チャイルドプレイ
僕は丸いものが大好きだ。
子犬や子猫の顔は言うに及ばず、テニスボールもバスケットボールもいけるクチだ。自分でもおかしいと思うのが、食器やボウルのお尻にも執着を感じるのである。
そんな中で、何よりも愛おしいのが、配偶者である千秋の膨らんだお腹だ。
「やわらかい」
昼寝している千秋のシャツをこっそりめくりあげて、ぷっくりとしたお腹を撫でた。手のひらで球面をなでさする。産毛がさわさわとあたって心地好かった。
「ちょっと痛い! やめてよ」
千秋が悲鳴を上げて逃げた。
「ヤダ。だって、やわらかいんだよ?」
理由にならない理由というのは、僕にもわかっている。だけど、目の前にある好物をみすみす見逃すわけにはいかない。千秋ににじり寄り、手を揉みしだいた。
「駄目だって言ってんの!」
少し怒り気味の言葉を浴びせられ、手をはたかれた。
「じゃあ、ここならいい?」
二段腹の間のくびれに指を入れた。しっとりとしている。猫背の千秋が隠している腹の谷間だ。
くびれと谷間。
男にとっては魅惑的な言葉だ。だけど、僕は興味がない。
「司ちゃん、いい加減にしなさい。お腹に障るでしょ」
「エー」
千秋に軽く押しのけられた。肩を抱かれて、ソファまで重たい身体が運ばれる。
「自分のお腹だと怒るから、千秋の触っているんだよ?」
「あなたはすぐ夢中になって、力が強くなるからいけないの」
自覚していることだったから、反論できなかった。僕はしょんぼりと肩を落とした。
「ああ、もう! じゃあ、こうしよう。お手本を見せるから、優しく触る練習」
そう言うと、千秋がそっと僕のお腹を撫でた。
「あふん」
変な声が出てしまった。千秋の手はお腹と違って固い。敏感な肌が刺激される。
「大きくなったね」
千秋は目元を緩ませていた。
「七ヶ月だもの」
妊娠して半年が過ぎると、膨らみが目立ってきた。それでも千秋のお腹よりは小さい。しっとりとしたくびれも、もちろんなかった。
「ね、こんな感じかな?」
見よう見まねで、自分の腹を撫でてみた。いい感じに丸かった。ご馳走だ。
「そんな目でお腹を見ないの。変態さんみたい」
「それはイヤ」
「冗談だって。ゆっくり……そうだね。じらすように触ればいいんだ」
「じらすって。それ、なんてプレイ?」
「えーと、チャイルドプレイ?」
「なんだか、恐そうね」
手をゆっくり動かすことに、だんだん慣れてきた。撫でるのも気持ちよかったが、撫でられるのも気分がよい。
「そっか」
このくらいの強さなら、どちらも満足できるんだ。
「司ちゃん、いい顔しているよ。ママの顔だね」
「千秋はパパの顔だ」
僕たちは笑いあった。
「元気な子が産まれるといいね」
僕は頷き、心の底から祈った。
丸々と太った子が産まれますようにと。