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その五十三

「い、痛っ」


 割れるような頭痛に襲われ、ランスロットの背の上でのたうち回る。

 そのまま塔の上に転がり落ちた。


 急に目の前の色が失われ、視界が白と黒の世界に変わる。


 気づくとモリガンの白と黒が入れ替わっていた。

 彼女の髪、ドレスなど本来黒いはずのものがすべて白く見える。

 逆に彼女の白い肌は真っ黒で悪魔のようだ。

 いやこれが悪魔モリガンの本来の姿なのだろう。


 あまりの異常事態にこれが呪いによる死なのだと直観する。

 抗う術はない、そう思われた。


「ミレーユ! ミレーユ!」


 抱き起こされ必死に名前が呼ばれる。


 その人の見た目は白黒が反転していない。

 銀色の髪、白い肌。

 白い鎧の人。


 ランスロット。

 彼はさっき宝玉が壊されて白い飛竜に戻ったばかり。

 なのに本来の人間の姿で名前を呼んでいる。

 モリガンが悪魔本来の姿で見えた。

 ならば飛竜のランスロットも本来の姿、人間の姿で見えているのだろう。


 それが証拠に、悪魔とやり合うスピアの姿は真紅の飛竜だから。

 彼は先ほど、宝玉の効果を自ら打ち切って人間に戻ったはず。


 そうだ。

 まだ諦めてはいけない。

 力尽きる前に解呪の祓い魔法を発動しなければ。

 自身の解呪は総合運が足らずに失敗するだろう。

 でもたとえ自分が駄目でも、ランスロットやスピアの異種族変化の呪いは解呪できるかもしれない。


「全員へ同時に……解呪の祓い魔法を発動します」

「無理だ。こんな状態で魔法を使ってはミレーユが死んでしまう」


「死の呪いからは逃げられません。でも死ぬ前に……みなさんの解呪を」

「絶対にミレーユを助ける! 死の呪いを解呪するには運勢を上げればいいのか⁉」

「無理です。……家族運が最低で。もう、家族と幸せには……なれませんから」


 効果範囲をこの場の全員になるよう魔力を高めていく。

 いつの日か使おうと胸元に仕舞っていた魔法陣の紙を出した。


「……向けられたよこしまな想いよ。運勢の戸板を滑りて、本来の宿り先へ向かえ!」


 魔法陣の紙から青い光が放たれ、フワフワと頭上へ舞い上がる。

 発動に全魔力を注ぐ。

 ランスロット、スピアまで効果範囲が及ぶように。


「解呪!」


 気力を振り絞って呪文を唱えると、舞い上がった魔法陣の紙が青い炎で燃え上がった。

 そして、あっという間にチリも残さず紙が消える。


 解呪の祓い魔法が無事発動した。


 よかった。

 死の呪いに苦しむこの状況でも、ちゃんと魔法を使えました。

 きっとヴァイアント一族の、お父様の血を継いでいるからですね。

 それに引きこもって占い魔法に明け暮れた時間も、決して無駄ではありませんでした。

 死の直前でも、ちゃんと祓占術が使えたのですから。


 あとは呪いが引き剥がされて術者へ移るまで、死の呪いに耐えるのみ。

 激しい頭痛、それに解呪魔法の発動で意識が朦朧とする。

 起こしていた体から力が抜けていく。


「ミレーユ、しっかりしろ」


 ランスロットが支えてくれた。


 殿下。

 もしかしたら、塔から連れ出してくれるのはあなたかもと思っていました。

 だって初めて出会ったときから、人見知りだったころから、あなたとなら話せたのですもの。


 ……あ、そうか。これってそうなんだ!

 わたくしはランスロット殿下を好きなのですね。

 いまになって、ようやく自分が誰を好きなのか分かりました。


 好きです。

 殿下。


「家族運か⁉ 家族運を上げれば助かるのだな⁉」


 ええ、家族運が最低を脱すればきっと。

 でも両親とは離れ離れだから、もう無理なのです。


「前後を逆にしよう。先にミレーユの家族を幸せにする」


 家族を?

 どうやって?


「まず結婚して私が家族になる!」


 け、結婚⁉

 た、確かに結婚すれば家族になれますが……。


「好きだ」

「……え?」


 思わず聞き返した。

 彼は何を言っているのかと。

 視界は白と黒のままで激しい頭痛に襲われているが、聞こえなかったのではない。

 意味が分からなかった。


「幼いミレーユが我が城に来て、一緒に食事をして話をして。君のことがどんどん気になって。気づいたら好きになっていた。ここで再会する前から、ずっと前から好きだった」

「うそ」


 告白された。


 好きな思いが一緒だなんて思ってもみませんでした。

 ここへ来る前は恥ずかしいくらいに太っていて。

 でもそのころから見ていてくださったなんて。


 それが嬉しくて嬉しくて。

 それでようやく気づいた彼への想い、胸に抱くあれこれを口にしようとしたが、上手く言葉が出ない。


「結婚してくれ! ひと言でいい。いま返事を!」


 彼と想いが一緒なら、好き同士ならもう遠慮する理由はない。


「は……い。慎んで……お受けします」


 息絶える前に彼のプロポーズに答えられた。

 もうこれで思い残すことはない。


「ミレーユ、君を幸せにする。生きている限り。これが私の気持ちだ」


 彼の腕が、突然強くわたしを引き寄せた。

 次の瞬間、唇がぶつかるように重なる。

 彼の中に渦巻く想い――焦りも、祈りも、そして愛情も、すべてが一瞬にして注ぎ込まれるような、熱くて激しいキスだった。

 息ができないほどの衝撃に、心が震える。


「……嬉しいです」


 声がかすれるくらいに胸がいっぱいで、涙がひとすじこぼれ落ちた。

 そばに落ちていた花のティアラを彼が拾って着け直してくれる。


「私の花嫁は美しい。本当に」


 死ぬ前に幸せにしてくださり、ありがとうございます。


「これでもう私とミレーユは夫婦」


 夫婦。

 できれば殿下と、夫婦として過ごしてみたかった。


「ではこれから、すぐに修道院へ母君を迎えに行こう」



 え?



「大切なお義母さんだ。一緒に暮らそう。ハンナやアンディたちだって血は繋がっていなくてもみんな家族だ。みんなで暮らそう。私の故郷で」


 みんなで……家族で暮らせるのですか?


「そしていつか、君との子も欲しい」


 子供?

 殿下との子供?

 よかった。

 それなら……家族の未来は明るいですね。


 目の前の彼がにじんで見える。


「……嬉しいです。旦那様」


 ついに体の力が抜けた。

 妙な浮遊感。

 羽のようにふわりと体が軽くなっていく。



 これが死の感覚。



 そう思ったのだけど……。


 自分の体から黒いもやのような塊が抜け出る。

 途端、人間の姿に見えていたランスロットがいつも通りの白い飛竜に戻った。

 彼が器用に翼で体を支えてくれていたらしい。

 いつも冷静なランスロットが黒いもやに驚いている。


「ミレーユから黒い塊が! これはなんだ⁉」


 解呪の手ごたえを感じた。

 そして白黒の視界が色づいていく。


 でも、この黒いもやは一体。



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