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その二十一

 人の姿になったファラシュ……ランスロットは髪の色こそ違うものの王城で挨拶した凛々しい姿そのまま。

 端正な顔立ちで気品があった。


 驚きました!

 まさか銀髪の男性が王家ハーレイの王子、ランスロット殿下だなんて。


 そもそも銀髪は大変めずらしい。

 その珍しい髪色のせいで隣国の王子とは別人だと思い込んでしまった。


「で、でも、殿下は行方不明だと噂で」

「ああ」


 彼はミレーユの目を見たあとゆっくり口を開く。


「一年前、戦地でスピアに乗って応戦していた。そのとき悪魔と対峙した」

「あ、悪魔、ですか?」


 悪魔という単語が出て思わず聞き返したが、その前に言った「スピアに乗って」というのも意味が分からない。


「空中に悪魔が現れた。正確にはこの国の女王に憑依した女の悪魔だ。奴に異種族になる呪いをかけられて飛竜にされた。それでいまも城へ帰れないでいる」


 なんと彼も呪いを受けたらしい。

 ミレーユの場合、この塔から出ると死ぬという呪いをベネディクト女王にかけられた。

 でもファラシュ……ランスロットは女王から人外になる呪いをかけられたという。


「や、やはり女王陛下は、ひ、憑依されているのですね。悪魔に」

「ああ。その悪魔のせいで先の侵略戦争がおこった」


 隣国との関係は良く、貿易も盛んだった。

 それが戦争などおかしいと思ったのだ。


「で、殿下が本当の姿に戻れてよかったです。でも……なぜ王城へ帰還されないのです?」

「この宝玉で本当の姿に戻れるのは一日三十分が限度なんだ」


「さ、三十分ですか。で、でもいまみたいにランスロット殿下であると証明すれば」

「一度門番と話したが、逆に飛竜が王子の姿を偽っていると思われてな」

「か、髪の色も違いますからね」


 人見知りで会話が苦手な自分が何とか話せている。

 これはきっと相手がランスロットだから。

 飛竜のときから話しやすいと感じた。

 この穏やかな物腰のお陰で以前からあまり緊張しない。


「飛竜の姿でうろつくと騒がれる。下手したら冒険者に討伐されかねない。だからスピアに騎乗してもらって騎竜のフリをしている。それでも白い飛竜は目立つからな。人の多い街などへはあまり行けない」


 白い飛竜の姿では確かにどこへ行っても混乱を招くに違いない。

 しかも白銀のこんなに美しい飛竜だ。

 騎竜ではなく野良だと思われたら捕縛されかねないだろう。

 でもそれでは今日までの一年間をどうやって過ごしたのか。


「い、いつもはどこにいらっしゃるんですか?」

「飛竜の里に身を寄せている。この宝玉も里からの借り物だ」


「里? 飛竜に里があるなんて」

「竜騎士が騎乗する飛竜たちの住む里だ。我が国はその里の飛竜と契約している」


「契約? 飛竜と、ですか?」

「騎竜となる飛竜はそもそも人と対等だ。だから王国が雇用の契約をしている」

「え、雇用?」


 頭が混乱してきた。

 ただでさえファラシュがランスロットだと判明して驚いているのに、飛竜と人が雇用契約だと言われても理解が追い付かない。


「……まさか人を乗せて戦うのは飛竜のお仕事なのですか?」

「彼らは人間のように頭がよくて会話もできる。空を飛べるし体も強靭だ。人と同等以上の存在なのに、馬や牛のように従わせるなどできやしない」


 竜騎士の乗っている飛竜は、竜騎士が従わせているのかと思っていた。

 飛竜は人と対等な存在なのだ。


「飛竜の里にはスピア様と一緒に滞在しているのですか?」


 ミレーユの問いに後ろから声がかかる。


「そうそう。もう一年になるよ」


 いつの間にか屋上に戻っていたスピアが返事をしながらこちらへ来る。

 艶のある銀髪の精悍な男性の横に、さわやかな笑みを浮かべる赤髪の男性が並んだ。

 素敵な男性ふたりが立ち並ぶ姿が眩しい。

 あまりの光景にしばし目を奪われた。


 ひ、人見知りにこの光景は……情報があまりに多すぎて。

 同性すら避けて引きこもっていたのに、目の前の状況が刺激的過ぎです!


 固まっているとスピアが得意そうに腰へ手を当てる。


「しかも俺って里長なんだぜ」

「里長? 里長って飛竜の里のですか?」


「そう、飛竜の里の長だ。凄いだろ」

「凄いです! あ、で、でも……」


「でも?」

「で、でも飛竜の里なのですよね? さ、里長は飛竜がなるのでは?」

「平気。俺、飛竜だから」


 彼がそう言ったあと、首から下げたファラシュと同じ透明の玉が光り輝いた。

 ファラシュのときと同じように強い光が放たれる。

 そして次第に光が収まると、そこには燃えるように赤い飛竜が現れたのだ。


「これが俺の本当の姿だ。格好いいだろ?」


 スピアだった赤い飛竜が左右に翼を広げて大きく口を開ける。


「グギャァアア!」


 咆哮で体がびりびり響く。


 ミレーユは驚いて座り込み、後ろに手をついて赤い飛竜を見上げた。

 彼に害意はない、そうは分かっていても迫力に圧倒されて脅威を感じる。

 スピアの姿は赤く立派な飛竜で、本当に飛竜の里の長なのだと理解した。

 その赤い飛竜の隣には、銀色の鎧を身に着けた銀髪の男性が立っている。

 この銀髪の素敵な男性はファラシュの本当の姿で、ハーレイ国の王子ランスロットだったのだ。


「人が飛竜で、飛竜が人……」


 目の前の出来事にただただ混乱して、座ったままふたりを交互に眺めた。



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