23. そして騒動の後始末を
ひどいストーリーだ。山場も見せ場もクソも無い。ただ、ポッと出のオッサンが斬り殺されて終わるだけで終わってしまった惨劇は、弟子と師匠という関係性から見れば、まだなにかそれなりの物語があったのかもと一抹の希望を感じずにはいられないが、残念ながら、惨劇の実行犯にして弟子のあかねは、『「頂き」に導かれた時の感覚を忘れないうちに』などと言って、素振りをしに行ってしまった。突き詰めた所であかねは所詮あかねであり、人類最強みたいな称号を獲得した所でただの棒振りでしか無かったって事だ。
そんなあかねの状態だが、現在の状態は、ちょっとばかりいい肉体になった程度の変化に留まっている。スライム式エステを受けた状態みたいな感じだ。あの、人類の究極を一歩踏み越えた様な神の理は、人の精神に常に宿すには無理があり、ソレを体現する為には、常時肉体を破壊し続け再生し続けるようなフィジカルを持たなければならないのだろう。要は人には過ぎたる技だって事だ。なので、バフが時間経過で切れる様に、神憑りも収まっていた。良かった。あのままの状態であったら、頭のおかしい棒振り娘が生まれてしまうところであったし、その責任を取って、ヴィオラの力を借りて討伐することも視野に入れなければならなかった。俺の計画性の無さを露呈した形である。いやしかし、Live感……Live感を大事にしていこう……。
そうして、最低限の処理を終えた俺とヴィオラは、合流した二ーフェアと共に一息ついて、これからの事を話し合っていた。
「……それで、この後はどうするのかな?」
差し入れのお茶を飲みながら問いかけるヴィオラは、表面上は普段と変わらないが、その内心はそろそろ俺の行動に呆れていてもおかしくない。ここでそれなりの解決案を出さないと今後の関係がどうなるかわからないと思った俺は、必死に頭を回し発言する。
オッサンと弟子に関しては放っておいていいよ。これはあくまで、『免許皆伝の試練のいざこざ』の範疇の話だし。俺達が弟子の救済なんて考える必要はないさ。もっとも、あかねが世代交代を主張してこの道場を引き継ぐっていうなら、それもあかねの自由だけどな。ただ、そこに俺は協力する気は無いよ。もちろん呪いの剣の解呪もね。
「あかねに責任を全部なすりつけるって事かい?」
いやいや、いかに俺が悪いスライムでもそこまでは言わないさ。逆にあかねがここを引き継ぐと思う? 今なお素振りしてるあのアホが弟子の面倒を見るとでも?
俺の言葉にヴィオラは遠くを見やって、首を振った。
同意を得られた俺は続ける。オッサンが、ばらまいた呪いの剣の責任を取るつもりが無かった以上、俺達が頭を痛める必要は無いでしょ。そんで、解呪の話を聞いて村に来た人についても無視でいいと思うよ。まぁこっちは子爵達の考えもあるから、すり合わせが必要だけど。ウチとしては、知らないの一点張りでいいし、暴れるようなら相応の対応で処分するしか無いでしょ。呪いの武器については破壊で対応できないかな?
「呪いの武器を壊すの? そんな方法があるの?」
二ーフェアが驚いて聞いてくるが、俺はそれに近いものを見ている。あかねが村に来た時だ。呪いの剣で、呪いの鎧を斬り飛ばした。これは呪いの武具の被破壊性を示している。つまり、同レベル以上の物があれば、呪いの武具は壊せるのだ。そして、俺には聖剣を作る力がある。なんだったら、トンカチ、金床……聖なる鍛冶具を造ってもいい。ヴィオラもそろそろ着け外しの面倒な呪いの鎧じゃなくて、聖剣をリサイクルした聖鎧でも着たらいいんじゃない?
「あはは……それは……」
「えぇ……ちょっとまってぇ……」
待たない。そうだよ。最終的に鋳造し直してもいいんだ。呪いの武器を打ち直して、呪いの防具にしてくれたら俺が食べることが出来る。上の方には量産したくない理由もあるだろう。この方法なら証拠が残らないのだ。やりたい放題である。よし二ーフェア。聖剣を鋳造し直して聖なるエロ装備を作ろう。大事なところが発光するタイプの頭の悪い奴。
「あらあら……新しいデザインが生まれちゃうわねぇ……」
「スライムさん……」
ともあれ、証拠を残さないっていう点は、多分子爵も喜ぶ観点になるだろう。早いとこ知らせてあげよう。
俺は勢いで押し切った。
素振りをしていたあかねを呼び戻し、事情を告げる。
「それでは拙者もそちらの村にお世話になるでござるよ」
いやお前、なに当然な顔で転がり込もうとしてるんだよ。うちは開拓村だ。労働力じゃない奴を養う余裕はないんだぞ。
俺は嘘をついた。ウチの村はその辺の領なんぞ目じゃないぐらいに稼げる村だ。ただ、その恩恵をタダであやからせる程甘くはない。えー、貴方はウチの村にどのように貢献するつもりですか?
「むむ……それでは拙者、スライム殿の護衛を」
却下。そんなのいらんわ。うちの村にそんな危険は溢れてない。なんだったらお前が一番危険人物まである。
「えぇ?! それではあの時の剣の理を確かめられないではないでござるか!」
おいヴィオラ、ダメだコイツ。どうしようもないぞ。頭のなか剣の事しかねぇ!
「うん……そうだね、村の見回り衆に加わって貰うのもいいかもね……」
ダメだ……ヴィオラも諦め気味だ……。
そうだ、あかね。ウチの村に来るなら、『剣神』の称号は名乗らせねぇぞ。
「せっかく頂戴したのでござるが……むむむ……仕方ないでござる」
うん? この条件も飲むのか……仕方ないな。『剣人』ぐらいは名乗っていいぞ。剣のことしか考えてないお前には丁度いいだろ。
「なんでござるかソレは……まぁ、貰っておくでござるよ」
納得のいかなそうなあかねではあるが、これ以上話が拗れるのも面倒くさいので、先に伝えておく。
最後に、おっさんの遺品である呪いの剣の扱いについて決めておこう。
とりあえず二ーフェアに持って帰ってもらって、分配は後から子爵も交えて決めようってことで。鍛冶具の原型は先に造っておいてくれてもいいかもね。
「わかったわぁ。それじゃあアレ、全部持っていくわねぇ」
二ーフェアが頷く。
これで、後始末もいいだろう。
呪いの武器の関係で騒がしくなるかもしれないが、それも暫くしたら落ち着くだろう。
あかねというトラブルメーカーになりそうな人物も加わるのはちょっと不安だが、それも平穏な日常のスパイスになればいいと思う。それなりに退屈のしない明日に期待をして、今日をのんびり生きていこう。
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いや、お母さんの自宅訪問は聞いてないかな……




