その二十三
疑問が解けた。なぜ人であるランスロットが飛竜になり、飛竜だったスピアが人になったのか。
騎乗した状態で異種族になる呪いが同時にかかったのだ。
それで触れ合っていた異種族の影響を互いに受けて、人が飛竜になり、飛竜が人になったのだろう。
呪いで困っているふたりの気持ちがヒシヒシと伝わってきた。
ミレーユだって塔から出たら死ぬ呪いのせいで、最初は餓死する未来だったのだ。
しかも呪いにかかったのはふたりと同じ一年前。
呪いで同じように一年間苦しみ続けたふたりに共感して、急に仲間意識が芽生えた。
たぶんそのせいだと思う。
人見知りのはずなのに、困っている人の力になりたいという強い気持ちが湧きおこる。
「じ、実はわたくしも……」
引きこもりで人見知りな性格なのに、なぜか大切なことを打ち明けたいと思った。
でも本当は話すのが得意ではなくて、引きこもって占い魔法を使ったり本を読んでひとり妄想にふける方が気楽だ。
まして自分の秘密など、なおさら誰かに打ち明けたりはしない。
そんな内にこもる性格だったのに、自分も同じ境遇だと伝えたくなった。
「実は、あの、わたくしも塔から出ると死ぬ呪いにかかっています」
洗って綺麗になった銀色の長い髪を手櫛でとかす。
「金色だった髪が、の、呪いにかかったときに銀化しました。まだ塔から出ると即死する呪いは継続していると思います」
呪いにかかっているという告白に、白い飛竜のランスロットがグルルと唸る。
「その銀色の髪は呪いの影響だったか。ただ大人しく幽閉されているのだと思っていた」
スピアも同意するようにうんうんと頷く。
「それで腹が減っても着替えたくても塔から出なかったんだな。俺なら速攻で抜け出す状況なのに、ミレーユは生真面目だなって思ってたんだ」
どうやらふたりとも、幽閉という処分を従順に守って塔から出ずにいたと思っていたらしい。
そんな訳がない。
空腹や不潔は想像を絶するほどに苦痛で、とても耐えられるものじゃない。
塔から出たら死ぬからどうしようもなかっただけ。
「わ、わたくしだって死の呪いがなければ、と、とっくに抜け出していますよ」
幽閉される前だって、貴族令嬢としてするべき社交をまったくしていない。
屋敷に引きこもって好き勝手していたくらいだ。
真面目に幽閉されているなんてあり得ない。
ミレーユが得意そうに「抜け出す」と答えると、白い飛竜姿のランスロットが苦笑いした。
それを見たスピアもげらげらと声を出して笑う。
「あはは。よし、じゃあ三人とも呪い仲間だな!」
彼はそう言いながら、ミレーユの肩とランスロットの翼に触れた。
塔から出られなくて物が手に入らないので、総合運を上げるのには限界があった。
でもふたりの協力が得られるなら、呪いの解除を成功させられるかもしれない。
占い魔法で塔から出る未来を視たので、死の呪いが解呪されるのは分かっている。
そして解呪には塔から連れ出してくれる結婚相手が不可欠らしい。
でもその男性の顔は見えなかった。
一体誰が未来の夫なのでしょう。
目の前のふたりをじっと見る。
ランスロット殿下は飛竜の姿。
でも彼の呪いが先に解ければ連れ出してくださるかな。
それともスピア様が今の人の姿で連れ出してくださるのかしら。
あれこれ考えすぎて訳が分からなくなってきた。
恋愛運がカンストしているので、結婚を望めばきっと上手くいきます。
でも……。
占い魔法で視えた未来のミレーユは、男性に手を繋がれて幸せそうに笑っていた。
あれは心からの笑顔だった。
だから大好きな相手で間違いない。
それは結婚相手と相愛になるということ。
「お相手はわたくしがこれから好きになる人」
つぶやくと同時につい意識してしまう。
ミレーユの視線に気付いたランスロットが飛竜の顔を器用にかしげた。
「何だ? どうした、ミレーユ」
「え、あ、いえ」
コホンと咳払いしてから何でもないように表情を変える。
「お、おふたりが元の姿に戻りたいと願うように、わ、わたくしも塔から出ることを諦めていません。一緒に総合運を上げて、は、祓い魔法で呪いの解呪を成功させましょう!」
「ああ、そうだな」
「おう!」
ガラにもなく前向きに呼びかけるとふたりとも力強く応えてくれた。




