世紀末救世主的な世界においてもっともホットでデンジャラスな職業
某北斗な作品のオマージュ(といっていいのか?)です。
指先一つでダウンな人とかはそもそも最初から存在していません。
核の炎で焼きつくされた後の地球。一度すべて灰になり、荒れ狂う放射能により生態系が一変してしまった荒廃した世界。ほぼすべての科学技術がリセットされ、兵器だろうが自動車だろうが産業機器だろうが、ほとんどのものが新たに作る事がかなわなくなった、そのくせ世紀末救世主的な人物は存在しない世界。そんな世界でも、人類はしぶとく生き残っていた。
これは、そんな弱肉強食で物理的な暴力が全てとなった世界で営まれる、世界で最もホットでデンジャラスな職業にスポットを当てた物語である。
「そろそろ昼飯だ。一息いれるぞ」
「あらやだ、もうそんな時間?」
とある農村。畑に肥料をまき、しっかり耕して混ぜ込む作業をしていたジェシカは、夫のダンに声をかけられて昼食の時間だという事を知った。
「すぐ支度してくるから、ちょっとチビども呼んで来て」
「ああ」
自身が腹を痛めて産み落とした双子の子供達を夫に任せ、自分は昼食の支度のために家に入っていく。土壌汚染がどうだの放射能の影響がどうだのと言った話に加え、深刻な食糧難の時期に子供を産むなど何たることかという非難に耐えて産んだ可愛い子供たちだ。安全な食品と言うのは難しくても、せめて愛情たっぷりの食事ぐらいはさせてやりたいと、それほど得意ではない料理を一生懸命学んで工夫を続けている、ジェシカはそんな可愛らしい女性である。
だが
「馬鹿どもが来たぞ」
「……またなの?」
見張りの当番に立っていたエドワードの言葉に顔をしかめ、今までの快活であけっぴろげな、可愛らしいお母さんの顔を引っ込め、農婦とは思えない険しい雰囲気を身にまとう。
「数は?」
「五十人程度。武装はアサルトライフルがメインだな」
「舐められたもんね」
エドワードの報告を聞き、家の中から愛用のスナイパーライフルを確保して狙撃ポイントに向かう。三十秒でポイントに到着したジェシカがスコープを覗きこむと、典型的なヒャッハー系モヒカンが乗ったジープが何台か。ああいう連中はどうやって車両を動かすための燃料やバッテリーを確保しているのだろうか、などと毎度の疑問を抱きながら引き金を引く。次の瞬間、運転手をヘッドショットされたジープが蛇行し、他の車両に衝突して転倒する。
巻き込まれないよう大慌てで迂回したジープの何台かが、次瞬間大爆発を起こす。村へのルートは特定のラインを除き、ぎっちり地雷を敷設してあるのだ。何処でそんなものを調達してきたのか? 答えは簡単。馬鹿どもから巻きあげたのである。
「さて、あたしの仕事はこれでおしまい。後はダンやジャックに任せましょうか」
その後も立て続けに三人ほど運転手をヘッドショットで始末し、狙撃ポイントが見つからないように色々偽装工作を行ってある退避ルートから引き上げていくジェシカであった。
「ちっ、土いじりどもが無駄な抵抗しやがって……」
スナイパーの存在によって正面からの突破が無理だと判断した暴漢どもは、それでも襲撃をあきらめずに村を囲む林を抜けようとうろうろしていた。放射能の影響かどいつもこいつも二メートル近い巨躯とはちきれんばかりの筋肉を持ち合わせており、その品性に乏しそうな表情や雰囲気と相まって非常に頭が悪そうに見える。
「おい、あっちだ!」
「行くぞ!」
炊き出しの煙だと思われる白い筋を見て、村の位置を見極めるモヒカンその一。どうやら油断しているらしいと都合のいい判断とともに、農民達に目に物を見せてやろうと歩を進めていくと……。
「ひでぶ!?」
「なんだ!?」
「おい、ゲッペン!!」
血に染まったスパイクボールが戦闘のモヒカンを襲い、頭部を粉砕して消える。よく見ると、モヒカンの足元にはトラップらしい紐が……。
「罠、だと……?」
「気をつけろ! このあたりは仕掛けがあるぞ!」
先頭の二人の警告もむなしく、次々にトラップに引っかかって命を散らす暴漢ども。あるモヒカンは勢いよくロープで釣りあげられた上でモズのはやにえのように枝に串刺しにされ、あるデブは落ちた落とし穴に大量に仕込まれた竹槍でそのだらしない体をハチの巣にされる。一撃で致命傷を負わせながらも、大半の罠は即死には至らないところがなかなかえげつない。
この罠は大豆農家のジャックが、ベトコン仕込の技術で丹精込めて仕掛けたものである。脳みそまで筋肉でできている、十フィート棒の使い方も分からないようなヒャッハーな連中には到底回避などできはしない。しかもうまい具合に音や気配で彼らを誘導しているのだから、無傷で突破など最初から不可能なのである。
最初の狙撃と地雷により半分以下に減らされたモヒカン達は、この罠で十人を切るまで減らされてしまった。だが、この林に待ち受けている恐怖はそれだけではなかった。
「くそっ! たかが農民のくせに!」
「でもよ、村は見えて来たぜえ!」
「ここまで虚仮にしてくれたんだ! 連中は皆殺しだ!」
「汚物は消毒だあ!!」
流石にここまでくれば、罠など仕掛けてはいまい。そう考えて意気揚々と村へと突入しようとしたところで、一緒に気勢を上げていたモヒカンが音もなく消える。
「おい、ちょっと待て!!」
「どうした?」
「さっきまで九人いたのに、一人減ってるぞ!」
「なんだと!?」
どうやら、ヒャッハーでも数ぐらいは数えられるらしい。人数が減っているというその報告で勢いをそがれ、周囲をぐるぐる見渡すと、突然頭上から巨大な何かが落とされる。
「な、なんだ!?」
「これは、ボブの死体!?」
「なんだと!?」
一撃で首の骨をへし折られたと分かるその死体に騒然としていると、
「リッパー!?」
「ガンド!!」
音も立てずに忍び寄ってきた襲撃者の手によって、更に二人が瞬く間に死亡する。目の前で殺されるところを目撃しているのに、どういう訳かその犯人を目視できない。その恐怖におびえ、蜘蛛の子を散らすように逃げ惑うヒャッハー一行。どうにか林を脱出した時には、その人数は四人にまで減っていた。
「四人、逃がしたか」
「誤差の範囲だろう」
もはや追いつける距離にいないヒャッハー達を見送って、ぽつりとつぶやくダンとジャック。本音を言えばここで全滅させておきたかったところだが、逃がしてしまったものはしょうがない。それに、四人ぐらいならどう転んだところで村人たちに負ける要素などない。
農作業で鍛えた怪力で熊をも素手でくびり殺すダンと、ベトコン仕込のゲリラ殺法を得意とするジャック。どちらも気配を殺してこっそり近付くのは特技を通り越して特殊能力の領域にまで至っている。決して林の中で遭遇していい相手ではない。林に迂回路を選んだ時点で、暴漢どもの運命はきまっていたのだ。
「あの村、どうなってやがる!?」
「俺に言うな!!」
どうにか林から生きて逃れることが出来た暴漢二人。残りの二人ともはぐれて這う這うの体で逃げ出し、苛立ちをお互いにぶつけあっているところで、丁度いい八つ当たりの対象を発見する。
「こんなところにガキか?」
「あの村のクソガキに決まってる。このまま引き上げるのも腹の虫がおさまらねえ。あのガキをやるぞ!」
「おう!」
村から結構離れた場所で遊んでいた、年の頃で言うならまだ小学校に上がるかどうかという小さな男の子と女の子に向かって、警告も遠慮も無く発砲するモヒカン二人。だが
「外しただと!?」
「ちっ! ちょろちょろ動き回りやがって!」
普通なら外すはずのない距離で結構な数の弾をばらまいたにもかかわらず、どういう訳か子供達にはかすりもしない。いきなりの銃撃を明らかにスルーしているという態度でどこかへ笑いながら駆けだす子供達を、いらだち紛れに銃撃しながら追いかける暴漢二人。だが、弾がかすりもしないどころか、巨漢にとっては面倒な障害物が多数ある道のおかげで一向に距離が縮まらない。
彼らは気が付いていなかった。子供達に誘導されて、銃器を使うにも大人が追いかけるにも最も条件の悪い場所に誘い込まれている事に。彼らは気がつかない。このルートで銃撃をするという事の意味を。
「ヤッホー!」
「わーい!」
無邪気に声を上げながら、子供たちの体格でなければ普通にちぎれるであろう蔦でターザンジャンプを敢行するちびっ子二人。いきり立って後を追いかけようとしたヒャッハー二人は、派手な地響きの音を聞きつけて思わず立ち止まってしまった。
「な、なんだ!?」
「わ、わからねえ!」
この時、勢いに任せて子供達を追いかけていれば、あるいはこの二人は助かったかもしれない。だが、未知の現象に驚いて立ち止まるという、この時期のこの近辺では最もやってはいけない事をやってしまったところで、彼らの命運は決まった。
「おいっ、あれ!」
「な、なんだと!?」
ヒャッハー二人が目撃したのは、銃撃の音に興奮して暴走している野牛の群れであった。どの牛も彼らの倍以上の体格を持っており、暴走時に正面からぶつかり合えば、たとえそれが胸に七つの傷を持つ男だろうが我が人生に悔いなしと言って立ち往生した大男だろうが絶対に勝ち目が無い種類の生き物である。もっとも、どちらもこの世界には最初から存在自体しないが。
「あべしっ!?」
「ひでぶっ!?」
逃げるという行動を起こす前に群れに巻き込まれ、哀れなヒャッハー二人は跡形も無く飲みこまれてしまった。
「あははははははは!」
「おもしろ~い!」
その様子を見て無邪気に笑う子供達。子供と言うのは、実に残酷な生き物なのであった。
「さて、使った弾はどのぐらいだい?」
「全部合わせて十五発ってところだな」
「死体から剥いだ分が五百発はあるから、当分は困らんだろう」
この農村の長老である老婆の問いかけに応え、死体をコンポストに無造作に放り込んで行く村人達。わざわざ墓を造るのも面倒だが、野ざらしにしておくと野獣が集まってそれはそれで面倒だ、という理由で確立された処理方法である。因みに、描写が無かった逃げ延びた暴漢の残り二人は、よせばいいのに村に突撃をかけてあっという間に鉛弾を食らってハチの巣にされてしまっていた。
なんだかんだといっても、生き物の死体はちゃんと発酵させればいい肥料になるので、それなりにヒャッハー達も収穫高に寄与しているらしい。普通の倫理観を持っているならそんな肥料を使った野菜など食べたくもないだろうが、ここは世紀末救世主的世界である。そんな綺麗事を言っていると食べるものなど手に入らない。肥料にされたくなければ襲撃などしなければいいのだ。
「それにしても、いつも思うんだが」
「なんだい?」
「あいつら、弾とか燃料使いきったらどうするつもりなんだろうな?」
「そんな先の事まで考える頭があったら、農村の襲撃なんて生産性のない真似なんざしないだろうよ」
そう簡単に補充の効かない銃器を馬鹿すか撃って略奪行為を続けるヒャッハー達の将来を考えて、まあどうでもいいかといういつもと同じ結論に達するダン。銃器が無くなったヒャッハーなど大した脅威ではない、という事に彼らが気がつく日は当分来なさそうである。
「さて、飯食ったら作業の続きだな」
「あいつらのせいで、手が止まっちまったよ」
「っと、ちびどもを迎えに行ってこないと」
「あ、もう帰ってきてるよ」
「そうか」
農業、それは世紀末救世主的世界において最もホットでデンジャラスな職業である。
一発ネタです。というかいろんな意味で続編とか無理。
元ネタにでてきたような指先一つでダウンのような連中はいないものの
これ、二次創作になってしまうのだろうか?