その三十五
亡命の理由が気になったが、その説明はないままに恋愛相談に移っていく。
いざ恋愛の話になると彼女が前のめりになった。
「最近、城に出入りを始めた納品業者の男性がいるのです。その彼にプロポーズされてしまいまして」
説明しながらもじもじして頬が赤くなる。
彼女の説明を聞いてミレーユはどきりとした。
プロポーズなら昨日、自分がスピアにされたばかりだからだ。
でもみんなはそのことを知らない。
必死に自分の動揺を隠してロッテを祝福する。
「そ、それはおめでとうございます。よかったですね」
「その男性から言われました。想いが同じなら侍女を辞めて経営する商会を手伝って欲しいと。ただ彼がかなり年上なのが気になるんです」
「そうなのですね」
占う必要はない気がする。
侍女を辞めて家業を手伝うのが嫌かどうか、相手が中年でもいいかどうか、彼女の気持ちの問題のようにも思えるが。
「でもですね、本当は厨房で働く同僚の青年からもいろいろ相談を受けていまして。彼が気になることばかり言うんです。だから私、どうしたらいいかと」
「プロポーズはされたけど、な、仲の良い男性の同僚もいるのですね」
話が見えてきた。
プロポーズしてきた商会のオーナーと一緒になるか、仲が良い同僚の青年との関係を進展させるか、どちらかで迷っていて、占って欲しいのだ。
人は霞を食べて生きていけない。
人生を左右する結婚ともなれば、経済的な部分は切り離せなくなる。
コックの青年を意識しているけど、まだ好きの手前くらいかしら?
相手の思わせぶりな態度が気になる程度。
これ、わたくしならどうするでしょう。
……判断が難しいです。
無意識で自分に当てはめようとして、ランスロットとスピアの顔が浮かんだ。
い、いえいえいえいえ、状況が全然違います。
それになんで彼らの顔が!
色恋には縁遠かったはずなのに、いつのまにか恋愛が身近な問題になっている。
やだ。
こんなのまるで自分じゃないみたい。
ミレーユは首を左右に振って浮かんだ彼らの顔をかき消すと、目の前の紙に恋愛占いの魔法陣を描き始めた。
「れ、恋愛の占い魔法ですけど、お、大きく二種類あります」
占い魔法の知識を披露できると思うと手に力が入る。
「ひとつは相手の気持ちを調べる魔法で恋占いといえばこれを指すことが多いです。もうひとつは未来の恋愛を探す占い魔法です。政略やお見合いだと相性がよく分からず結婚してから相手を愛せるか不安になりますね。そんなときはこちらの占い魔法で恋愛運の盛衰と先行きを知ることができます」
これから人前で占い魔法を使う。
そう思ったらどんどんテンションがあがる。
「占うならお相手の気持ちを知りたいですよね。お相手がいなければ恋愛運を占いますけどロッテさんの場合はプロポーズされたのですからそれが真実の愛かが気になりますものね。ではまず納品業者の男性について占いますか? それともコックの青年の気持ちを視てみましょうか?」
「な、なんか急に雰囲気が……」
「え、あ、ご、ごめんなさい。わたくしったらまた早口に。もう一度説明しますね」
やっぱり好きな占い魔法の話をするのは楽し過ぎる。
「うーん、ではコックの青年の気持ちを……。あ、やっぱり先に納品業者の男性からお願いします」
書き上げた魔法陣の真ん中にペンを置く。
「ではペンに手をかざしてから、その納品業者の男性を想ってください」
「こうでしょうか?」
ペンに手をかざしたロッテの手へミレーユが手を重ねて、占い魔法を発動させた。
魔法陣が青く輝くとペンが時計の針のようにくるくる廻り始める。
脇で見ていたアンディが歓声をあげた。
「わあ、ペンが回ったよ」
「アン、静かにね」
ハンナが口に指を当てて彼をたしなめる。
「止まったペン先の示す方向が納品業者の男性の気持ちです」
「あ、回転が止まったり動いたりしてます!」
ふたりでかざした手をそっと除ける。
「示されているのは好意。興味。……火遊び」
「火遊びってなんですか?」
「少し待ってくださいね。ほかに刺激、下心。あの恐らくですけど……この方は結婚されていますね」
「え! でも私、プロポーズされたんですよ⁉」
「どうも、ひとときの関係が狙いみたいです」
「ま、まさか体目当て」
「たぶんそうです。結婚すれば商会の若奥様になれると信じ込ませて」
「うそ!」
いままでテンションの高かったロッテの口数が少なくなる。
想定外の男性から告白されてモテ困りのはずだった。
困っているのだと照れながら相談したのに、真相は不倫男だと言われたのだ。
口数も減る。
ロッテはしばらく下を見ていたが、急に顔をあげる。
「もういいです。一緒に働くコックの彼がいますから。彼は私と話すとき少し照れたりします。だから良い結果が出るはずです」
切り替えが早くて助かる。
不誠実な男性のことなど忘れるに限るから。
そして次に占うのは好感触のコックの青年。
結果に期待するところだが、なんだか嫌な予感がする。
同じように魔法陣の上にペンを置いて二人で手をかざす。
「あ」
くるくると回ったペンは予感を的中させてしまった。
困りました。
これではとても正直に言えません。
ウソをつくのが無難かも。
けど、それはしたくありません。
わたくしは占い魔法にプライドがありますもの。
物心ついたときからこの道を進み、極めてきた自負がある。
それに占い魔法は必中だとハンナが紹介してくれた。
なのに嘘を伝えるなんて絶対にしたくない。
「あの、なんて出たんですか?」
ロッテから期待に満ちた表情で聞かれた。
なるべくショッキングにならないよう淡々とつぶやく。
「同僚、信頼、相談相手」
「好きはないんですか? ……そうですか。でも信頼されているなら。だけど相談相手って。私、そういうポジションなんでしょうか」
「ほかに、妹、相愛です」
「妹、相愛?」
この占い魔法で相手と自分以外が登場する意味。
それは相手の想い人。
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