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第1章 一人旅の終わり 第1節:不幸を呼ぶ者

【第一章 一人旅の終わり】

第一節不幸を呼ぶ者


三日月が美しい夜、いつもは静かな町を爆発音が駆け抜ける。爆風の中から転がり出てきたのは一人の少女。体勢を立て直して走り出した。三日月から放たれる弱い光の中、闇から這い出てきた怪しげな影が少女を追う。影達は何かを呟くと、どす黒い炎弾を少女に撃ち込んできた。

「…っこの野郎!」

それを見た少女は汚い言葉を吐き捨てると腰に吊り下げていた武器を抜いた。短刀よりも長く、サーベルより短い様な剣だった。

「お前ら、一体何考えてる…!?街中だぞ!」

そう怒鳴りながら黒い炎弾を一振りでいなす。赤黒い、血の様な火花が散った。影は気にする事なく少女に迫る。

『アミナス…ワレラ ノ チカラ───…』

「違う」

少女と影がすれ違う。そして影は─…

  悲鳴を上げる間もなく散った。

比喩ではない。黒バラの花弁となり、散ったのだ。

「またか…」

少女は影を葬った武器を腰に戻すと目を閉じる。奴らの気配を読む。

「まだいるな。ここも…もうダメか…」

そう呟き歩き出した。街は先程の爆発で騒然となっていた。少女は騒がしい道から一本入った裏路地へと消えた。

 魔力を持たない者には分からない違和感が街を包む。少女はその気配から遠ざける様に裏路地を淡々と進んでいった。三日月輝く真夜中なだけあり、視界はだいぶ暗かった。物音をたてない様にゆっくりと歩を進めていると、何かに躓いた。そして、声がした。

「痛っ…」

 その声に少女がゆっくりと振り向く。そこには長い棒の様なものが二本あった。

「…………。」

 少女は特に気にする事もなく再び歩き出そうとした。

「人の足を蹴り飛ばしておいて無視は酷いですねぇ」

自分の背中にかけられた声に、少女は振り向いた。暗い視界の中、目を凝らすとそこには男が一人足を投げ出して座っていた。男は燕尾服を身に着けている。少女も特に驚く様子はなかった。

「…すまない。あまりに暗いんで見えなかった」

「そうだろうと思いましたよ」

 そう男は笑うと、「よっこいせ」と声を出して立ち上がった。身の丈がかなり高く、すらりとした体系をしている。身に着けている燕尾服には貴族の家紋と思われる豪奢な刺繍が施されていた。

「いい所の執事がこんな所で何をやっている?」

「おや、この家紋をご存じで?」

「どこの家かは知らんが見たことはある。そんじょそこらの家でない事は確かだ」

「ほぉ…」

 男は値踏みをする様に少女を見る。もっとも、暗くてよくは見えない状況だが。少女は男のその態度に少し嫌悪感を抱いた。しかし、その嫌悪感もさっきの影達がまき散らす違和感でかき消される。影達が再び少女に迫ってきている事を気配で感じ取ったのだ。こんな所で立ち止まっている訳にはいかなくなった。

「早く屋敷に戻れよ、サボり執事」

 そう言い捨てると走り出した。しかし

「お前、何故ついてくる!?」

少女に平行して男も走ってきた。

「今日、クビになってしまったんですよ」

「は?」

「夕飯の支度を…と思い、ご主人様に夕飯は何がよろしいかお尋ねしたところ、『美味いもの』とお答えされたので、私が一番好きなキャンディーをお出ししました。そしたら、即クビになりました。まったく…世も末ですね…」

「末なのはお前の頭だがな…」

 そんな会話をしている間にも影達は迫ってきていた。少女は足を止めると再び武器を抜く。男に「伏せろ!」そう怒鳴ると剣に力を乗せて振り切った。斬撃は影達へと飛び、そして一刀両断した。先程と同様に影達は散った。

「今のは一体…」

 そう男が呟くと少女は長い前髪から除く左目で冷やかに男を見た。

「お前には関係ないことだ。ここが危険だと今わかっただろう?さっさと帰れ」

「だから言ったでしょう?帰る場所がないと」

「ならば…さっさとこの場から消え失せることだな…」

 笑いかける男に明らかにイラつきを表に出した言葉を浴びせる。それでも去ろうとしない男にしびれを切らした少女は

「私は不幸()を(ミ)呼ぶ(ナ)()。奴らはクレイブ族の下等兵器だ。いくら消し去っても何処からともなく湧き出てくる。下等とはいえ、お前の様な無力の者を殺す事など奴らにとっては容易いな事だ。」

そう冷たく言った。その言葉に男は目を大きく見開いた。“アミナス”その言葉を知らない者はいないのだ。

「貴方が…不幸()を(ミ)呼ぶ(ナ)()…?そんな、まさか…私は男だと聞いていましたが…?それにクレイヴ族って…!」

 この世には大きくわけて三つの人種が存在する。まずは魔力をもたない者、魔力をもつ者。そしてその中でも特に強力な、しかも闇の魔力を持つ者達は“クレイヴ族”と呼ばれていた。暗闇の中で生き、決して明るみには現れない。闇を統べる者達、それがクレイヴ族だ。そんな者達に追われる少女の顔を見つめる。まだ、幼さが残る顔からは恐怖など微塵も感じられなかった。

「噂なんてものはな、ほとんどが偽りだ…。わかったならこれ以上私に……っ!」

 突然アミナスの表情が変わった。

「どうしました?」

「関わるなと言おうとしたが…遅かったか…伏せていろっ!」

 風が渦巻き、そして再び『ムカエ ニ キタゾ…』 影達に囲まれた。この世に存在している事自体が間違っているかの様な違和感。瞬く間に二人は影の群れに囲まれ、視界は真っ黒になる。

「なっ…」

「聞こえなかったか?伏せていろ!」

 アミナスは剣を構え、影の群れに向ける。四方八方を塞がれ、全方向に神経を向けながら様子を窺う。緊迫した空気。月光が生み出す本物の影と異質の影、影、影───。永遠に続くかと思われる静寂を一体の影が破った。影は己の体の一部を鋭利な刃に変形させてアミナスに斬りかかってきた。アミナスは斬撃を弾き返すと影の懐に踏み込む。一瞬の迷いも見せずに影を一刀両断した。一言も発する前に影は散る。先の静寂とは打って変わって影達が一斉に各々体を変形させ、アミナスに襲い掛かってきた。アミナスは舞う様に斬撃をかわし、そして一振りで影達を葬っていく。華麗に戦うアミナスの視界に一体の影が膨れ上がるのが見えた。

(しまった…!)

 次の瞬間、先ほどと同様の炎弾を影は撃ち込んできた。着弾と同時に凄まじい轟音と土煙があがる。

『ヤッタカ…?』『ヤッタダロウ…』

「この程度で私が死ぬとでも思ったか雑魚ども!」

 その声と同時に土煙が一気に晴れた。そこから姿を現したのは

  漆黒の翼に前髪から覗く紅の右眼────。

 まさに悪魔と呼ぶべき姿のアミナスだった。

「……!」

怪しく、不気味な、しかしそれ故に妖艶であった。その姿に男は息をのんだ。

「無関係の者にまで手を出すとは…救いようがないな…!」

 アミナスの右眼の紅が増す。

「今度こそついてくるなよ」

 振り向かずに男にそう言うと、男の返事も聞かずに飛び上がった。影に向かって

「私はこっちだ!仕留めたければ、ついてくるがいい!」

 そう叫ぶと飛び去る。影達は次々とアミナスを追いかけていった。

「おい!」

 男の呼びかけも無視し、そこはまた静寂に包まれた。あまりの非現実が目まぐるしく繰り広げられていたため気付かなかったが、体はこわばり、手には汗を握っていた。男はその場にへたり込むと大きく息を吐いた。自分を庇った少女の事を思い出す。自分の肩程もない華奢な体の少女。そんな彼女に守られた情けない自分…。自嘲の笑いをすると、完全に力が抜けた膝に力を入れ、ゆっくりと立ち上がった。

「…借りを作ったまま“さよなら”なんて真っ平ごめんですよ」

 目の前にいないアミナスに向かって言うと走り出した。


「ここなら存分に暴れられるな」

 街から少し離れた所。周りに立ち並ぶ家々はどれも空き家となって放置されている。昼間でも薄暗いそこは三日月程度の弱い光は届いていなかった。そこに浮かび上がるアミナスの紅の右瞳────。 

視覚では捉えられないが、影達が追いついた事は気配でわかった。アミナスは剣を抜く。

「これだけ暗いとお前等のその醜い姿が見えなくていいな」

 そう嘲笑すると剣を振り上げる。

刹那(シェ)の(イ)加速()

 勢いよく剣を振り下ろすと地面に突き立てた。一瞬にしてそこはモノクロの世界と化した。全ての色が奪われ、そして動きまで奪い去る。影達は先程の俊敏さはまったく消え失せ、ほぼ静止状態程の動きとなった。スローモーションの世界をアミナスは疾風の如く駆け抜ける。アミナスは影の群れから飛び出すと、立ち止まった。横に一振りした剣を収めると、モノクロだった世界は一瞬にして色を取り戻した。そして

「お前等の様な下等魔族ごときが私を捕えられると思うなよ」

 影達は一斉に漆黒の花弁と化した。花弁が降り積もる様を眺めながら「次は何処へ行こうか…」そう呟いた時だった。周りの闇が濃くなった事に気づき、勢いよく振り向くとそこには

「…っ!」

『イッショ ニ キテ モラウゾ』

鎌の形に変形させた腕を振り上げている影が立っていた。

(まだいたのか…!)

 アミナスが再び剣を抜いて構え、影よりも先に攻撃する時間はない。

(ここまでか)

アミナスが諦めて、影を見上げた時だった。

『……………ぅ』

 声になっていない断末魔をあげ、影は散った。闇に舞う黒薔薇の向こうに立っていたのは

「なんで…」

 拳をこちらに向けるあの男だった。茫然と立っているアミナスに男は

「危ないところでしたね」

 と、笑う。アミナスは、その笑顔に恐怖を滲ませた視線を向ける。

「奴らには…魔力のある者しか触れられないはず…それなのにどうして!」

「簡単な事です」

 男は握っていた拳に力を入れる。すると、その拳はボンヤリと群青色に輝いた。

「僕にも魔力があるんですよ」

「な…」

「貴方の様な強大な力ではありませんが、触れた物に力を込めて放つ程度の力はあります。そうですねぇ…例えば銃器とか、石でも力を乗せて投げればそれなりに威力がでますよ」

 平然と話す彼に今度はアミナスが混乱した。


 魔力を持っている?

 

 しかも、ただの魔力ではない。影を一撃で撃破する程の魔力。アミナスは目の前にいる男を警戒せずにはいられなかった。アミナスには暗い過去しかない。

 強大な魔力を持つが故に多くの者に襲われた。最近では、魔力が多額で売買されているという。魔力は麻薬と違い、持続性がある。麻薬は効力が切れれば再び取り入れなければならないが、魔力は手に入れてしまえば死ぬまで自分のものとなる。そもそも、麻薬がこの世界で広まったのはより強い力を手に入れるためであった。そのため、魔力の方が利点が多いと知った裏取引者は魔力という名の商品を手に入れるため、魔女を次々と消し去っていった。それを人々は「魔女狩り」と呼んだ。魔女ではないが、アミナスもその一人だった。クレイブ族と裏商人、得体の知れない奴ら───…。そんなものに追われながら今まで生きてきた少女、アミナスは人を信じる事を捨ててしまっていた。魔力を持っている者ならなおさらだ。

「そうか」

 アミナスは努めて冷静を装ってそれだけ言うと歩き出した。

「何処へ行くのです?」

「次の街か村か、もしくは森か。私の事を誰も知らないところだ」

「そうですか」

 立ち去ろうとするアミナスの背中を男は何も言わずに追った。


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