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20. 快適な旅の途中で

 旅路は順調に進んだ。

 今は野営の焚き火をヴィオラと二ーフェアと囲んでいる。あかねは疲れた体もなんのその、離れた所で素振りをしている。よっぽど聖剣を振れるのが嬉しいらしい。


 「こんなに快適な野営が出来るとはな……」


 焚き火に照らされるヴィオラは呪いの鎧を脱いだ姿だ。

 二ーフェアが替えの呪いの鎧を持ってきてくれるお陰で、定期的に鎧を脱いで、更にスライムマッサージでリフレッシュ出来るので、旅の疲れも殆ど無い。彼女からしてみたらこんな旅は初めてだろう。


 焚き火で煮込んでいるのは、差し入れを使った肉野菜の煮込みだ。俺は服だけ溶かすスライムなので食べられないが、キャンプ飯効果でとても美味しそうに見える。なんだか羨ましかったので、捕食兼マッサージしている二ーフェアの乳を無駄に揺らしてやった。ポヨポヨである。


 「まぁ、うちもスライムちゃんに万が一があったら大変だからねぇ」


 「それでも夜番までして貰えるのは、ありがたすぎて申し訳無くなってくるよ」


 「スライムちゃんにこうやってマッサージしてもらうついでだからねぇ。遠慮しなくていいわよ」


 こうやってマッサージを受けに来るサキュバスは二ーフェアだけではない。そのついでに交代で夜番をしていってくれるので、助かっている。

 浴槽代わりに適当な穴に体を広げておけば事足りるので、俺の負担もほぼ無いしな。


 しかし、どんだけ乳を揺らしても感じる素振りを見せないのは俺の技術不足なのか二ーフェアが強すぎるのか。

 虚しくなってきたので、あかねが戻ってきたのを契機に俺も二ーフェアのマッサージを終了する。ポヨポヨ真拳は一日にしてならず。俺もまだまだ精進が必要みたいだ。


 「あ~……お肉の味が身に沁みるでござるよ」


 あかねはもう狂剣の面影無く、ただのチワワになってしまったようだ。用心棒も夜番も役目を奪われ、旅路の合間に修行と称して剣を振り、出されたご飯を食べる日々。あれ? 俺より良い生活送ってね? 仕事しろ仕事。


 「い、いきなりなんでござるか。道案内とかしているでござろうよ」


 そうかぁ? 今のところただ街道歩いているだけの気もするけどな。まぁいいや。新しい剣の調子はどうなんだ? なんだかんだ以前の剣と違いはあるだろう。


 「違いについてはやはり、もっと振って調整しないといけないでござるね。師匠の所につくまでにはなんとかなると思うでござるが」


 あかねは剣について真面目だった。ある種の才能なんだろう。あるいは教育だ。

 それ以外を捨てられる。そこまで純化するのは容易ではない。そう、コイツは差し迫った危機の排除などではなく、ただ自分の目的の為だけに呪いの剣を許容出来るのだ。そして、よりよい手段が見つかればソレを容易く捨てられる。剣狂い。剣の某の元にはそんな奴ばっかが沢山集まっているらしい。コワいコワい。

 あぁ、でも明日のご飯当番はあかねだからな。その辺はちゃんとしっかりやるんだぞ。


 「わかっているでござるよ。口うるさいでござるなぁ」


 そりゃ、ちょっとでも口出したらぶった斬る様な奴に、何か物申すような奴は他にいなかっただろうな。

 心当たりが有りすぎるのか、罰の悪くなったあかねはモゴモゴ言って口を閉じた。

 まぁ明日は俺も手伝ってやるよ。簡単な飯の作り方なら教えてやれるからさ。


 「え? スライムさんご飯作れるの?」


 そりゃ作れるさ。俺は煮炊きも出来る悪いスライムだからね。足りないのは手ぐらいだな。


 「村じゃあずっとコロコロ転がってるからなぁ……もっと色々教えてくれればいいのに」


 別に黙っていたわけじゃないさ。タイミングが合わなかったっていうだけで。

 村に帰ったら美味しい料理の研究をしてもいいし。でも、お互い忙しい身の上だろう? 俺は適当に誤魔化した。スライム式エステという定職を持っているのだ。趣味以外で色々と抱え込む気はない。


 「じゃあ約束だよ。帰ったら美味しいものの作り方を教えてよ」


 いいよ。せっかくだ。村の財力でいいモン集めて料理大会でも開こうよ。俺は提案した。

 規模を大きくするのは、全員に教える場を作る意味もある。イチイチ個別に教えるよりだったら一気に広まってしまえばいい。どうせ俺には恩恵も何もないのだから。そういう意味じゃ、子爵に来てもらうのも有りだな。後から注文が入っても面倒だしな。


 「あら、面白そうねぇ。私も参加しようかしら」


 「材料の買い出しに協力してもらえるなら大歓迎だよ」


 サキュバスのチート補給線を知ってしまったら、堕落してしまうのも無理はない。人類は宅配サービスの利便性には勝てないのだ。即日配達、配達料無料。その力の前には個人商店は屈さざるを得ないのだ。

 地球式スイーツの約束と引き換えに材料の確保をお願いした俺達は、来る日の宴に思いを馳せて笑顔を浮かべるのだった。

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