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その二十二

 座り込んで混乱するミレーユへ、人に戻ったファラシュ……ランスロットが手を差し伸べて立たせてくれる。


「スピアは古い付き合いの友人で、こうなったいまも一緒にいてくれる」

「スピア様は友達思い、なのですね」


 ミレーユの言葉に赤い飛竜姿のスピアが胸を張る。


「だろう? もっと褒めていいぜ」


 そのふざけた返しに気が緩んでフフと笑いを漏らしたところで、急にランスロットの体が光り出した。

 まばゆい光が放出され、ようやく夜の闇に慣れた目がまたくらむ。

 そして徐々に輝きが収まると彼は元の白い飛竜に戻っていた。


 目の前には白銀の飛竜と赤い飛竜が並んでいる。

 先程の美形男子が並んだ絵とは違って二頭の飛竜が並ぶ光景は荘厳で壮観で、そしてとても美しかった。


 もしも女性の飛竜がこの光景を見たら、きっと惹かれてしまうのでしょうね。

 二頭はいずれも精悍な顔つき、大きく立派な翼、締まった体のどれもが芸術的で完成されていて少し見入ってしまった。


「ミレーユ。私は本当の姿……人間に戻りたい。占い魔法で協力してくれないか」


 白い飛竜に戻った彼の口調はとても丁寧で、だけど余計に切実さを感じさせた。


「……殿下のお力になれると思います」

「本当か⁉」

「わ、わたくしは、呪いを解呪できる祓い魔法を知っています」


 古来より祓占術士は現状や未来を占うだけでなく、祓うことで不可視な力へも対抗してきた。

 まとわりつく思念に干渉するのが祓占術の本質。

 呪いを解く祓い魔法は祓占術の範ちゅうに入る。


「ではすぐに頼めるか⁉」


 白く精悍な飛竜の顔がずいとミレーユへ近づく。


 これまでなら他人に近づかれると気になってすぐ離れていた。

 けど、なぜか彼から距離を詰められても嫌な気はしない。

 それどころか困っている彼の力になりたいと思った。


「呪いとは相手と押し付け合うものです。だから解呪を成功させるには、呪いをかけた相手よりも自分の総合運の方が高い必要があります」

「総合運?」


 大好きな祓占術の話になって気持ちが入る。


「呪いは解呪しても消滅しません。引き剥がされて不安定な状態になるだけです。それで不安定な呪いは再度自分へ向かう場合と相手術士に向かう場合があってどちらかに憑りつこうとします。呪いが自分と相手のどちらへ憑りつくかは運勢の多寡で決まるのです」

「すまない。いくつか聞き取れなかった。もう一度教えて欲しい」


「え、あ、ごめんなさい。わ、わたくしったらまた早口に」


 今度は意識してゆっくりと説明する。

 どうも自分が好きなことだと調子が悪い。

 いや、流暢に話せているから調子が良いのか。


「ということは、呪いを相手へ返せてやっと解呪成功になるのか」


 呪いの解呪は呪詛返しともいう。

 成功させるには、本人の総合運が相手術者より上向いていることが必須。

 ミレーユもベネディクト女王より総合運が高いと自信を持てれば、すぐにでも解呪に挑む。


 でも失敗が怖くてできない。

 恋愛運はカンストしていても、ほかの運勢が最低だからだ。

 それにいくら未来視で呪いの解呪に成功すると分かっても、いつごろから解呪できるのかタイミングまで分からない。


「では総合運が敵より低い場合はどうなる?」

「解呪に失敗します。再び呪われて大変なことになるでしょう」


「失敗か。失敗しても呪われた状態に戻るなら問題とは思えないが?」

「再度呪われると、元の状態よりひどくなります。殿下の場合、もう一生飛竜のままかもしれません」

「飛竜の里に逃げ込んでいる現状を考えれば、私の総合運は女王に憑依した悪魔より低いだろうな」


 白い飛竜の姿でもランスロットが難しい表情をしていると分かる。

 ただ決して諦めているふうではなく、どうすればいいかを思案しているように見えた。

 隣で黙って聞いていた赤い飛竜姿のスピアが急に光り輝く。

 白くまばゆい光を放ったあと、元の姿である赤髪の騎士に戻った。

 彼は両手の平を上に向けると、困り果てた様子でふうと息を吐く。


「もう戻っちまったか。まあ、いまは人の姿でやることがあるから、しばらくはこのままでもいいんだけどな」

「え、いいんですか? 人の姿で」

「やることが終わるまでだよ」


 彼が言った「やること」が少し気になったけど、スピアは意味深にウインクしただけで説明しなかった。


「あの、スピア様。殿下から、空中で呪いをかけられて、ひ、飛竜にされたと聞きました。も、もしやスピア様が人になってしまったのって……」

「そうなんだ。一年前にランスを乗せて飛んでたときに、俺も一緒に呪いを喰らっちまったんだ」



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