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その二十四

 夜も遅くなり、帰るためにスピアが騎乗しようとしたところで動きを止めた。

 くんくん鼻を鳴らしている。


「うん? 誰か来たぞ。男の匂いだ」

「複数いる」


 ランスロットにも分かったようで、一階への下り口に視線を向けた。


「え、本当ですか⁉ わ、わたくしには全然分かりません」


 元飛竜と今飛竜の感覚は人間よりずっと鋭いようだ。

 スピアが気楽な感じで片手を上げる。


「ランスは人に変身できないだろ。俺が見てくるよ」

「あまりやり過ぎるなよ」


 ランスロットが釘をさす。

 以前にもスピアが「やり過ぎ」たような口ぶりだ。

 ミレーユが階下を覗くと薄着の男が三人、塔へ入り込んでいた。


「これが物見の塔か」

「休憩するのにちょうどいい」

「んじゃ、お頭が追い付くまで待つか」


 ひげ面だったり布を頭に巻いたりしていて普通ではない恰好だ。

 スピアが階段を下りながら男たちに声をかける。


「おいおい、勝手に入るな」

「あ? 誰だお前?」


「おう、俺はスピアって名だ。とにかくここは人の家だから出て行ってくれ」

「人の家? 家具も何もねえのに家じゃねえだろ」


「いや本当に人が住んでんだよ」

「ならば家主を殺せばいい話だ」


 最後の男の言葉にスピアが反応する。


「いまなんつった?」 


 スピアは脅しにひるむどころか、足を速めてフロア中央にいる彼らへ近づく。


「家主は俺の大事なひとだ。その彼女に何をするって?」

「殺せば空き家だろ。まずはてめえをぶち殺してやる」


 三人が短剣を抜く。

 スピアは塔の中で使えないからと竜騎士の長槍を置いていった。

 つまり素手。

 いくら彼の体格がよくて正体が飛竜でも、短剣を持った敵が三人では殺されてしまう。


「ランスロット様! スピア様を助けないと!」

「ん? 奴なら平気だろう。むしろ相手の方が心配だ」


 事態はひっ迫しているのに、あまりにのんびりした返答。

 詳しく状況を伝えねばと彼を見ると、床に伏せて目をつむっていた。


 ね、寝てる⁉ ど、どうしましょう。

 わたくしが駆け付けても役に立てませんし。

 おろおろしながら階下へ視線を戻すと、なんとスピアの周りの敵が全員倒れていた。


「おーい、ミレーユ。こいつらどうしようか」

「い、い、いま行きます!」


 一階へ下りるとスピアが大あくびをしている。


「あの、大丈夫でした?」

「ああ、ちゃんと手加減した。殺してないぜ」


 ランスロットが言うように敵の心配をすべきだったみたい。


「こいつら、ずいぶんでかい袋を持ってるな」


 スピアが袋を開けると、貴金属などのアクセサリーがたくさん出てきた。

 この彼らの風貌から見て、とても貴金属を扱う商人たちに思えない。

 スピアが拳を構えて尋問すると、怯え切ったひとりがすぐに盗んだと自白した。


「ランスは飛竜だし、俺が衛兵の詰所まで連れて行くしかないか」

「夜中にすみません、スピア様」


 スピアが三人を引きずって外へ出たので、戸口で見送る。


「夜なので、その、き、気をつけてくださいね」

「ミレーユはやっぱり優しいな。まあ俺は平気だから。それよりミレーユの方が心配だよ。何かあるとまずいから、ランスと屋上にいてくれ」

「は、はい」


 スピアから言われた通りに屋上へ戻ると、ランスロットが目を開けた。


「詰所か。だが奴は説明が上手くない。時間がかかるだろうな」

「お、屋上にいたことを伏せて話すの、難しいですもんね」

「明日には扉に鍵をつけよう」


 スピアが帰るまでふたりで待つことにしたが……。

 ふと水筒の水を飲んでから時間が経っているのに気づく。


「どこへ行くんだ?」

「ちょっとお花を摘みに」


 スピアがいつ帰るか分からないのに、我慢していられない。

 すぐ屋上へ戻れば平気と思って、急いで一階へ下りて用をすませたのだけど。

 お手洗いから出たところで、扉が開いて外から男性が入って来た。

 それも大柄で大きな剣を背負ったスキンヘッドの男が。


「おい、女。ここへ手下が来なかったか?」

「あ、えと、どんな人ですか?」

「ひげ面でムサイ男の三人組だ」


 どうやらさっきの盗賊の仲間らしい。

 手下を探しているならリーダーなのかも。

 なら、衛兵の詰所へ連れていったなんて言わないほうがいい。


「え、ええと、誰も来てませんよ」

「おかしい。物見の塔はここだろ?」


「そ、そうです」

「奴らが先に着いてるはずなんだが」


 塔の中を見回して首をかしげている。


「それにしても何もない塔だな。……お前、まさかここに住んでんのか?」

「あ、はい」


 大男がスキンヘッドをぺたぺた触りながらミレーユをじろじろ見てくる。


「まあいい。ちょうど綺麗な女もいるし、飽きずに待てそうだ」

「え? き、綺麗な女?」


 背中の大剣をごとりと床に置き、右腕をぐるぐる回して首を鳴らす。


「ああ、いい女だ」


 もしや、好意を抱かれている⁉

 こんな男性にまで⁉



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