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第三節:共鳴する魂と真実の光

盗掘団の執拗な追跡から逃れるため、俺たち――考古学者リョウと、記憶喪失の少女アイリアは、地下都市の迷路のような通路を走り続けた。


崩れかけた壁、足元に散乱する瓦礫、そして、どこまでも続く暗闇。行く手を阻む障害は数知れず、一歩間違えれば、この地下の迷宮に永遠に囚われてしまうだろう。


しかし、俺には考古学者として培った知識と、そして何よりも、アイリアの驚異的な直感があった。


「リョウ、右に曲がって!この先、崩れてる!」


アイリアの鋭い声が暗闇に響き渡る。


俺は迷わず彼女の言葉に従い、右へと身を翻した。数秒後、俺たちがいたはずの左側の通路が、轟音と共に音を立てて崩れ落ちた。


間一髪のところで、俺たちは危機を回避することができた。背筋に冷たいものが走る。もし、彼女の言葉がなければ、俺たちは今頃、瓦礫の下敷きになっていたかもしれない。


「すごいな、アイリア!どうして分かったんだ?まるで、この地下都市の構造を全て知っているかのようだ」


俺の問いかけにアイリアは首を傾げた。

その表情はどこか不思議そうで、しかし確かな自信に満ちていた。


「……なんとなくです。この場所が、私にそう言ってる気がして。壁の向こうから、悲しい声が聞こえるんです」


彼女の言葉に、俺は改めてアイリアの持つ不思議な能力の片鱗を感じた。まるで彼女自身が、この遺跡と共鳴しその記憶を読み取っているかのようだ。


彼女の直感は、単なる勘ではなく、この地下都市に秘められた、何か深遠な力と繋がっているのかもしれない。その可能性に俺の考古学者としての探求心は、さらに掻き立てられた。


俺はふと立ち止まった。


目の前の壁に奇妙なものが描かれていたからだ。

それは、以前見た病に苦しむ人々のスケッチの続きだった。しかし、ここにはさらにその病の原因らしきものが描かれている。


それは地上から流れてくるどす黒い水だった。

その水は人々の体を蝕み精神を狂わせるかのように、禍々しいオーラを放っていた。


俺はその絵から、この地下都市が滅びた真の理由を悟った。


「これ……!水源の汚染が原因だったのか!古代の文献には、この地下都市が『地上からの水』によって滅びたという記述があった。だが、それが疫病によるものだとは知られていなかった。この病はただの疫病ではない。汚染された水によって引き起こされた、環境病だったんだ!」


俺は興奮してスケッチを眺める。


この発見は、俺がこれまで抱いていたこの地下都市の滅亡に関する仮説を根底から覆すものだった。


俺はこの歴史の真実を記録しなければならない、という強い使命感に駆られた。この知識は未来の世代に伝えられなければならない。


二度とこのような悲劇が繰り返されないために。


その時、アイリアの悲鳴と共に、俺の背後から盗掘団が襲いかかってきた。彼らは俺たちがこの地下都市の真実に近づいていることを察知したのか、以前にも増して凶暴になっていた。


彼らは俺が持っていた考古学用の道具を奪おうと、容赦なく襲いかかってくる。彼らの目的は単なる金目のものではなく、この地下都市に隠された「病」の治療法、あるいは、その原因となる「汚染された水」そのものにあるのかもしれない。


彼らの目には、狂気と、そして焦燥の色が浮かんでいた。


「くそっ……!」


俺は抵抗するが多勢に無勢。

彼らの猛攻に俺はついに倒され、道具を奪われそうになった。


その時だった。


俺の目の前に小さな影が立ちふさがった。


アイリアだ。


彼女は両手を広げ、まるで俺を守るかのように盗掘団の男たちと対峙していた。


「やめて!あなたたちは、この場所の記憶を汚そうとしている。そんなこと、させません!」


彼女の瞳が、出会った時に見せたのと同じように神秘的な光を帯びて輝き始める。その光は、まるで地下都市の奥底から湧き上がる精霊の輝きのように暗闇を照らした。


盗掘団の男たちは、その光景に怯み、一瞬動きを止める。

しかし、リーダー格の男はその怯えを隠すかのように、ニヤリと笑った。


「なんだ、お人形さんか。そんな力、俺たちに通じると思うな!所詮は女の小細工だ!」


男がアイリアに向かって剣を振り下ろそうとしたその瞬間、俺は咄嗟に彼女の前に身を投げ出し、剣を受け止めた。


鈍い音と共に腕に激痛が走る。


だが、それよりもアイリアを守れたという安堵感が勝っていた。俺は、彼女を傷つけることだけは絶対に許せなかった。


「リョウ……!」


俺の姿を見たアイリアの瞳に、大粒の涙が浮かび始める。彼女の震える唇から悲痛な叫びが漏れる。


そして、彼女の周囲に淡い光の粒子が舞い始めた。それは、精霊のような神秘的な光だった。


光の粒子は次第にその輝きを増し、まるで生きているかのように、アイリアの体を包み込んでいく。彼女の髪が、光を浴びて銀色に輝き、瞳は、さらに深く、そして神秘的な輝きを放っていた。


「……リョウに、怪我をさせる人なんて許さない!」


アイリアの言葉と共に、光の粒子が盗掘団の男たちを包み込む。男たちは悲鳴を上げ、まるで幻覚でも見ているかのようにその場に崩れ落ちた。


彼らは、恐怖に顔を歪ませ、意味不明な言葉を叫びながら意識を失っていく。


それは、アイリアの力が彼らの精神に直接作用した結果だった。彼女の力は、単なる物理的な攻撃ではなく精神にまで影響を及ぼす恐るべきものだったのだ。


「すごい……!アイリア、今の力は……?君は一体……」


俺の問いかけに、アイリアは答えることなく、ただ震える手で俺の傷に触れた。

彼女の指先から温かい光が放たれ、傷口がみるみるうちに癒えていく。


その光は俺の腕の痛みを和らげるだけでなく、俺の心にまで温かい安堵感をもたらした。

彼女の力は、破壊だけでなく、癒しをもたらすものだったのだ。


「……リョウ、よかった。私にも、あなたを守る力が、ちゃんとあった」


そう言って、アイリアは安心したように涙を流しながら笑った。

その笑顔は、記憶を失いどこか儚げだった彼女の表情に確かな感情の光を灯していた。


彼女は自分の存在意義を見つけたかのように、満ち足りた表情をしていた。俺は彼女の純粋な優しさと、秘められた大きな力に、改めて心を奪われた。


そして、この旅の本当の意味を再認識する。


それは、ただ古代の謎を解き明かすことだけではない。

アイリアが自分自身と向き合い、その力を受け入れるための成長の旅でもあったのだ。


俺は彼女の手を強く握り誓うように言った。


「当たり前だ。俺はいつだって君を守る。だから、安心して、俺に頼ってくれ。君の力は、俺にとって何よりも心強いんだ」


その言葉に、アイリアは満面の笑みを浮かべた。

俺たちの信頼は、もはや一方的なものではなかった。

互いに助け合い支え合う、対等な「相棒」としての絆が

この地下都市の暗闇の中で確かに育まれていた。


この地下都市での経験は俺たちの関係性を大きく変えた。俺たちは、互いの存在がこの危険な旅において、どれほど大きな支えになっているかを改めて実感する。


そしてこの地下都市の真実を解き明かすことが、俺たち二人の使命であると、強く心に刻んだ。

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