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その二十五

 これって恋愛運の影響?

 だとするとこの人も、未来視に登場した塔から連れ出してくれる男性の可能性があるの?


 たくましくはあるけど、肌着のような襟のないシャツを着て口調は粗野。

 思っていた男性像と違って悲しくなった。


「気弱な女は好きだ」


 ニヤつきながら手首を掴んでくる。

 そして空いた手で髪を触りだした。


「珍しい銀の髪だ。しかも腰まである。こりゃ価値があるぜ」

「か、髪を触らないでください」


 この人はありえない。

 占い魔法で視た男性はもっと素敵だった。

 笑顔になれるほど好きな相手のはず。

 こんな人が結婚相手だなんて絶対に違う。


 手を振りほどこうとすると、手首を下へ引っ張られて床に押さえつけられた。


「い、痛い」

「こんな細腕で抵抗しても無駄だ」


 そのまま服に手を掛けてくる。


「た、助けて、誰か」


 助けを呼んだけど、来てくれる人は思い当たらない。

 スピアは盗賊三人を衛兵の詰所へ連れて行っている。

 説明が上手くないらしいので、事情を伝えて戻るのに時間がかかるだろう。

 ランスロットは今日の分の変身が終わって屋上で飛竜の姿。

 塔の中へは入れない。


 ああ!

 好きでもない男性に乱暴されてしまう。


 恐ろしくて声が出せず、ただただ全力で体をこわばらせて床の上で抵抗していたが。


「諦めろ」


 両腕を掴まれて広げられ、床に押さえ付けられた。


 もうだめ。

 触られる。


 抵抗が叶わず押さえ込まれた。

 絶望から力が抜けていく。

 近づく男の顔が嫌で顔を背けると、涙が頬を伝うのを感じた。


「……助けて、ランスロット様」


 諦めかけたそのとき、塔の外で大きな音と地響きがした。

 そのすぐ後に扉が開く。


「貴様ぁああっ!」


 外から男性が飛び込んで来た。


「ラ、ランスロット様!」


 視線の先には思い浮かべた彼がいた。

 次の瞬間、ランスロットは脱兎の速さで距離を詰め、振りかぶった拳を突き出す。

 鈍い音がして覆い被さっていた大男が吹っ飛んだ。


「ミレーユ、大丈夫か⁉」

「で、殿下!」


 なんと、助けを期待できないと諦めていたランスロットが来てくれたのだ。


「怪我はないか」

「だ、大丈夫です」


 彼が体を起してくれる。


「遅れてすまなかった」

「で、殿下が助けてくださるなんて」


 背中を支えてくれる手は優しくて暖かくて。

 彼の気遣いと思いやりを感じた。

 乱暴な扱いのさっきの男とは全く違う。


「あ、でもどうやって人間の姿に?」

「零時を回ったからな。宝玉の効果が回復してまた変身できたんだ」


 宝玉の変身は一日一回と聞いていたけど、どうやら日付でリセットされるタイプの魔道具らしい。


「くそ野郎。ぶっ殺してやる!」


 殴り飛ばされたスキンヘッドの男が立ち上がった。

 大声を出して身構える男に対して、ランスロットが正面から向き合う。


「早くここから出て行け」


 彼が静かに退出を促す。

 これまで聞いたことがないほどに声が静かで低い。


「殴り合いでてめえなんぞに負けやしねえんだよ!」


 大男がこぶしを振り上げて突っ込んだ。


 ランスロットも決して小さくはない。

 だが相手はそれよりもさらに頭ひとつ分大きい。


 その大きな体から拳が繰り出される。

 思わず目をつむったが、こわごわ目を開けるとひるんでいるのは大男の方だった。

 腹を両手で押さえて屈んでいる。


「う、うぐ」

「怪我をする前に帰れ」

「うるせえ! お、俺様はタフなんだ。これくらいなんでもねえ!」


 片手で腹を押さえつつ反撃とばかりに拳を振った。

 それをランスロットが体を反らして軽々躱しながらさらに身を捻る。

 その体の捻りから彼の長い片脚が大きく回転。

 なんと目線より高い大男の顔を彼のブーツがとらえた。


 ゆっくり舞うように見えたのに、頬に当たる鈍い音がしてから奴の巨体がさっきと反対側へ吹っ飛んだ。


「もうやめておけ」


 凄すぎる。

 スリムに見える体のどこにこんな力が隠されているのか。


「おお痛てえ。くそが! 殴り返さないと気がすまねえ!」


 大男が頬を押さえながら、床に置いた大剣を手にする。


「殺してから殴り返すか」


 表情を変えたランスロットが振り返る。


「ミレーユ、下がっていてくれ」

「でも殿下、相手はあんな大きな武器を持ってますよ?」

「少しマズいな。長くてもいいから竜騎士の槍を持ってくればよかったか」


 彼も槍を置いてきたらしい。

 あの槍は五メートルある。

 兵士の槍の二倍は長いので屋内では振り回せないだろう。

 だが、素手であんな大きな剣の相手は無理というもの。


 大剣を構えた大男がじりじり距離を詰めてくる。

 見るからに怒っているのにもう突っ込んでこない。


「冷静になったようだ。隙がない」

「馬鹿め。俺は一年前の戦争で隣国の野郎ども相手に生き残ってんだ。くぐった修羅場が違うんだよ」


 侵略戦争を仕かけて隣国に惨敗した、あの戦争の生き残りらしい。


「生き残りか。ならば騎士として正々堂々戦いたかったが」

「何が騎士としてだ。てめえに武器がなくても容赦しねえ」


「仕方ない。ミレーユを守ることが優先だ」

「死ね!」


 大男が大剣を上段に振りかぶって踏み出した。

 ランスロットが少しうつむく。


「許せ」


 つぶやきとともに彼から白い閃光が発せられた。



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