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その十一

 いつもより飛翔高度を下げる。

 逃走する馬車を発見しやすいように。

 背中からスピアが身を乗り出して、森の中に伸びる街道に目を凝らしている。


「ランス、本当にこっちであってんのか?」

「彼女はヴァイアント卿の令嬢。占い魔法は必中だ」


 かの祓占術士一族と我が王家の関係は深い。

 もとは我が国の公爵令嬢が他国との友好のために嫁いだ家系で、数年に一度、ヴァイアント卿が表敬で我が国を訪れていた。

 実質、卿が両国の橋渡し役を果たしていたと言える。


「彼女、服は汚れていたけど美人だな。お前、会ったことがあるんだっけか?」

「ああ。当時とはまるで別人だが面影はある」


 髪色も体型もいまと違うが、塔に幽閉されているミレーユがその人で間違いない。


 初めて会ったのは十年前の十才になった年。

 彼女が八才のときだ。

 ヴァイアント卿はそのときから、訪問の際に娘のミレーユを連れて来るようになった。

 彼女の髪は綺麗な金色で、愛らしい表情。

 塔にいるいまとは違ってころころと丸い体型だった。

 おどおどしてよく父親の陰に隠れていたのを覚えている。

 最初、彼女は本当に緊張していて挨拶はぎこちなかった。


「は、は、は、は、初めまして、殿下」


 おそらく極度のあがり症、もしくは人見知りなのだろう。

 なのに彼女は祓占術士の血を継ぐ侯爵家の次期当主。

 なので、ヴァイアント卿に連れられてここへ来ている。

 人付き合いが苦手で社交をしたくないのが伝わってきて、同情とともに少しの親近感が湧く。

 彼女は終始緊張した様子でつらそうに見えた。

 幼い来賓に気遣いをするのも年の近い王子の役目と思って話し掛ける。


「ミレーユ様、よくぞ来てくれた。大人ばかりの社交に同席して疲れたであろう」

「え、あ、あ。そんなこと、ないです」

「どうぞ無理せず、楽に話して欲しい」


 自分の方が年上で、地位も上。

 社交も彼女より慣れているつもりでいた。

 まあ社交は強制されて慣れただけだが。本当は嫌いだ。


「はい、殿下。あ、あの」

「なにか?」

「わ、わたくしと話すときは、その、どうか自然体で。殿下も」


 気づかれた。

 王族らしく振る舞おうと、好きではない社交を上手くやろうと無理しているのを。

 彼女は単に話を合わせたのではない。

 人のことをよく見ているのだ。

 常に相手の仕草や表情を視線で追って気にしていた。


 たぶん彼女も同じタイプらしい。

 相手を気遣いし過ぎるのだ。


 そう思ってから、急に彼女が気になりだした。

 貴族は誰も彼も主張が強い。

 それは令嬢であってもそう変わらない。

 慎ましいようでも皆しっかり自分を伝えるし、むしろ貴族としてそう教育される。

 でも彼女はそうではないようだ。


 知りたいと思うと会話が楽しくなってくる。

 なるべくミレーユが答えやすいよう話題を考え、傷つけぬようソフトに話を振る。

 するとこちらの配慮に気づいたのか、嬉しそうに笑ってくれた。


 その後も彼女は表敬で何度か城を訪れた。

 そして最後に会ったのは二年前の十八才になった年、彼女が十六才のときだ。

 庭園を案内して数時間後、パーティで再び顔を合わせたら、悩みを抱えていることを見抜かれた。


「あ、あの殿下。もしや、な、何かお悩みですか?」

「何? 分かるのか⁉」

「わ、わ、わたくしでよろしければ、お、お力になれるかもしれません」


 ミレーユとの再会を楽しみにしていた。

 悩みを聞いて欲しかったからだ。


 立場上、自分から彼女に会いに行くわけにもいかず、ひたすらにこの日を待ちわびていた。

 彼女の国の王が崩御して弔問したときも、その娘の王女が戴冠して祝宴に招かれたときも、ミレーユと会うことは叶わなかった。

 だが今日やっとまた会えた。

 その彼女が相談に乗ってくれると。


 お茶の準備をするように年配の侍女へ伝える。

 パーティを抜け出して彼女を自分の部屋へ案内した。

 ミレーユが御付きの侍女を連れて緊張した様子で部屋へ入る。


「あの、おま、お招きありがとうございます」

「いや気にしないでいい。それより、私が悩んでいるとなぜ分かった⁉ 占い魔法か?」


「殿下とは、えと、その、何度かお会いしているので」

「違いに気づくほど私の顔をよく見てくれているのか」


 すると、みるみるミレーユの顔が真っ赤になる。


「あ、悪かった」


 顔の赤い彼女を見て自分の顔が熱くなる。

 顔を覚えていると返事で分かるのに、嬉しくてわざわざ確認したことを後悔した。

 ふたりで黙って突っ立っている間、お互いの侍女がにこにことお茶の準備をしている。

 それがどうにも耐えられず、空気を変えるためにそそくさとミレーユへ椅子を勧めた。


「で、どのように力になってくれるのか」

「カ、カードの占い魔法を使います」


 彼女は自分の侍女からカードの束を受け取って呪文を唱えた。

 カードの裏面には同じ模様が描いてあり、呪文に反応して青く光っている。


「殿下。お悩みを思い浮かべながらこのカードを混ぜていただけますか」


 急にミレーユの目つきが変わった。



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