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数千文字の物語

だめだめ勇者?

 俺は勇者である。が、だめだめである。今日もスライム一匹を討伐するのに半日使ってしまった……。こんな具合で本当に魔王を倒せるのか、不安でしかない。


 ――なんて、彼は思っているのだろう。

 スライムとの奮闘で泥まみれになってやっとゲットしたコインを握りしめて、草の上に転がっている彼を見て僕は思う。だけれども、あいつはちゃんと勇者だ。モンスターと一緒に育った僕をみんなが避ける中、彼は人間として接してくれたし、仲間にしてくれた。

 あいつは途方もなく優しい。街で困っている人を見かけようものならすぐに駆け寄って手助けする。それに振り回されて全然先に進めないことは多いけど、あいつも助けられた人も、両方とも最後には笑ってるからそれでいいかなって思う。


「お前、俺の何倍強い……?」

「十倍くらいかな」

「何で俺が勇者に選ばれたんだ……」


 手にしたコイン数枚をポケットに入れながら疲弊した声で彼は嘆く。僕はその倍の倍以上のコインをリュックに詰めた。彼が頑張っている近くで僕もずっとモンスターを狩っていた。成果は彼に比べればとてもいいけど、自分の中ではまあまあといったところだ。


「でも君だから勇者に選ばれたんだろ。優しいし」

「……だといいな。ちょっとは強くなったかな」

「そうだね。でもまだまだ底辺だよ」

「ひでぇ。でもその通りで何も言えねえ。魔王討伐までの道のりが果てしなさすぎる……」


 僕は笑いながら、いつまでも寝っ転がっている彼に街へ帰ろうと促す。そろそろ昼食が食べたい。

 彼は僕が差し出した手を取って起き上がると、背中に付いた草を払いながら歩き出す。


「あ、これ薬屋のばあちゃんが欲しがってたやつ」


 少しいったところで、彼はしゃがむとその辺に生えていた薬草をむしり始めた。いつもの流れだ。慣れたもので僕も近くにしゃがんで同じように薬草を摘んでいく。どれが使えてどれが使えないか、教えてもらってもう覚えた。

 戦闘面はボロボロな彼だけど知識は豊富だし、スライム一匹倒すのに丸一日使っていた頃に比べると確かに成長してる。そんなにスピードは速くないけど。

 と、薬草採取を続けていたら少し離れた後ろから叫び声が。


「ぎゃーっ! なんかミミズ型のモンスターが地中から!」


 人間の胴より少し細いくらいで、長さ数メートルはあるモンスターは地上に飛び上がると戦闘体勢に入る。下級モンスターではあるから僕が絶対に必要な訳ではないだろう。


「それ何とか出来る?」

「俺と勇者の剣に任せとけ!」


 ……と言いつつ、向かっていって秒でぶちのめされる彼。まるでギャグ漫画。

 でも


「くっそぉ」


 ぶちのめされておきながら、諦めはしない彼。また立ち上がって、向かっていく。

 驚いても怖くても、彼はこういう時逃げない。


 僕と出会った時も、逃げなかった。僕にワンパンされておきながら「強いから仲間になってほしい」って言ってきた時は正直意味分からなかったけど。でもその後彼と関わっていく内に、ただのバカじゃないんだなって分かってきて。当たり前に仲間でいさせてくれるのが嬉しかった。


「危なくなったら加勢するよ」

「頼む!」

「頑張れよー」


 僕は少し離れた場所に座って応援する。いつもの流れ。

 『強くなりたいから、ギリギリまで手を貸さないでくれ』。彼の意地なんだ。


「ぎゃーっ気持ち悪い! うねうねすんな!」


 突進攻撃を躱しながら彼は走る。今の所攻撃は一発も入れられていない。街に帰るにはあと半日以上かかりそうだな。昼食は抜きかぁ。


「おらぁ!」

「お」


 一発入れた。けど、振り払われて吹っ飛んでいった。大丈夫かな、と見ていると起き上がってまた走っていく。


 ……今はまだよわよわ勇者で、強いモンスターは僕に頼りっきりだけど、僕は信じてるよ。いつか君と一緒に魔王を倒して、世界を平和にする日が来るって。

 今はまだ旅の途中……というか序盤も序盤。だけどいつか君と見る平和な世界は、きっと何よりも煌めいている。

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