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25. 買い物へ行こう

 自然界における弱肉強食は、決して大きく力が強い者のみを生かす法ではなく、その最たる者が毒性だ。時に捕食者に対する命を賭けた反抗となるソレは、他の条件を覆し、繁栄の種となる力となる。

 だがしかし、執念とは恐ろしい物だ。

 毒がある。それだけで眼の前にある食料を諦めきれない者が、時が、意味が、その毒性を排除する事がある。

 そうして他の種族より多くの食料を糧にする事に成功したその果てに、弱肉強食を超えた『口に入る物を選ぶ』飽食を享受しえたのが、前世の現代人なのだ。


 なにが言いたいかというと、そんな現代人の感覚で、今の食糧事情に挑戦しようなんて片腹痛いってレベルじゃねーぞってことだ。誰だうまいもん集めて食事会しようなんて気軽に言いだした奴。このままだと全員が野イチゴのパイ出してきてもおかしくねーぞ。俺が求めてたのはこう、立食パーティーとかバーベキューとかゆるふわスイーツなんだ。ハードルたけーなおい。あれか、俺が今挑んでいるのは人類史そのものなのか?


 とにかく情報が足りないのだ。半生をさまよっている鎧こと呪いの鎧共同体のメンバーですら、一地方の事しか知らないなんてことがザラだ。

 御当地メニューや特産品どころか、そもそもの植生を調べるレベルの調査になる勢いである。


 それでも諦めるわけにはいかなかった。散々あかねをメシマズ呼ばわりしたくせに、香草焼きの一つも出せない自分が許せなかったのである。あ、和食は無理だ。醤油も味噌もスーパーに並んでるのが常識だった者に醸造なんて説明できるわけがない。出汁の概念が精々だ。ひと手間かけて乾燥させてから煮るとなんかいい感じになるんだよ。


 さておき、指針がなければ動きようもない。先程はああ言ったが、呪いの鎧共同体はこの世界では情報強者なのだ。一般異世界人は大体、自分の生まれ育った村しか知らない。その価値、俺のプライドのために吐き出してもらおうか……


 そういう訳で、娼館の嬢に協力してもらって各地の食事情を気持ちよく吐き出させて欲しいんだよ


 俺は娼館の営業に口を出せる悪いスライムなので、その立場を有効に利用することにした。

 必要な情報は特に、スパイスとなるような物だ。甘み、苦み、辛味、酸味、ハッカや香草など、手軽に味を足せる物は単品でも優秀だし、掛け合わせることで相乗効果を生むのだ。特徴的な味や香りを持つ物の情報をどんなものであれ集めてほしい。


 俺のお願いで動き出したサキュバス達は効率よく情報を収集することに成功した。ドーレス子爵が聞いたら諜報に関して考えを改めるぐらいには優秀な働きっぷりだ。正直ドン引きである。ハニートラップの有用性を異世界でも証明してしまったようだ。



そうして得られた情報を、サキュバス王国情報部(仮)で纏めたものがこちらになります。ご査収ください。

 アポを取ったとはいえ、俺と二ーフェアという魔物と魔族に対し、気軽に会ってくれた子爵に調査結果を渡す。


 「むぅ……隣国の街の名前もあるのか……。それで、これを買い集めればいいのかい?」


 いや、こっちで現地に行って買い集めてこようかと。市場を巡れば掘り出し物もあるでしょうし。サキュバス族の協力があればそれほど時間もかかりませんので。


 俺は人の潜在能力を引き出せる天衣無縫の悪いスライムだ。その力がサキュバス族と合わさった時、夢を渡るサキュバスの転移の力を拡大することも可能になる。その結果がぶらり異世界買い出し旅行だ。スライムバスでお出かけだぜ。


 「サキュバス族の夢渡りか……恐ろしいものだな。それで買い出しの料金の支払い関係での質問と、出来れば料理関係に詳しい人員の貸出か……」


 他国も関わる仕入れだ。量がどうなるかわからないし、こちらは王国貨幣での支払いしか知らないのだから確認しておくのが良いだろう。後は単純に詳しい人が居ればなんとかなるんじゃないかという考えだ。

 できれば新しい事に挑戦できる人がいいな、という方針も伝えておく。


 「人数はどれぐらいまでなら大丈夫なのかね?」


 「荷物自体はうちの娘達に都度回収して貰うし、多分4人くらいまでなら面倒を見れるわねぇ」


 いや多いな。ちょっとしたテロぐらいならできそうな人数だ。子爵も頭を抱えている。サキュバス族を敵に回すのってもしかしてかなりヤバいのか。まぁでも精力を絞りとれなくなるとサキュバス族自体もヤバいし、よっぽどのことがない限り考えているような事にはならないだろう。


 「……ふむ。買い出しはともかく、実地調査の機会と考えれば悪い話でもないな。日を分けて行くのだろう? こことここを後に回して貰えればこちらの準備は整えられるか。金と人員は準備しよう」


 子爵も大概こちらの速度感に慣れてきたのか決断は早い。数日も空けないスケジュールをサクサクと決めていき、簡単な顔合わせまで済ませていく。


 「息子のエレバスだ。支払い他を任せてくれ。本人の見聞を深める為にも同行させたいと思う」


 ドーレスJr、と言うには大きい、成人ぐらいの男性だ。ドーレス子爵から話は聞いているのだろう、こちらに対し侮るような感じも見られない。なんなら、二ーフェアのフェロモンにちょっと過剰な反応を見せてる。大丈夫か、今の二ーフェアは会談用の控えめサキュバスだ。事実、後2回変身を残しているのだ。あるいは旅の恥はカキ捨てなのは異世界共通の文化なのだろうか。なんにせよこれなら快適な旅になるだろう。よろしくね。


 「エレバスです。望外の機会に恵まれた事を感謝します。短い間ですが、よろしくお願いします」


 「あらあらぁ……そんなに固くならないでいいのよ。せっかくのお出かけなんだし、楽しみましょうねぇ?」


 そしてもう一人、屋敷の料理人が下働きを兼業する形で同行するようだ。最後に、諜報要員として日に1~2名の同行を申し出てきたので許可したら顔合わせも終了だ。


 そんな訳で弾丸旅行の体を見せてきた旅行ではあるが、当初の予定通りうまいものが見つかればいいと思う。少なくともあかねに面目を保たねば……。

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