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その三十九

「昨日の晩餐会、ロッテは上手くいったのでしょうか」


 屋上で日課の朝日を見たあと、一階フロアで椅子に座ってハンナを待っていた。

 朝食よりも昨日の晩餐会の結果が気になって仕方がない。


 占い魔法は必中。

 それは分かっているけど、今回は具体的にどうなったかが知りたい。

 恋の占い魔法で『運命』という示唆などめったに出るものではないから。


 朝食の時間になり、いつものようにアンディが塔へ飛び込んでくる。

 続けてハンナと一緒になんとロッテもやって来た。


「ミレーユ様!」


 ロッテが駆け寄って手を握ってくる。

 一瞬問題でも起こったのかと思ったけど、笑顔の彼女を見てホッと胸を撫で下ろした。

 彼女は興奮ぎみに、給仕した隣国の外交官僚にプロポーズされたことを伝えてくれる。


「ずっと憧れていたお義兄様と『運命』の再会を果たしたんです!」

「お、お義兄様? ちょ、ちょっと待ってください。順を追って話していただけますか」

「私、実は十年前に隣国から来た元貴族で、本当の名はシャルロッテと申します」


 そこからは恋バナに花が咲いた。

 占い魔法で示された『運命』という言葉。

 レアな事例なので実際どうなったか気になっていたけど、なるほどそう来たかと感心してしまった。

 ハンナはすでに聞かされていたようだけど、シャルロッテが嬉しそうに話すのを終始笑顔で見ていた。

 アンディは大使夫人の指導に腹を立てたり「そうやって助ければいいんだ」と感心していた。


「まあ。『運命』のお相手が初恋の人だなんて! それでこの後どうされるのですか?」

「はい。すぐに隣国へ戻って彼と婚約するんです」


 王城の下働きはもう退職を申し出たとのこと。

 行動が早い。

 シャルロッテの浮かれようは天にも昇るほどで、まさに我が世の春という感じ。


「でも故郷へ帰る前にミレーユ様へ彼を紹介したいのです」

「し、紹介ですか⁉」


「だってミレーユ様に占っていただいて、またお義兄様と出逢えたんですもの。すべてミレーユ様のお陰ですよ。それで彼も感謝を伝えたいと言うんです」

「え、えーと。そうですか。うーん。そうですね、分かりました」


 初対面の人と会うのは凄く苦手。

 まして相手は男性なので一瞬「えっ!」となった。

 でも、感謝を伝えたいと言われたら無下に断りにくい。

 それで会うのを承知したけど。


「やっぱりお姉ちゃんは凄いね!」


 喜んでくれるアンディを見ていてハッとした。

 彼はまだ六才なのに、つい先日プロポーズしてきたのだ。

 原因はきっとカンストした恋愛運の影響だと思う。

 それで初対面の男性には会わないと決めたばかり。


 シャルロッテのお義兄様に限って心配いらないとは思うけど、でも。


 考えすぎかもしれないが、もしそのお義兄様にカンストした恋愛運が影響したら困る。

 せっかく上手くいっているのに大変なことになりかねない。


「……あの、や、やっぱり男性との会話は慣れないので、え、遠慮させてください」

「そ、そうですか。男性との会話って緊張しますものね。仕方ないです」


 シャルロッテが凄く残念そうにする。


「でしたら、お礼は贈り物にさせていただきますね。でもそれだけじゃなくて、私にも何かさせていただけますか」


 ハンナが仕事へ向かったあと、シャルロッテも外へ行き、どこかからホウキやチリトリ、雑巾を持って来る。

 それで一階フロアの掃除を始めた。

 その動きはてきぱきと早くて迷いがなくて、とても洗練されている。

 聞いたら侍女の仕事は掃除全般だったとのこと。

 床の隅にあった小石や砂が綺麗に取り除かれていく。

 それがあまりに手際よくてあっけにとられた。


「ご相談に来たとき、正直ちょっと周りが気になったんです。職業病というか」

「それですぐに座らなかったのですね」

「なので、徹底的に掃除をさせてください!」


 端の方から床がどんどん綺麗になっていく。

 もうそれが嬉しくて嬉しくて。

 途中からアンディと掃除に加わって三人で仲良く頑張った。

 お陰で砂とほこりで汚れた塔の床が見違えて綺麗になっていく。


「お姉ちゃん、綺麗なタイルがあるよ」

「この並び、何かの紋様かも知れません」


 なんと床に紋様が描かれているのが分かった。

 ところどころに色の違うタイルがあるとは思っていたけど、紋様として敷かれていたのだ。

 その色違いのタイルはフロアの中央へ収束するように並んでいる。

 中央にはテーブルを置いているが、以前は倒れて壊れた石灯籠があった。

 スピアが残骸を外へ出してくれて、もう残っていないが。


 おそらくこれは封印の紋様。

 そして中央の残骸は封印装置だったのだろう。

 昔、この塔に何かを封印していたのかもしれない。

 シャルロッテが北側の壁で動きを止める。


「わ、凄い色のキノコが生えてます! 取り去ってしまいますね」

「あ! ダ、ダメです」


 急いで手で覆って体で毒ピンクを守る。

 大事に育てていると伝えたらびっくりされた。


「でもちょっと不気味ですよ」

「れ、恋愛運を高めるいい香りがするのです。どうかこのままで」


 必死に毒ピンクを守る。

 事態が好転してきたのはこれのお陰に間違いないから。


「残すにしても、ミレーユ様のお部屋に合うよう可愛くしたいですね」

「か、可愛くですか?」


 毒々しい見た目なので、可愛らしくなるとは思えない。


「うーん、そうですね。アンディくん、ちょっと手伝ってくれますか」

「うん! 任せて」


 シャルロッテがアンディを連れて塔の外へ行き、赤茶色のレンガを運び入れる。


「これでキノコの周りを囲んで小さな花壇してはどうでしょう」

「わあ素敵! 室内花壇ですね」


 毒ピンクを育てている場所をレンガで囲んで室内花壇のようにしてくれた。

 あの毒ピンクが妖精の国に生えているキノコみたいで可愛らしい。


「反対側の水たまりもなんとかしたいですね」



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