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第一節:空への憧れと不安

地下都市での冒険から一週間後。

俺たちは険しい山道を歩いていた。


今回もメンバーは俺とアイリア、助手のノエル、それに王都から来た学者見習いのセリアだ。


今回の目標は「天空遺跡」という不思議な場所。

なんと空に浮かんでいる遺跡らしい。


「本当にそんな場所があるんですか?」


息を切らしながらノエルが空を見上げる。

雲の間に確かに影が見えるが、まだよくわからない。


「古い文献によると、飛行石という特別な石の力で島全体が浮いているそうだ」


と俺は説明した。


セリアも付け加える。


「王都の研究では、その石は特殊な鉱物と魔力を組み合わせた技術だと考えられています」


魔力か。

この世界に来てから、まだこの概念に慣れていない。現代の科学とここの魔法をどう理解すればいいのか、いつも悩んでしまう。


「……わたしだって何か言える!」


 アイリアが、小さく息を吸い込み、思い切って口を開いた。


「えっと、その……空が、すごく青い!」


リョウが振り返る。

沈黙。

風が吹き抜ける。


「……いや、それは誰でもわかる」


「うぐっ……!」


思わず顔を真っ赤にしたアイリアは、むくれてそっぽを向く。


「いいもん。わたしは対等だから。守られてばっかりでもないし!」


「……誰も甘えてるなんて言ってないだろ」


「そう! だからわたしは甘えてない!」


「……いや、今の会話の流れだと十分甘えてるように聞こえたぞ」


「なっ……! リョウは意地悪です!」


リョウは苦笑して視線を戻した。

彼女が必死に並び立とうとする気持ちは、痛いほど伝わっている。だが知識と経験の差は埋めがたい。


それでも、同じ景色を見上げようとするその姿勢が――不思議と眩しく見えた。


その時アイリアが立ち止まった。空を見上げて不安そうな顔をしている。


「どうした?」


「なんだか胸がざわざわします。何かを思い出しそうで思い出せない感じです」


地下都市でも、アイリアは遺跡に近づくと記憶の一部を思い出していた。今回も何か関係があるのかもしれない。


「大丈夫。何があっても俺たちがついてるから」


アイリアは微笑んだが、まだ心配そうだった。


空に浮かぶ島々…

山頂に着いた時、目の前の光景に俺たちは驚いた。


「わあ!本当に浮いてる!」


ノエルが感動の声を上げる。雲海の上に巨大な島がいくつも静かに浮かんでいる。一番大きな島には古い建物が並び、美しい塔や不思議な水路が見える。


小さな島々はゆっくりと主島の周りを回っている。


「すごいな。あの水路、重力を無視した作りだ。水が螺旋状に流れてる」


セリアも息をのんでいる。


「文献で読んだ時は半分疑っていましたが、実物を見ると言葉が出ません」


俺は心の中で、昔こんな感じの劇場版アニメ見たな…

これも滅びの言葉で壊れるんだろうか…


そんなバカな事を考えていると、そばで震えてるアイリアに気づいた。


俺の服をぎゅっと握りしめている。


「リョウ、あれって落ちたりしませんよね?」


「大丈夫だ!」


俺は理論的に説明しようとする。


「飛行石の原理は、重力場に対する反発力の生成だ。考古学的に、いや、物理学的に考えても、そう簡単に効果が切れることはない。古代文明の技術なら、少なくとも数千年は持続するはずだ!」


内心では「まさか『親方!空から女の子が!』なんてベタな展開はないよな……」と思いながら、俺は理屈で彼女を安心させようとした。


でもセリアが苦笑いで割り込む。


「リョウさん、アイリアさんが求めているのは理屈じゃないと思いますよ」


アイリアは顔を赤くして小さくうなずいた。


「高いところって怖いじゃないですか。もし落ちたら...」


そうか、アイリアは高いところが苦手なんだ。いつもは危険な場所でも平気なのに、空に対してだけはこんなに怖がっている。


「よし!じゃあ俺がしっかり君を守る。絶対に落とさないから安心しろ」


そう言って俺がアイリアの手を握ると、彼女は驚いたような顔をした。でもすぐに安心した笑顔になった。


「はい!リョウがそう言うなら信じます」


その瞬間、俺の心臓が早く鼓動した。

アイリアの信頼に満ちた瞳が俺を見つめている。

この気持ちは何だろう。


「よし、それじゃあ天空遺跡に出発だ!」


自分の動揺を隠すように元気よく声を上げた。


飛行石の力を借りて、俺たちは遺跡に近づいた。

でも入り口は複雑な構造になっている。

メインの島に行くには小さな浮遊島を足場にして飛び移る必要があった。


「まるでパズルみたいですね」とセリア。


「そうだな。これは試練だ。古代文明は遺跡に入る人が相応しいかどうかを試している」


最初の島に降りると、古代文字が刻まれた石碑があった。でもこの文字は今まで見たことがない。音楽記号のように流れるような形だった。


「この文字、見たことがありません」


セリアが困った顔をする。


俺も首をかしげた。考古学の知識を使っても、この文字はわからない。


その時アイリアが石碑に近づいた。


「リョウ、この石碑から歌が聞こえる気がします」


「歌?」


「とても美しいけれど、どこか悲しい歌が...」


アイリアが石碑に手を触れると、突然石碑が光った。そしてアイリアの口から美しい歌声が流れ出した。


その歌声は天使のように澄んでいる。歌詞は古代語のようだが、不思議と意味が心に響いてくる。『遥かなる空の彼方へ、翼なき者に道を示そう』という内容だった。


アイリアの歌に合わせて、周りの小さな島がゆっくり動き始めた。まるで踊るように位置を変えて、俺たちの前に空中の道を作ってくれる。


「すごい!アイリアさんの歌が遺跡を動かしてる!」


ノエルが興奮する。


「アイリア、君は...」


俺は感動して彼女に駆け寄った。


「君の歌が古代の仕掛けを解いたんだ!」


でも歌を終えたアイリアの表情は複雑だった。


「この歌、とても悲しいんです。大切な何かを失った人の嘆きみたい...」


俺たちは静かになった。地下都市でも、古代文明の栄光の裏には悲劇があった。この遺跡にも重い歴史があるのかもしれない。


「大丈夫だ」俺はアイリアの手を握った。


「どんな歴史があっても、俺たちは真実を知ろう。そしてその知識を未来に活かすんだ」


アイリアは俺の言葉にうなずいた。彼女の瞳には不安とともに強い決意の光も宿っていた。


浮遊島の道を進むと、遺跡の中心部が見えてきた。巨大な円形の広場があり、中央には水晶のような大きな飛行石が浮かんでいる。その美しさに俺たちは見とれてしまった。

しかしその時だった。


「そこを動くな!」


突然背後から男の声が響いた。振り返ると一人の男が立ちはだかっている。空賊のような服装だが、ただの盗賊ではない。彼は遺跡の制御装置を慣れた様子で操作していた。


「なんで空賊が遺跡の仕掛けを?」


俺は困惑した。


男は不敵に笑う。


「この遺跡は俺たち『天翼団』が三年かけて手に入れたものだ。勝手に入られて黙ってるわけにはいかない!」


「三年も?まさかずっとここに住んでるのか?」


「引きこもり…」


アイリアがボソッとつぶやく、あいかわらず容赦がない。


「うっ、うるさい、だから、この遺跡の仕掛けは俺たちが一番よく知ってるんだ!」


男が制御装置を操作すると、俺たちの立っている島が激しく揺れ始めた。古代の技術を悪用して、島のバランスを故意に崩しているのだ。


「うわあああ!」


ノエルが悲鳴を上げる。


「リョウ、落ちる!落ちちゃいます!」


アイリアは完全にパニックになった。高所恐怖症の彼女には最悪の状況だ。彼女は俺にしがみつき、震えながら涙を流している。


「大丈夫だ、アイリア!絶対に君を守る!」


俺は必死に彼女を抱きしめた。


その時、アイリアの涙が俺の手に触れた。すると涙が温かい光となって、俺たちの体を包み込んだ。


次の瞬間、俺たちの体がふわりと浮き上がった。重力から解放されたような感覚だ。


同時に、空賊の制御装置が突然停止した。


「な、なんだこの力は!?」空賊が驚く。


俺も驚いていた。アイリアの涙が持つ不思議な力。それは遺跡の暴走を止め、俺たちを救ったのだ。


アイリアは俺の胸に顔を埋めて震えながら呟いた。


「よかった。リョウが無事で...」


俺はアイリアを抱きしめながら考えた。地下都市での治癒能力、そして今回の涙の力。アイリアは単なる記憶喪失の少女ではない。


彼女には古代文明と深く結びついた何かが眠っているのだ。


「君は本当に不思議な子だ。でもそれが君らしい」


空賊は制御装置が効かなくなったことに困惑していた。やがて諦めたような表情になる。


「くそ...化け物みたいな力だな。今日は引いてやる。だがこの遺跡から手を引かないなら、今度はもっと本格的に潰しに来るからな!」


そう捨て台詞を残して、空賊は飛行艇で逃げていった。


空賊が去った後、俺たちは改めて中央広場に向かった。巨大な飛行石は美しく光り、遺跡全体に生命を与えているようだった。


「アイリア、体調はどうだ?」


俺は心配になって声をかけた。


「大丈夫です。でも...」


彼女は飛行石を見つめながら続けた。


「この石を見てると、何か思い出しそうになるんです」


「思い出す?」


「誰かの声が...『空と大地を繋ぐ者よ、汝の使命を忘れるな』って」


セリアが息をのんだ。


「それって古代語ですよね?アイリアさん、古代語がわかるんですか?」


「わかりません」


アイリアは困ったように首を振る。


「でも意味は心に響いてくるんです」


俺は考古学者の直感で確信した。アイリアの失われた記憶の中に、この天空遺跡と古代文明の真実を解く鍵があるのだ。


「無理をしなくていい」


俺は彼女の手を握った。


「記憶は自然に戻ってくる。俺たちは君のペースに合わせる」


アイリアは安心したように微笑んだ。


「ありがとう、リョウ。あなたがいてくれるから怖くない」


その瞬間、俺の胸が再び高鳴った。

アイリアとの距離が近くなっている。この感情が何なのかまだよくわからないが、確実に言えることがある。


俺はもうアイリアを失いたくない。


「さあ」


俺は仲間たちを見回した。


「この天空遺跡の秘密を解き明かそう。そしてアイリアの記憶の手がかりを見つけるんだ」


空に浮かぶ古代都市はまだ多くの謎を秘めている。俺たちの冒険はここからが本番だ。そしてアイリアと俺の関係も、新しい段階へと進もうとしていた。

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