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7. 領主会談2

 改めて、スライムが私とヴィオラに体を伸ばし、会話が出来る状態になる。


 「それで、君がこの場を望んだということだが?」


 いつまでも様子見をしていても、埒があく訳でもない。スライムの望みなどわかる事もなし。直接聞けるならば、聞いてしまったほうがよいだろう。もちろん、叶えられる事とそうでない事はあるが。

 そうして問いかければ、スライムの方も素直に言葉を吐き出す。


 「不躾でなんですが、この街のそばに、開拓村を作る許可を貰いたくて」


 飛び出てきた言葉には疑問しか無かった。なぜいきなり開拓村なんてものが出てくるのか、モンスターの巣でも作るというのだろうか? 恐ろしい考えが頭をよぎる。その言葉を引き取って、ヴィオラが続ける。


 「いきなりの話になるのですが、知っての通り、呪いの鎧を脱ぐ事が出来るというのは、私達の悲願でした。話が広がれば、ソレが嘘だとしても確認をする為に、すぐにでも彼らが移動する事は間違いありません。逆の立場であれば私もそうしたことでしょう」


 その事実に、頭を抱えたい気持ちを抑えるのに大変な労力が必要だった。呪いの鎧を着用したものの執念は、過去のヴィオラの例を思えば理解できる。理解できるからこそ、それがこの後起きる事だと納得してしまう。力を持った者達が、後先を考えずに集結する。前代未聞故に、それがどの様な事態を引き起こすか、碌でもない想像しか思いつかない。


 「混乱が起きる前に管理してしまおうという事か……だが、それがどうして開拓村という事になるのかね?」 


 「利益に繋がった方がいいでしょう、お互いに」


 スライムがその利益の内容を語る。確かに、金を持つ者達が、勝手に住む場所を作り、生活圏を築き上げる。こちらが何もせずとも、ただ未開地を提供することで、税を差し出してくれるのだ。混乱をなるべく抑えた上で、こちらの意志を反映させた上で、ソレが叶うならいい話ではある。更に、単純な解呪費として得た利益の半分を、迷惑料として支払うと言われれば、濡れた手で麦を掴むようなものだ。だが、それにしたって『戦力が集結する』というのは外聞が悪い。それが『呪いの鎧』という事もだ。然るべき所に話を通さねばいらぬ誤解を生むだろう。


 「ふむ。利益についてはわかった。だが、開拓が失敗した時はどうするのだね?」


 「それについては、普通の開拓が失敗した時と同じ様になるでしょうね」


 離散し、スラムの住人か、野盗へと身を窶すか。


 「そうならないためにも、領主様に一つ確認したい事があって……」


 「ほう? なにを聞きたいのかね?」


 「戦力の派遣って金になりますかね?」


 「それは徴兵ということかい? あいにくとウチの兵力は十分だ」


 「いえ、呪いの鎧戦士団です」


 言葉が出なかった。なんだその『呪いの鎧戦士団』というのは。物騒なことこの上ない。意味がわからない。


 「開拓村に集まるのは、呪いの鎧のエキスパートです。武力で言えば最上級だ。自前の戦力を使い潰すぐらいの厄介事なら、任せてしまえばいい。まぁ、相応に費用は頂く事になりますが」


 それは、悪魔の誘惑だった。呪いの戦士団。ギルドの稼ぎ頭。そう、いつだって彼らへの依頼の列は引っ切り無しだ。その列をすっ飛ばす優先権ともなれば、高位貴族も唾を飲むだろう。


 「だ、だが。そうだ。鎧。肝心の鎧はどうするのだ? 君が食べるのだろう」


 「それも聞きたいことの一つです。余ってないですか、着ていない呪いの鎧。他所から引き受けてもいい。領主様を窓口に、俺達が買って、使い、消化します」


 恐るべき強欲を見た。忌むべきはずの呪いの鎧。それが、価値を生むサイクルに組み込まれる。

 確かに呪いの鎧は、世界中で余っている。壊すことも出来ず、さりとて放置も隠す事も出来ない。誰にも使われぬように管理せざるを得ないのが実情だ。それを一手に引き受ける者が現れれば、数多の有形無形の利益を生み出せるだろう。

 もはや言葉が出ない。言葉を解するスライム、ただの変わり種の生き物と思っていたが、底知れぬ威容を感じる。


 「ヴィオラ……君はそれでいいのかね? かつて呪いの鎧に苦しめられた、被害者の君は」


 「私はもう説得をされました。……確かに思うところはあります。けれども、私達が一番その有用性を知っているのです。そして、私達は、その生き方しか知りません。これから先、いざという時に、その選択肢があるなら、私達の幸福の為に使い潰してやる、そう思えます」


 もちろん、脱げることが前提ですが。とヴィオラは言った。納得する。それはさぞ昏い喜びだろう。


 「そちらの意志はわかった」


 会談する前は想像もしなかった事態に、深く息をつく。並んだ案件を一つずつ思い返す。冷えてしまった茶を片付けさせ、用意された新しい茶を口にする。その間に、考えを纏める。どう考えても、答えは一つしか無い。スライムを、ヴィオラを見て、返事をする。


 「これは、私の手に余る話だ」


 そう、利益も、不利益も、一子爵では持て余す厄介な案件だ。だが、そのまま手放すには……他所に渡す事も望ましくないだろう。


 「だから、私の上へと持っていきたいと思うが、どうだろうか?」


 「それは構いませんが、時間はあまり無いと思います。急かすわけではないですが、ヴィオラの件を隠している訳ではないですし、どこまで伝わっているかもわかりません。でも、できれば俺達は、ドーレス子爵様とやっていきたい。」


 「ははっ、光栄な事だ。わかった。急ぐとしよう」


 「そうだ、手土産と思って用意してたのですが、上の方への説得に使えるかもしれません」


 スライムの言葉に合わせて、ヴィオラが小さな容器を3つ出す。


 「中身は、俺を水に漬けたものです。気になりませんでした? ヴィオラの様子について」


 「……まさか、君が癒やしたというのか?」


 「悪影響があるかもしれませんので、様子を見て使ってほしいのですが。3日ほどの実験では、傷や汚れによく効きましたよ」


 なんとまぁ。確かに気になっていたが、ヴィオラのその状態にも一役買っていたとは。そう思って、ヴィオラを見れば、笑顔で頷く。


 「呪いの服を食べられた後……全身を包まれた後に目を覚ました時にはもう、この状態でした」


 「あらあら……それは……本当なのかしら」


 それまで控えていた妻が、はしたなくも食いつく。


 「薬効も保存期間も実験段階ですが、それも含めて有効活用して貰えれば」


 最後にまた大きな爆弾を残して、今回の会談は終わったのであった。

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