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28. もろびとこぞりて

 その日、この世界に住む全ての生き物が、どこか落ち着かない感覚を覚えていた。

気になることが、なにか無視できないものが。けれど、それは言葉にならなくて。だからその日、誰もが同じ空を見上げたのだった。



 そして、その気持ちを気づきにする事ができた者もいた。

 新作の料理を振る舞う、そんな用向きでたまたまドーレス邸に招かれていたゴート伯爵は、朝の世間話代わりに、その落ち着かない感情をドーレス子爵に伝えた所、彼やその妻も同じ様な感情を抱えている事を知ったのだった。

 そして、同じ様に見上げた空の先に、思い当たったドーレス子爵が、言葉を漏らした。


 「あちらは呪いの鎧の村の方角……ですな」


 「なんと……」


 まさか、という想いとまたか、という気持ちは、果たしてどちらのものか。お互いに顔を見合わせ苦笑を交わしあう。


 「このままでは落ち着きませんでしょう。念の為、様子を見に行こうと思います。ただ、場所が場所ですので、私が行かねばなりませんが……」


 「あぁ、こちらは構わないでくれても構わない……いや、そうだな。私も同行してよいだろうか? いい機会だ。一度、かの村を見ておきたい」


 伯爵の提案に驚いたドーレス子爵だが、聞き返しても伯爵の気持ちは変わらないようだった。


 「よろしいのですか? 馬で行けるとはいえ、森の合間の獣道ですが」


 「あぁ、大丈夫だ。迷惑をかけるが案内を頼む」


 日暮れまでには帰れる道程であるが、もう一泊の用意も必要だろう。

 そうして急に決まった遠出の準備の為に子爵邸は少しだけ慌ただしくなるのであった。






 そうして訪れた呪いの鎧の村を見て、その規模に伯爵は驚いていた。

 まだ拓いて間もない村は、けれども森を切り開いた規模とは思えず、コレまで見た開拓村とはまるで違う様相を呈している。

 流石というべきか、コレが呪いの鎧を纏う者の力を有効活用するという事なのだと、伯爵は感嘆した。


 「これ程迄とはとは思わなかったな。これを見るだけで足を運ぶ価値はあったというものだ」


 「私もそうそう訪れることは無いのですが、ここの発展ぶりには来るたびに驚かされます」


 伯爵へそう返し、周囲を見回す子爵。そうして人を捕まえ、村長のヴィオラへと来訪を知らせる為に遣いに出す。

 少しすると、ヴィオラが走って迎えに来た。


 「出迎えが遅れすみません……本日は来訪の予定がおありでしたでしょうか?」


 「いや、少しばかり気になることがあって来たのだ」


 「久しぶりだな村長。一度この村をこの眼で見たくてな、ドーレスへ無理を言ったのよ」


 「ゴート伯爵……このような村へようこそおいで下さいました。歓迎いたします……と言いたいのですが」


 困った様子を隠せないヴィオラに、ドーレスは訝しむ。いや、あるいは今朝から感じた何かの原因が、やはりこの村にあるのかと考える。


 「その、なんだね。例のスライム絡みかね?」


 隠し事は不要とばかりに切り出せば、ヴィオラも素直に困惑のままに答えを返す。


 「はい……その、ありのままに伝えますが……スライムさんの……『御母上』がいらしています。その、スライムさんもそう認めています」


 「母上というのは、その、母かい? スライムの? いや、その母もスライムなのかい?」


 予想外の言葉に尋ね返す子爵に、ヴィオラは首を横に振る。


 「いえ、一応人の姿をしています。ただ、その……いえ、やはり出来れば直接あって、ご紹介されて頂ければと思います」


 「ふむ……その様子からして、事情があると見受けした。会おうと思うが、やはり少しでも事情が知りたい。包み隠さず聞かせてくれ」


 「伯爵がそう仰られるのであれば……ですが、本当に申しづらく」


 「よい。どのようなものでも不問としよう」


 再三の言葉に覚悟を決めたヴィオラが、顔を上げ伯爵に伝える。


 「現れた御方を『神様』と、かのスライムに紹介されました」


 3人の間に沈黙が降りる。子爵も伯爵もその言葉を咀嚼するのに、少し時間が必要だった。

 そうして、空いた時間を取り繕うように、ヴィオラが続ける。


 「サキュバス国の二ーフェア女王が既に同席されています。彼女は、その言葉を信じたようでした」


 「……二ーフェア女王が認めたのか。なるほど」


 「わ、私もお会いしたのですが、その、信じました。疑いようがありません」


 観念したように言い切ったヴィオラの様子に、2つのまさかという気持ちが生まれる。だが、その言葉が正しければ、今朝からの胸騒ぎの正体に説明が付けられる。

 ゴート伯爵とドーレス子爵は、お互いに顔を見合わせ頷き、覚悟を決めた。


 「すまなかったな。お会いしよう。案内をお願いする」


 わかりました、と頷いたヴィオラは身を翻し、村の奥、村長宅へと足を進め、その後を二人は付いてくのであった。

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