19. 世界には旅に出る理由がある
流石に無体が過ぎるとの事で、あかねから引き剥がされた俺はしょうがないので冷静に振る舞った。
自分でも、厄介ファンになっているのは理解している。だがそれでも、生前に対面した時の事を思い返せば敬虔な気持ちが湧いてくる。
なんで、ちょっと挨拶してくるわ。後よろしくヴィオラ。
「えぇ……」
どういう流れでその名を背負う経緯になったかは知らんが、黙って見過ごすわけにはいかない。俺がその生態を丸裸にしてやるぜ。
「待って待ってスライムさん待って。せめて子爵と日程の調整をするから」
えー。だって暫定むっちゃ外道だぜ。とりあえず一回ぶっ転がしてからじゃダメ?
「過去見ないほど殺意高いね……ダメだよ。何をするにも一応調査してからじゃないと、色んなところに迷惑がかかっちゃうからね」
じゃあなるべく早くお願いね。
ヴィオラに無茶を言っている自覚はあるが、衝動を抑えることは出来そうもない。いつもの3倍ぐらいポヨポヨしながらその日を待つぜ。
そうして、出発の日がきた。
イカしたメンツを紹介するぜ!
まず、俺。言わずと知れた天衣無縫。世にも珍しい『服だけ溶かすスライム』だ!
そして、ヴィオラ。村の村長にして、俺の保護者だ。呪いの鎧を身に纏い、腰には聖剣を携えたニュースタイルだ。光と闇が合わさり最強にみえるぜ。今回もご迷惑おかけします!
最後にあかねだ。人を斬るのに躊躇のない頭のオカシイ侍娘だ。溶かした袴はサキュバスさんに作り直してもらったぜ。今回の訪問は「あかねが修行を終えて帰還した」という建前で行うので、メンツに入ることになった。余計な事を言ったらポヨポヨである。
そして特別ゲストに二ーフェアが、転移で参加したりしなかったりだ。面白いことになりそうだからちょくちょく顔を出すって言ってたぜ。サキュバス国のお偉いさんなのにフットワークが軽すぎない? あ、差し入れは歓迎するよ。ありがとう。
このメンツで剣の某さんの監査を実行だ。あ、そうだあかね。
「何でござるか……この剣は拙者の!」
いや、お前の剣は伯爵に献上済みだ。これは子爵のところにあった別の元呪いの剣だ。ガバガバじゃねーかお前の鑑定眼。
まぁいい。今回は修行を終えたという建前があるからな。この剣でもって修了の証にしとけ。無駄に抜こうとするなよ。
「成る程……承知したでござる」
無いとは思うが、万が一にでも持ち逃げしたら全力で捕まえに行くからな。お前の態度も師匠の評価に含まれるんだ。そこの所重々承知しといてよ。
「大丈夫でござるよ。なんなら道中の用心棒も任せるでござる」
抜く気満々じゃねーか。狂剣か。まぁ、働きによっては村での仕事も改善してやらん事もないから、頑張れよ。
「いやいや、拙者は免許皆伝を頂いて正式に剣神の後継者となるので、あの村には戻らぬでござるよ」
おいおい、服役囚がなにか言ってるぞヴィオラ。もうちょっとキチンと躾けたほうが良かったんじゃない? 一回脱がす?
「うーん……まぁ、今回の働きによっては解放してもいいかもね。その代わり、キチンと魔剣持ちの統率をしてもらった方がウチとしてはありがたいし」
えー、生温くない?
「そっちのほうが、子爵達も助かるって話だよ」
あー、うん。それじゃあ仕方ないかぁ。子爵達にはお世話になっているからなぁ。
俺はお偉いさんに忖度した。あかねも感謝しておくんだぞ。
「え? いや、わ、わかったでござるよ」
こうして珍しくガヤガヤと、俺達は剣の某の住む場所へと旅立つ事になったのであった。