血・人魚・真珠
一面、海が凍っているのを見た事があるか?
この地域では、珍しくもないが毎年綺麗だと思う。
自転車を走らせながら、トオルは潮風を感じていた。
……今日も居る。
昨日も居たな。あの人魚。
凍った海の底には人魚たちの街がある。時折、流れの人魚がひょっこり漁の網にかかる事がある、しかし、この時期は人魚は、冬眠としているはずだった。
少し離れた場所から自転車を止めて浜辺に寝転ぶ人魚を眺めた。
綺麗だった。
一言で表すならそれしかない。
何か……聞こえる。
「何してんだ?」
俺は勇気を出して声を掛けてみることしにした。
人魚は一瞬こちらに視線を向けてから驚いたような表情をしたがすぐに無表情に戻り、トオルの問いに答えた。
「唄っていていたの。海の唄を。君も、わたしなんかに関わると変な目で見られるぞ」
「いいよ。俺はよそ者だし。気にしないから。お前、名前は?」
「変なやつ。変なやつ。名前なんかあるもんか。ニンゲンじゃあるまいし。それじゃまるで……」
人魚は、顔を何故か赤らめた。
「じゃぁ、唄っていたから、ウタって呼ぶわ」
「まぁいいけど……」
ウタは海に飛びこむと海面から顔だけを覗かせた。
「変なやつ……」
そう言い残して、その日は海の中に消えて行った。
トオルは、浜辺から立ち上がるとウタが居た場所に何かが落ちていた事に気づく。
「なんだ? コレ」
それは、白い真珠だった。トオルはそれを拾うと首を傾げるがとりあえずポッケに閉まった。珍しかったのもあったが、何故か惹かれるモノがあった。
※
数日後。
島がざわざわしていた。理由は、裸の女性が海から出てきたからだ。
凛とした女性は、警察に保護されたが、自分の名前をウタと言っているらしい。
それ以外は無いと。
トオルは、慌てて交番に向かった。
そこで、ウタに再会する。
ヒトになった。ウタと再会する事になる――――
「名をくれたから、番になる。そういう定め」
人魚……だったウタは、そう告げると鋭い視線でトオルを見た。
「真珠、拾った?」
「ああ……」
「ふふ。なら、もう離れられないね」
ウタがトオルに抱き着いてくる。
島にその噂が流れるのはすぐだった。
しかし、トオルが思った感じではなかった。
島の住人たちは、人魚がヒトになり、番を求めて陸に上がる事は定期的な事してあるかのように冷やかな目でみていた。
「今回は、外の者が贄になったか」
「海荒神様の魂がこれで鎮まるのならこれも運命よ」
「はて、何年もつかな。あの肉は……」
白い真珠――――
それは、不老の真珠。
人魚は元来、唄で餌を呼ぶ。そして、釣れたものを養分にする。
そして副産物として真珠が出来るのだ。
【ねじまき島】
人魚伝説が古くから伝わるこの島では、暗黙の中で行われている行事として現在も、生贄の儀式が存在している。
外から来た者は、知らず知らずに人魚の唄に魅了されてしまう。
触れてはならぬものがある。
知ってはならぬものがある。
人魚の唄には永久の魅惑が秘められている。




