その二十九
夜になり、彼らふたりが屋上へやって来た。
昨日はランスロットと一緒に塔の中で眠った。
彼は白い飛竜姿だったけど寄り添って寝たのだ。
それを意識するとまともに顔を見られない。
彼も同じ気持ちのようで飛竜姿でもよそよそしいのが分かる。
さすがのスピアもその変な空気を察したらしい。
「そういえば昨日ふたりで過ごしてたよな」
朝は聞かれなかったのに急に突っ込まれた。
「過ごしたが飛竜のままでだぞ」
「そ、そうです。で、殿下は盗賊を撃退するときから、ずっと飛竜の姿でしたし」
「いやいや、俺は普通にそれが羨ましいんだけど」
スピアの正体は飛竜の里長、真紅の飛竜だ。
当然視点も飛竜視点な訳で。
ランスロットがめずらしく釈明する。
「姿が飛竜でも心は人間なんだ。安心しろ、何もない。な、ミレーユ」
彼がこっそりウインクする。
慌ててうんうんと頷いた。
確かに人間として見れば気になるようなことはない。
猫を抱いて寝るようにただ飛竜と寝ただけ。
でも尻尾で体を包まれたことも、長い首へ頬寄せながら指先で鱗を撫でたことも、飛竜視点のスピアは気にするに決まっている。
「まったく。俺は捕まえた盗賊の説明が大変だったんだぞ」
「だからよそ者を入れなくするのだろう。さあスピア、取り付けを頼む」
「分かったよ。行こうぜ、ミレーユ」
スピアが長い棒とロープを屋上から一階へ運び入れてくれる。
「あ、あの。き、木の棒と紐なんてどうするんです?」
「鍵の代わりだよ。ドアの鍵だけってどこで売ってんのか分かんないからさ」
「か、鍵は鍛冶屋さんかしら。扉の形や塔との取り合いを伝えると、いいのかなと」
「俺がそんなややこしいこと説明できると思う? これをこうドアノブに縛るんだ」
いつもの調子で軽口を返しながら、ロープで木の棒をドアノブへ括りつけて固定してくれる。
「よしと。これで棒が引っ掛かって外から扉が開かないだろ?」
「た、助かります」
「なあ、ミレーユ」
「なんです?」
振り返ったスピアの表情が変わる。
「呪いが解けて飛竜に戻ったらさ、俺とも一緒に寝ような」
「え⁉」
「約束してくれよ」
彼の視線は真剣で真っすぐで、とても誤魔化すなんて無理で。
だからってランスロットとは一緒に寝たのに、彼だけ断ることもできず。
「え、えーと……はい」
勢いに圧されて頷いた。
「よし!」
スピアが両手のこぶしを握る。
でも、寝るってどういうこと?
まさか、ただ寝るだけではないの?
「俺もミレーユのそばで眠りたかったんだよね」
「そ、そうなのね」
上機嫌の彼の背中を見ながら、深読みしすぎた自分が恥ずかしくなった。
屋上に全員揃ったところで夕食になる。
今日の差し入れはサンドイッチではなく、なんと串に刺さった肉。
それもスコーンくらいの分厚い焼いた肉が大きな串に三つも刺さっている。
スピアが串の端を持たせてくれた。
「……か、塊のお肉。大きいですね」
「大きい? むしろ妥協して小さくしたんだ。でも食べやすいだろ」
数キロある巨大な塊肉を選ぼうとしてランスロットに止められたらしい。
それでスピアなりに考えて串焼きにしたとのこと。
「串に刺して焼いたのですね。このあとはどう調理するのです?」
「いやいや、これで完成だって。串焼きっていうんだ」
スピアが端の肉を咥えて串を横に引く。
大きな肉片が串から抜けて彼の口の中へ入った。
「美味い! やっぱ肉に限る」
「え、これで完成⁉ このまま咥えて食べるのですか」
見るからに美味しそうだが、こんな食べ方はさすがにはしたない気がする。
呆気に取られていると、ハンナとアンディが笑顔で串焼きに齧り付いた。
「美味しいですね。よく脂がのってて」
「わあ、ごちそうだ! 串焼き大好き」
ふたりとも食べ方を全然気にしていない。
王子の前で串に刺さった肉に噛りつくなんてと思い、ランスロットの様子をそっと横目で見る。
すると彼は飛竜の瞳で視線をこちらへ送ってから、横にした大串をバクリと根元まで咥えた。
そして器用に爪で串を引き抜く。
一度にすべての肉が串から消えた。
「ミレーユも食べてみるといい。美味しいぞ」
みんなが笑顔で頬張っている。
持っている串焼きの肉片から脂の雫が落ちた。
薄くソースが塗ってあるのか表面が少しだけ焦げていて、香ばしい匂いまでする。
こんなの、絶対美味しいに決まっているじゃないですか!
もう我慢できない。
作法や食べ方なんてしらない。
端の肉を咥えて横に引き抜いた。
「こ、こんな美味しい食べ物があるなんて!」
「だろ? 肉は美味いよな」
得意そうなスピアに思いっきり頷いてしまった。




