「それならそのままにするべきでしょう。信じるものが他人に迷惑をかけないのなら、そのままでいる事が全員に幸せになるでしょうね」

「だよな。一般的なシスターらしからぬ発言ではあるけども、俺もそう信じているよ」

 気のせいだろうか。

 一瞬だけ剣士は優しくて悲しい目をしたようにシスターには思えた。でもどうして突然そんな話をするのだろう?と疑問が浮かぶもまともに考える暇を与えず、剣士は捲し立てた。

「ちなみに俺はそもそも神様なんて目に見えない物は信じない。右手と左手は祈るためじゃなく剣を握り未来を切り開くものだと信じてる」

「はぁ?それってラーマ神とそれを信じる私に対する冒涜よね。じゃあ、相手が魔王だなんて例え背伸びしたって叶わない相手とわかっていても貴方は剣を握るつもり?」

「何言ってんだよ。そんなものはとりあえず戦ってみないとわからないだろう?戦ってから考えるさ」

 万が一でも魔王と対峙したからにはもう手遅れになることくらい、本人もわかっているだろうに。シスターにはこの剣士がどうにも生き急いでいるように思えてしまい、それがさらなる疑問を引き寄せた。


 一見すると、どこの馬の骨かもわからない装備ではあるが、注視すれば胸などの要所にはミスリル合金などの高価な金属で身を固めている。結構な年まで剣士として生きているというのは運だけでなく何度も冷静な決断を求められていたはずだ。でなければ、剣士なんて職業などあっという間に土の中だ。

 それだけの人物が仲間も伴わず、たった一人でこんな無謀な賭けに挑む理由がシスターには全く理解できなかった。

「で、話を戻すけどな。自分のピークはおそらくこの今この瞬間だ。技術的にはこれからも向上するんだろうが、肉体的にはもう下降するしかない。これ以上生き長らえたところでうまくはなるが強くはなれない。だったら、自分のピークに最大の勝負をするのもいいだろう?それもまた人生だ。生まれは選べないが、死に場所くらいは選んでみたっていいだろう?」

「何処からどう見ても貴方は生き急いでます…」

「否定はしないさ。だけどな?万が一でも勝てば魔王の角から魔法薬が作れる。不治の病や欠損だって飲んだだけでたちまち治る薬や、500年も長生きできる薬も出来るっていうじゃねぇか。 勝負に勝ったらこの姿のままで500歳だぜ?生き急ぐどころじゃねえよな?」

「夢見すぎです。そもそもそんな魔法薬素材、あると決まったわけじゃないでしょう?」

「はぁ?男はいつだって少年の心で夢をみるもんだろう?夢を追わねば男じゃねえよ。夢がなくなるくらいなら死んだほうがマシだ」

 この舌戦にはもう勝てそうに無い。生き急ぐ理由はわかったものの、なぜそこまで強い意思で立ち向かっていけるのかまでは最後までとうとう理解できなかった。


 ──そもそも人間を完全に理解できるなんてラーマ神様にしか出来ない事よね。

 そう自分に言い聞かせ、シスターは白旗を上げた。

「もう、何を言っても無駄のようですね」

「だな」

「それでは、宿代を頂きます。わざわざここに立てられた教会の意義はその命の重さを思い直して引き返す事にあるのです。命を粗末にして引き返さない者にとってはただの宿屋なんですよ」

 デタラメだった。

 本来この教会は、勝ち目が無い魔王に倒され手持ちの財産が魔王に奪われるくらいなら、何でもよいので寄付してくださいという、身も蓋も無い打算的な理由で建設されたのだ。だが、どこか憎めない剣士を見ていたシスターは、なぜだか不思議と本当の事を言えずに、辻褄だけを合わせる言葉を口にしていた。

「は?ずいぶんぼったくる教会だな。そんなもんツケでいいだろ?」

「随分望み薄なツケですね。お断り致します」

 教会的には無ければ別にそれでもいいのだが、今までのやりとりのせいでつい口が軽くなり、思わずシスターはそれを拒否してしまった。

 しかもスマイル付きで。

「むぅ。長年共に過ごした馬だって手前の町で売り払っちまったんだぞ。もう必要なもんは全部処分しちまったしなぁ。……そうなると、これしかないか。もう行く。世話になった」

 剣士は腰に巻かれた小さなポーチをごそごそと探して何か取り出すと、それをそっとシスターに手渡した。


――よく考えたら、もう俺が持ってるより代わりにシスターが持っててくれた方が良いだろうしな。


「えっ、ペンダントって、ちょ、これかなり大切なんじゃ……」


 最後の声まで届いたのだろうか?

 それはまるで、どこか散歩に行くかのような足取りで。

 右手を軽く振り上げた背中は一度も振り返ることなく遠ざかり、そのまま朝靄と瘴気の中へと溶けていった。


 剣士の姿が完全に消えるまで見送ると、シスターは受け取ったロケットペンダントを開いてみた。 そこには微笑みを浮かべた美しい少女の絵が挟み込まれていた。

 

 ただ──そこに一つ。違和感が組み込まれていた。

 

 その瞬間、すべてを理解したシスターはすぐにその場で剣士の消えた方へと跪き、深く、ただ深く自分の信じる神に祈り始めた。







[理想を言えばきっとこの辺にイラストがあってオチになっている.jpg]








最後にイラスト(微笑む少女)もってきてオチがつくはずなんだけど、イラストなんて描けないんで、適当に脳内で補完してくださいって事になります。ほんと意味不明ですね。

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