3. 新しい生き方を考える
元・鎧マンこと、ヴィオラは自身の過去を話してくれた。
元々ただの村娘だった彼女は、ある日自身の生命を脅かす存在を排除するために、脱げなくなる鎧(激強)を着ることになったらしい。そして、脱げない鎧の不便さを憎み、脱ぐ方法をずっと探していたらしい。別に五感を失った未来から精神だけ跳躍して来たタイムスリーパーとかではなかったらしい。俺は何も理解してなかった自分を無かった事にして、彼女の半生を労い、鎧を脱いだ未来を寿いだ。よかったじゃん。
「あぁ。ありがとう。本当に生まれ変わったみたいだ」
そう言って笑う彼女の、伸びた褪せた金髪の髪を後ろで纏めてポニーテールにする。粘液体の体は応用が効き、透度や色まで変えられる。それはつまり、今この瞬間、バカには見えない服が生まれる可能性もあるってことだ。やらんけど。
俺がそんなシュレディンガーの服について考えていると、ヴィオラが街へ行きたいと言い始めた。
「鎧の性能に任せてここまで来たから……流石に全裸のままじゃ帰れない。協力してくれないか?」
困り顔で言う美女に、俺は何も考えずに了解の意を示した。
「ありがとう。恩人? に迷惑ばかりかけてしまって済まないと思っている。街に戻ったら必ずお礼をするよ」
そう言って剣を拾って歩き出した彼女に引っ付いて俺達は街へと向かい歩き出した。
道中は危なげもなく進み、その間俺達は色んなことを喋りあった。どうやら、向かってる街に知り合いの領主が居るらしく、報告と迷惑を掛けたお詫びをしたいと言っていた。なんでも命の危機を救った事があるらしく、色々と便宜を図って貰っていたらしい。そんな律儀な彼女になんとなく感心する。
道中、川辺に立ち寄った彼女が、水に写った自分を見て泣き出した事もあった。もう、自分の顔も忘れていた、と涙を流す彼女に、美人でよかったじゃんと言ったら、泣き笑いの顔で本当に? と返された。もちろん。スライムの感想だけどね。と言ったらまた笑っていた。
「鎧が脱げたら、オシャレな服を着たいと思ってた」
そう、秘密を打ち明けるようにヴィオラは言った。俺はおいしい服が食べたいと思った。
そうして何日か二人で歩く内に、何かの畑が広がり、一般異世界人がいるようになってきて、その先に壁が見えてきた。
「お願いがあるんだ。大切なお願いが」
その壁を見て歩みを止めた彼女は言った。
「領主に、君の存在を知らせたいんだ。それと、私の同胞にも」
領主はともかく、同胞? 疑問を投げかける。
「私と同じく、呪いの鎧を着た者達の事さ。呪いの解呪の方法を探す為の共同体、みたいなモノ。誰も答えを見つけられなくて、お互いに憐れみ合うだけの間柄だったけど、それでも慰めにはなったんだ」
そんな彼女の言う、呪いの鎧共同体は、武力という強みで少なからず権力者と既知の仲にあるらしい。実際彼女も、命の危機を救うという形で領主と繋がりを得ていた。そうして、その権力者と権力者は繋がりあっている。彼女が領主に筋を通そうとすると、何処かで俺の存在がバレる可能性がつきまとうらしい。
別にバレて不都合は特に無いが……
「君はその……一応、スライム? なのだろう?」
なるほど。確かに俺の正体はエッチで悪いスライムだ。討伐されるのでは?
「そんな事をしたら、正気を失った呪いの鎧の戦士たちが暴動を起こすね」
なまじ力を持った奴らだからこそ、暴走した時がヤバいという事だ。それじゃあ下手に俺の存在を触れ回ったら?
「同胞全員が一斉にこの街に集結するだろうね……」
集結するクソゲロ汚物の事を考えたら、少しだけ会った事もない領主が気の毒になった。ヴィオラも似たような事を考えていたらしい。
しかし、うーん。そうかぁ。これは一計を案じないとだめかもね。
俺は、いくつかの質問をヴィオラに投げかけて、得られた答えを元に考える。問題になるのは、強大な力をもった呪いの鎧が一箇所に大量に集まる事だ。それだけで一般人には脅威に映るだろう。その上で、呪いの鎧を脱いだ後の人員の処遇だ。帰る場所があればいい。だが、大半は居場所を持たない厄介者だろう。しかし、そんな彼らにも取り柄がある。単純にお金を持っているのだ。彼らは武力を持っていて、この世界ではそれを金に変える事ができる仕組みがある。現にヴィオラもそれなりの額を預けているらしい。それならば、やりようがあると判断する。自分の居場所は自分で作ればいいのだ。
「それはつまり、開拓村のようなものってことか?」
そう、そんな感じ。領主に許可を貰って、この辺に鎧マン達が集まる村を作ればいい。呪い鎧を食べる代わりに、村を作る力と金を出させるんだ。悪さをしないようだったら、ついでに村人になって貰ってもいい。既存住人とぶつかりあう事もないから、やりたい事だって自由に選び放題だよ。
「それは……なんていうかその、魅力的……なのか? それで、その君はどうするんだい?」
俺? その村で養ってくれればいいよ。よく考えたら、俺の主食って服だから、人がそばに居ないといけないんだよ。でも俺、服だけ溶かすスライムだから、討伐されちゃうかもしれないし。だから、その村で鎧を溶かしてご飯を貰う仕事をするよ。そう言うと、ヴィオレは感心した様な顔をして笑う。
「君になら、みんな山盛りの服をプレゼントすると思うよ」
そうだといいね。その為にも領主に協力をして貰えると助かるな。なんだって問題事は起こるだろう。いざという時に権力を頼れるのは大きい。
……そんな心配そうな顔をしなくても大丈夫さ。迷惑を掛ける代わりのお返しはちゃんと考えるさ。
「わかった。それじゃあ、ドーレスの街へ行ってくれるって事でいいね?」
了解の返事を返すと、ヴィオラは壁へと向かって再び歩き出す。いざ、異世界の街ドーレスへ。




