その二十七
「か、体を触るのは、ど、どういう意味なのだ⁉」
「体を触る? え? あっ」
急いで手を引っ込めて飛び起きた。
この白い飛竜はランスロット。
それは分かっていた。
分かっていたけど姿かたちが飛竜なので、興味本位でつい手が動いてしまった。
でもランスロットからすれば普通に女性から素肌を触れられたのだ。
しかも喉や胸元に指を這わせて。
色を帯びた彼の声。
その声を自分が出させたと思うと猛烈に体が火照る。
「ご、ごごごご、ごめんなさい。い、意味はないです。えとそのつい気になって」
「つい? 意味はないのか? 私はてっきり……。でもこの姿だしな、他意などないか。だがさっきのミレーユはかなり魅惑的だった」
「み、魅惑的⁉ ち、違いますって! どうか忘れてください!」
必死に取り繕うと彼は長い首を横に振る。
「いや、忘れたくないな」
「ええーっ」
「ははは、冗談だよ」
「もう、ランスロット様ったら。ふふ」
ふたりで笑いあう。
なんだかさらに親しい間柄になれた気がした。
彼が尻尾で体を包んで再び首元へ寄り掛からせてくれる。
殿下と一緒に居るとなぜか心が落ち着きます。
どこか魂のありようが近しいように感じて。
こうやって優しく抱擁されていると特に。
「なあ、ミレーユ」
「は、はい」
「二年前に会ったこと、覚えているか?」
「も、もちろんです」
忘れる訳がない。
彼に得意の占い魔法を披露できたのだから。
「また会えてよかった」
「わたくしもです!」
嬉しい!
殿下も再会をよかったと思ってくださるなんて!
数年に一度の隣国訪問。
あれは会う人が多くて嫌だった。
楽しみはランスロットと会えることだけ。
唯一自分から話したいと思える相手だった。
「二年前に私を占ってくれたときの話だが」
「殿下のお部屋でカード占いをしましたね」
確か、次期国王としての重責に悩んでいた。
「私を支えてくれるのは結婚相手だと教えてくれた」
「ええ。殿下の最愛の人が支えると出ていました」
「その相手についてだが、政略結婚ではなく恋愛結婚だよな?」
「え?」
「だから、その、す、好きな相手との結婚でいいのだな」
「えと、政略でも後から好きになる場合もありますし」
「そうか。……そうだな」
白い飛竜なので彼の表情は分からない。
でもなぜか寂しそう見える。
「そういうミレーユはどうなのだ」
「わ、わたくしは恋愛結婚でないと困ります」
「困ります?」
「あ、困りますじゃなくて、す、好きになった人と結婚すると決めています」
「そうか! なら私も恋愛結婚にしよう」
「え? 殿下も? でも次期国王ですから政略じゃなきゃ――」
「いや、恋愛結婚しかありえない」
変なところでこだわる。
いつも見せない態度で少し子供っぽい。
「ふふふ。では殿下もわたくしと一緒ですね。嬉しいです」
彼の反応が面白くてつい微笑む。
すると、白い飛竜は目を見開いて固まってから、顔をそらした。
そして一言。
「ああ。ミレーユと一緒だ」
なんだか特に感情が込められていたように聞こえた。
やっぱり彼とは打ち解けて話せるから落ち着く。
ふあ。
慌てて手で隠す。
油断したらあくびが出てしまった。
彼の首に頬を寄せていると、ランスロットそのものが感じられる。
しなやかな彼の肉体がまるで全身を包んでくれるみたいな。
あたたかな体温と流れる血や息遣いの音が白い鱗を通して伝わってきて、ほっとできる安心感を与えてくれる。
眠くなってきた。
今日は本当にいろいろあって、安心したら疲れが出てきた。
あ、そういえばお礼を言っていない。
「殿下。先ほどは助けてくださり、ありがとうございました」
「ああ」
「でも、ちょっと怖い顔でした」
「助けようと夢中だった」
凄くまぶたが重い。
「もう眠いです」
「うむ」
「うふふ。戦うお姿がとっても素敵でした」
「そ、そうか」
「なんだか殿下のぬくもりが安心できて、もうわたくし眠くて……」
「ゆっくりお休み。ミレーユ」
結局スピアは明け方まで帰ってこなかった。
事情を話して彼の宝玉でランスロットが人間に変身。
ようやく塔から出られた。
彼らが帰ってから、ハンナが用意してくれた布を石の床へ敷いてもう一度眠った。
ただの薄い布だけど、綺麗になった身なりを汚さないですむだけでも幸せ。
でも、ランスロットに寄り添ったのと違ってやはり寝づらい。
飛竜姿だったけど、ランスロット殿下に寄り添って寝てしまうなんて。
さっきまでの幸せを噛み締めたが、みんなが帰ったあとの塔はやはり静か。
孤独だった一年間へ引き戻されるように感じた。
「この幸せが夢だったら嫌です」
ハンナからもらった服や桶を見ては、夢ではないと安心するのを繰り返した。
まだ塔は出られないけど、幸せなひととき。
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