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その二十六

 塔の中が白い光で満たされる。


「な、何だ⁉ 眩しい! ちくしょう!」


 こ、これって宝玉の光⁉

 え、殿下は変身を解除したの?

 で、でもここ塔の中なのですけど⁉

 それだと元の飛竜に戻って……。


 白い閃光が収まって徐々に目を開けると、想像した通り白い飛竜の後ろ姿があった。


 凄く近い。

 手を伸ばせば届くところに、五メートルはある白い飛竜が現れたのだ。

 飛竜の体が塔のフロア半分以上を占めている。


「げぇ! ド、ド、ド、ドラゴン!」


 勘違いしてパニックに陥る大男。

 それを気にせずランスロットが白く長い首を振る。


「うげっ」


 飛竜の顔が直撃して大男が吹っ飛んだ。

 奴はボールのように空中を飛んで塔の内壁へ激突、そのまま石の床へ落下した。

 ピクピク動いてはいるが起き上がるのは無理そうだ。


「むう、手加減が難しい。これではスピアのことを言えないか」

「た、助かりました」


 もちろん助かったのは嬉しい。

 でも想定外すぎてどぎもを抜かれ、安堵よりも戸惑いのほうが大きい。


「ミレーユ。悪いがその大剣を上へ隠してくれ」

「武器がなければ諦めてくれますものね」


 重い大剣を屋上へ運んで戻ってくると、床に寝ていた大男の姿が見当たらない。


「あいつは服を脱がせて塔の外へ放り出した」


 それは酷い。

 武器もなく裸では苦労するだろう。

 まあ、命を狙ってくる相手に酷いもないのだけど。


「えと……」


 目の前の白い飛竜は一階フロア半分を満たす大きさ。

 とても扉からは出られない。


「一日経たねば変身して出られない。悪いが今夜はここに居させて欲しい」

「で、ではこのままスピア様を待ちましょう」


「奴が戻るのは朝になるかもしれない」

「で、で、では、朝までふたりですね」


 ひょんなことから一緒に一晩を過ごすことになってしまった。

 この塔に来て夜に誰かが居てくれたことなんてない。


 うふふ。

 初めて泊ってくださるのが殿下だなんて。


 嬉しくて心の中の自分がぴょんぴょん跳ねる。


「あ、あ、あの殿下」

「うん?」


「もう眠いですか?」

「全然。折角の機会に寝たらもったいない」

「よかったです。あ、あの、どうして幽閉から助けだそうとしてくださるのです?」


 その質問に彼は一瞬黙ったあと、意を決したかのように口を開く。


「君を死なせたくないから」


 この塔に居れば死ぬ。

 きっと、それを伝えるのをためらったのだろう。


「だ、大丈夫です。その未来はわたくしも視ました。そしていまは、こ、この塔から出て助かる未来が視えています」

「そうか!」


 ランスロットの行動に影響が出ないよう『結婚相手が連れ出してくれる』というのは伏せた。

 もしかして……本当にもしかしてだけど、彼が未来の結婚相手の可能性もあるから。

 変に意識されてその未来がなくなったら嫌だなと思った訳で。


「ですけど、未来視は可能性が視えているだけです。そ、総合運を上げて祓い魔法で解呪しないと実現しません」


 ランスロットが飛竜の大きな瞳を閉じる。


「実は以前、私を飛竜にした本人なら呪いを解けるのではと考えた」

「た、確かに! 呪いをかけた本人なら、と、解けるかもですね」


「それで先日、空から女王の城を偵察したんだ。だが、夜間にもかかわらず警備は厳重だった」

「そ、それって敗戦しても臣下に忠誠心があると?」


「スピアが街で聞き込みをしたら、敗戦後に女王の態度が変わったらしい。口調はきついが優しくなったと」

「あ、悪魔の憑依が解けたのかしら。あ、でも、この前の意地悪な態度は悪魔としか」


「忠誠のない軍では戦に勝てないと悟ったのかもしれない」

「つ、次の戦争に備えるなんて……頭の良い悪魔です」


「人心につけ込む悪魔はタチが悪い。武力で追い詰めて呪いを解呪させようにも、奴を護衛するのは善良な人間だ」

「て、手出しができませんね」


 態度が名君であの美貌。

 忠誠心が高まるのもうなずける。

 表立って打倒できないなら闇討ちしかないが、夜間警備ですら手厚いならそれも難しそうだ。


「すまない。武力では役立てそうにない。ミレーユの総合運を上げることに協力したい」

「ま、任せてください! 殿下やスピア様の呪いもわたくしが解呪してみせますから」


 意気込んで見せると、ランスロットが「頼む」と言って床に伏せて丸くなった。


「まずはミレーユの寝床だな。ベッドはおいおい何とかするが、今日は私に寄り掛かって寝て欲しい」

「え⁉ で、殿下に寄り掛かるだなんて」


「言っただろう。君の総合運を上げたいと。まずは健康からだ」

「で、でも……」


 いくらなんでも、隣国の次期国王に寄り掛かって寝るなど恐れ多くてできない。


「さっき襲われたばかりだ。今夜はしっかり守らせて欲しい」


 そう言って尻尾で優しく包んでくれると、そのままひょいと持ち上げて長い首へ体をもたれさせてくれた。


 扉は飛竜の体で塞がれている。

 侵入者の心配なんてないのに抱き付いて寝るだなんて。

 でも、ここまでされて拒絶しては逆に不敬な訳で。

 いっそ甘えてしまえとランスロットの首へ頬を寄せる。


 頬に触れる彼の鱗は、すべすべして乾いていて不思議な感じがした。

 鱗を通して体温が伝わってくる。

 瞳も黒目だし、飛竜は見た目と違って人間に近い。


「なんだか不思議な感じ」


 首回りの白い鱗をそっと撫でる。

 首の背中側は鱗が大きくて立派だけど、喉の鱗は小さくて細かい。


 ほかはどうなっているのかしら。


 彼の首に頬を寄せたままで、胸に向かって指先を這わせる。

 すべすべと滑らかで触り心地がいい。


「ミ、ミ、ミレーユっ」

「え、なんです?」


 白い飛竜の胸元、人間でいえば鎖骨の下辺りまで指先を動かしたところで、ランスロットが声を上ずらせた。



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