第五節 : 帰還と重い真実
天空遺跡での冒険を終えて、俺たちは夕暮れの空から地上へと戻ってきた。
雲海を抜けて降下する間、誰も口を開かなかった。あの古代文明の遺跡で見た光景は、俺たちの心に深い衝撃を与えていた。
宿に着くと、俺とアイリア、ノエル、セリアの四人は食堂の奥の静かな席に座った。ろうそくの光がテーブルを照らす中、遺跡で目にした「技術の暴走」について話し合った。
「あの遺跡は、技術が人を幸せにするどころか、逆に文明を滅ぼしたことを物語っていた」
俺の言葉に、アイリアは悲しそうに頷いた。彼女は遺跡の中で石や壁に触れるたびに、そこに残された人々の感情を読み取っているようだった。
絶望、後悔、愛する者を失った悲しみ。それらが彼女の心に重くのしかかっているのが分かった。
「遺跡の人たちは、最後まで技術を止めようとしていました」
アイリアが小さな声で言った。
「でも手遅れだったんです。技術が人の心を変えて、家族も友人もバラバラになって……」
彼女の言葉は途切れがちだった。まるで遺跡の人々の記憶を自分のもののように感じているかのようだった。俺は彼女の肩にそっと手を置いて慰めた。
その時、セリアが突然立ち上がった。
「リョウさん!この天空遺跡の飛行技術があれば、空賊を完全に倒せます。この技術を王都に持って帰るべきです!」
彼女の瞳には学者としての好奇心と、父親の組織に貢献したいという強い気持ちが混ざっていた。セリアの父親は王都の偉い人で、彼女はいつもその期待に応えようと頑張っていた。
でも俺は、彼女の提案をきっぱりと断った。
「この技術は危険すぎる。地下都市で見た病気の記録も、この技術と関係があるかもしれない。安易に持ち帰れば、また同じ悲劇が起こる」
セリアは複雑な表情で下を向いた。彼女の拳が小さく震えていた。王都の権力者たちがこの技術をどう使うか、彼女は知っているのだ。
軍事利用や権力の集中、そして古代文明と同じ道をたどる可能性も。学者としての良心と父親への想いの間で、彼女は激しく迷っていた。
「でも……この技術があれば、多くの人を救えるかもしれません」
セリアが震え声で反論した。
「父がいつも言ってるんです。知識は人類の進歩のために使われるべきだって……」
「セリア」
俺は静かに彼女の名前を呼んだ。
「君の父親は立派な人だ。だからこそ、この技術の本当の恐ろしさを理解してくれるはずだ。古代の人々も、最初は人類の幸せのために技術を作ったんだ」
重い空気が食堂を包む中、ノエルが明るい声で立ち上がった。
「まあまあ!せっかく無事に帰ってきたんだし、今日は宿でおいしいものを食べましょう!」
彼女の笑顔が場の空気を少し軽くした。
「それに、リョウさん、アイリアさん、二人きりでゆっくり休んでくださいね!」
最後の一言に、俺とアイリアは顔を見合わせて、同時に真っ赤になった。
「ば、バカ!違うだろ!」
俺が思わずツッコむと、アイリアも慌てて手を振った。
「そうよ!リョウとは、ただの、その……仲が良いだけよ!」
アイリアの必死の否定だったが、頬の赤さと上目遣いが本心を物語っていた。ノエルとセリアは、さっきまでの重い話を忘れたかのようにニヤニヤ笑っていた。
「あら、でも天空遺跡では、すごく心配してましたよね」
ノエルがからかうように言う。「『リョウがいなかったら私……』なんて」
「ちょっと、ノエル!」
アイリアの顔がさらに赤くなった。
その様子を見て、俺は頭を抱えた。この旅は、俺とアイリアの関係を深めただけでなく、俺たち二人をからかう材料にしてしまったらしい。
でもそんな仲間たちの温かい視線に、心の奥で安らぎを感じているのも確かだった。
その日の夜、俺とアイリアは宿のテラスで二人きりになっていた。夜空には満月が明るく輝き、その光が二人を優しく照らしていた。
「リョウ、空に浮いているのは、私たちがいた遺跡なんですか?」
アイリアが月を指差しながら、純粋な疑問を口にした。まだ幼さが残る表情だった。
「いや、あれは月だよ」
俺は優しく微笑んで答えた。
「君がいた天空遺跡は、もうずっと昔に、どこかへ行ってしまったんだ」
俺の説明を聞くと、アイリアは少し寂しそうな顔をした。記憶を失う前にいた場所への想いは複雑なのだろう。俺は彼女の隣に座り、そっと手を握った。
彼女の手は小さく、月の光で白く見えた。
「でも大丈夫。俺は考古学者だ。君がいた場所は必ず見つけ出してやる」
俺の言葉に、アイリアは俺の顔をまっすぐ見つめて静かに微笑んだ。その笑顔は、遺跡で見せた不安に満ちたものとは全く違う、深い信頼に満ちたものだった。
「ありがとう、リョウ。……でも私は、もう大丈夫。だって私には、あなたがいるから」
その言葉に、俺は言葉を失った。月光の下で見るアイリアは、これまでで最も美しく、そして強く見えた。
この旅を通して、アイリアはただの「記憶喪失の少女」から、自分の意志を持ち、俺を支えようとする強い「アイリア」へと成長していたのだ。
「俺も同じだ」
俺は彼女の手を強く握り返した。
「アイリアがいなければ、俺はあの遺跡で迷子になっていただろう。君は俺の道案内なんだ」
二人の間に、言葉では表せない深い絆が流れていた。それは恋愛感情を超えた、魂と魂のつながりのようなものだった。
テラスで過ごした静かな時間の後、俺たちは部屋に戻った。明日からは、また新しい冒険が待っている。
天空遺跡での経験は、古代文明の技術の危険性を俺たちに教えてくれた。同時により大きな謎と責任も背負わせることになった。
天空遺跡での冒険は、技術の暴走という古代文明の重い真実を俺たちに見せつけた。人間の知識欲と技術への信頼が、どれほど恐ろしい結果を招くかを身をもって体験した。
そして同時に、俺とアイリアの絆を何よりも確かなものへと変えてくれた。
でもこれで終わりではない。むしろ始まりに過ぎないのかもしれない。古代文明の技術の秘密を知った俺たちは、それを悪用しようとする者からも、正しく理解しようとする者からも注目される存在となった。
そして俺たちの旅は、古代文明の技術を巡る、より大きな陰謀へと深く巻き込まれていくのだった。
月が雲に隠れ、夜の静寂が宿を包む中、俺たちは知らないうちに、この世界の運命を左右する重要な場面に立たされていたのである。
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